夏休みの宿題だって友達とやれば青春
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──夏休みの宿題だって友達とやれば青春
海に夏祭りと遊んですごしたが、本来学生のやるべきことは勉強だ。
俺はそれを思い知っている。宿題になっている課題の山を前にして。
「はあ。ちゃんとやらないと夏休み明けにはテストだしな……」
宿題は手抜きしようと思えば、ネットで調べたりしてあっという間に終わるが、そうすると身につかない。そんなずるをしても結局はテストで試されるのだから、あまり意味がないのである。
ここは地道に自分で解いていくしかない。
とは言え、せっかくの夏にこれは疲れるというものだ。
「だーっ! 本当に数学とか難しくなったよな!」
俺は相変わらず苦手な科目に苦戦中。
そんなときである。家のチャイムが鳴った。
「はいはい」
俺は玄関に向かい、扉を開く。
「よーっす、きさちゃん」
「神宮寺? どうしたんだ?」
家にやってきたのは神宮寺だ。神宮寺は何やら鞄を下げており、にやにやして叔父さんの家を訪れていた。
「ねえねえ。今、宿題やってた?」
「ああ。まさに今やってたところだが……」
「ならさ。一緒にやらない? 図書館でさ」
「図書館で?」
神宮寺が言うのに俺は首をひねる。
「そうそう。家でやるより雑念が湧かなくていいだろ~? 家でやるとさ。どうしてもゲームとかスマホに手が伸びちゃうじゃん?」
「それもそうだな……。確かにいいかもしれない」
神宮寺の主張はもっともだった。俺としても家でやっているとどうしても雑念が湧いてしまい、なかなか集中しずらいと思っていたのだ。
「だろ~? 今から図書館に行こうぜ!」
「ああ。準備してくるからちょっと待ってくれ」
「オーケー」
神宮寺にそう言って俺は勉強のために必要なノートや本を纏めて鞄に詰め込むと、すぐに玄関に戻った。
「行こうぜ。いざ、図書館へ」
「おーっ!」
俺たちは図書館へと自転車で向かう。
図書館に入るのももう慣れたものだ。自転車を駐輪場に止め、それからいつもの静かな図書館へと入る。
「きさちゃんは理系科目が苦手だったよね?」
「ああ。かなり苦手。この夏で克服しておかないと不味そう……」
「なら、頑張ろうかー」
俺と神宮寺は隣同士の席に座り、ノートと教科書、参考書を開いた。
それから俺たちは黙々と勉強を始める。
「きさちゃん。分からないところある?」
「んー。ここの問題の解き方がいまいち……」
「それはこの方程式を使って解くんだよ~。これね~」
「ああ。これを使うのか」
神宮寺は俺にちょくちょく俺に勉強を教えてくれる。数学の問題は特に神宮寺が頼りになってくれた。
「夏休み明けのテストは頑張らないとね。それが悪くても実家に戻されるんでしょ?」
「ああ。そうだな。ちゃんと成績を維持できないとダメだ」
「なら、余計に頑張らないと」
神宮寺はやはり俺が実家に戻されることを心配しているようだった。
「神宮寺。お前、俺が引っ越したら疎遠になると思ってるのか?」
「え……。そ、そんなことはないぞー?」
「でも、気にしているだろ? 俺が実家に戻るのを」
「それはそうだけど……」
少し憂鬱そうに神宮寺は認めた。
「だって、寂しくなるじゃん……。近所にいるからこうしてすぐに一緒に出掛けられるし、近くにいられるのにさ……」
「お、