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女の子部屋に上がるって青春過ぎる

……………………


 ──女の子部屋に上がるって青春過ぎる



 動物園に一緒に行ってからも、俺と神宮寺は変わらず一緒に勉強していた。


 そして、その話が出たのは動物園に行ったときと同じように割と唐突であった。


「きさちゃん。うちにゲームしに来ない?」


 いつも図書館に行く時間に神宮寺はそのように誘ってきた。


「今日は勉強はお休みか?」


「イエス。たまには遊ばないと。夏休みなんだし」


「それもそうだな」


 夏休みに遊ばなくていつ遊ぶというのか。せっかくの休みを勉強だけで終わらせると言うのは勿体ない。


「今回も俺たちふたりだけか?」


「そうそう。どうよ?」


「別にいいぞ」


 俺は神宮寺の家に再び遊びに行くと言うのが、ちょっとだけ楽しみになっていた。友達と一緒にゲームをするというのは楽しいからな。


 それに、その、神宮寺と一緒にいるのは最近とても楽しいから……。


「オーケー、オーケー。じゃあ、早速行こうぜ~」


「おうよ」


 神宮寺に誘われるがまま、俺は神宮寺の家に。


 夏の青空の下、セミが鳴くのを聞きながら、俺たちは神宮寺の家に向かって歩いた。今年の夏もあまりにも暑いし、少し歩くだけで汗が服に染み出てくる。


「あち~。本当に暑いな~」


「だね~。毎年こんなに暑いんじゃ、死にそうだよ~」


 俺たちは暑さに愚痴を言いながら歩き、神宮寺の家に入った。


 家の中は格段に涼しく、俺たちは思わず息を吐く。


「さてさて。ゲームはあたしの部屋にあるからおいで~」


「リ、リビングでやるんじゃないのか?」


「ゲームそのものはあたしの部屋においてあるんだよ~」


 ま、まさか神宮寺の部屋に入ることになるとは……。というか、入ってもいいんだろうか……。男が異性の部屋でふたりっきりって不味いのでは……。


「どした~? 緊張してるのか~?」


「い、い、い、いや。そんなことねーし!」


 神宮寺は神宮寺だし! 異性とは思ってないし! 気にしないし!


「じゃあ、おいで、おいで」


「お、おう」


 神宮寺の部屋は2階にあり、俺たちは階段を上っていく。それから『光莉』というネームプレートがぶら下がっている部屋に入った。


「……意外に片付いているな?」


 これまでは物ぐさだった神宮寺なので、部屋も散らかっているかと思ったが、そんなことはなかった。部屋の中は綺麗に片付けられており、また掃除も行き届いている。


 女の子らしいピンク色のものはあまりなく、一見すると男子の部屋のようにも見える・そして、アニメや漫画のキャラのアクスタがちょっと部屋を彩り、小さな猫のぬいぐるみがちょんと鎮座していた。


 それから目についたのは以前神宮寺と交換した変なポーズの猫の玩具と神宮寺におすすめしたSF小説だ。それは大切なもののように棚に置かれていた。


「何だよー。汚部屋だとでも思ってたのかー?」


「ああ。散らかってると思ってた」


「酷いやつなだ~」


 俺があっさりと認めるのに神宮寺は肘で俺をつついて不満を表明。


「お前、漫画いろいろ持ってるんだな。凄い量じゃん」


「好きだからね、漫画。少年漫画も少女漫画も両方読むし」


「へええ」


 神宮寺の本棚にはびっしりと漫画が詰まっていた。コミカルなフォントの背表紙で彩られた本棚を俺はじっと眺める。


「きさちゃん、読みたい漫画とかある?」


「そうだな。気になっている本はいろいろとあるんだよな。特に昔の漫画は配信してなかったりするしさ」


「電子書籍も万能じゃないからねぇ」


「そうそう。叔父さんの持ってる本とかも電子版がなかったりするんだよな。それに電子だといつ配信停止になるかも分からないし」


「便利ではあるんだけどね、電子書籍も」


 電子書籍は場所もを取らないし、探すのも簡単だしで便利なのだが、今のところ万能とも言えないのである。


「読みたい漫画があれば読んでいってもいいぞー」


「本当に? なら、ちょっと読ませてもらおうかな」


 俺は神宮寺の許可と得て、漫画に手を伸ばす。本当にいろいろとな漫画があって、俺が読んだことのないものもたくさんだった。


「これ、かなり前にドラマになってたよな?」


「ドラマは見てないけど、漫画の方は全巻揃ってるぜ~」


「面白そうだ。ちょっと読ませてもらおう」


 俺は江戸時代に現代の医者がタイムスリップするという有名な漫画を手に取って読み始めた。この漫画、前に話だけは聞いたことがあったんだけど、実際に読んだことはなかったのである。


 これがなかなかに面白く、俺は思わず読み入ってしまった。


「きさちゃん。ここに座ったら?」


 そんな俺に神宮寺がベッドをポンポンと叩いてそう言う。


 神宮寺の部屋にあるベッドは当然神宮寺のベッドだ。女の子のベッドだ。


「い、いや。俺は床でいいよ……」


「そんなこと言わずにさ。座りなよ~」


 神宮寺はそう言ってさらにポンポンとベッドを叩く。


「い、いいのか?」


「もちろん」


「なら、お言葉に甘えて……」


 俺はおずおずと神宮寺のベッドに腰かけた。尻に柔らかいベッドの感触が伝わってくるが、それ以上のことは分からない。というか、理解しないようにしていた。


「それ、面白い?」


「あ、ああ。面白いぞ。江戸時代でも現代の医学って通じるんだなーって……」


「だよね、だよね。異世界ものもいいけど純粋なタイムスリップものもいいよね」


「そうだな。異世界より身近に感じるしさ。異世界ものも嫌いじゃないけど」


「異世界ものは別腹って感じ?」


「ああ。そんな感じ」


 神宮寺とそうやって漫画の話をしていると緊張感も解けてきた。いつもの神宮寺だと安心できてきたのだ。


 そう、いつもの神宮寺だ。急にイメチェンしたりして見た目は確かに変わったりしたけど、神宮寺は神宮寺である。緊張することはない。友達以上のことは何も起きないのだからな。


「気に入ったら全巻貸したげるよ。20巻もあるからね」


「なら、借りさせてもらおうかな。ここで全部読むのは時間足りなさそうだし」


「オーケー、オーケー。袋持ってくるね」


「ああ」


 神宮寺はそう言って部屋を出ていき、俺は神宮寺の部屋に残された。


「神宮寺の部屋なんだよな、ここ……」


 俺は急に不法侵入してしまったかのような居心地の悪さを感じてきた。部屋の主である神宮寺がいないと落ち着かない。


 そこでドアが小さく開く音がする。


「じっ……」


 ドアの隙間から俺の方を見てるのは、神宮寺妹だ。確か彩華ちゃん。


「……ねえ。あなたってお姉ちゃんの彼氏なの?」


「ぶふっ」


 神宮寺妹が突然言い放った言葉に俺は思わず噴き出した。


「ど、どうしてそう思ったんだ?」


「だって、お姉ちゃん。最近やたらとお母さんから料理を教わってるけど、食べさせた相手ってあなたでしょ?」


「神宮寺が料理を…………」


 神宮寺はわざわざ教わってまで料理を作り始めた。


「それに今日も念入りに部屋の掃除してたし。いつものお姉ちゃんの部屋、汚いんだよ? 掃除しないから」


「ほう。掃除してたのか……」


「だからさ。あなたがお姉ちゃんの彼氏──」


 神宮寺妹がそう問いかけようとする中、ぱちんと小さく頭が叩かれる音がした。


「なーにやってるんだ、彩華? お姉ちゃんの部屋を勝手に覗いたらダメだろ~?」


「けど、お姉ちゃんの彼氏が……」


「きさちゃんはお姉ちゃんの彼氏じゃありません」


「嘘だー! 絶対嘘だ!」


 またぺちんと神宮寺妹の頭が叩かれる。


「うううっ! お姉ちゃんの馬鹿! 暴力反対!」


 神宮寺妹はそう言って怒りを示すと、足早に部屋から立ち去って行った。


「ご、ごめんね、妹が変なこと言って」


「き、気にしてないぜ。全然気にしてない」


 神宮寺の顔は赤くなっていて、やはり神宮寺妹の言っていたことは事実だったのだろうかと思わされる。


 だとすれば神宮寺は俺のために料理を学び、俺が来るから部屋を掃除して……。


「ど、どした、きさちゃん?」


 俺が黙り込んだのに神宮寺がそう尋ねてくる。


「な、な、何でもない!」


 もしかして、いやもしかしなくても、神宮寺は…………。


 ……俺のことが好き……?


……………………

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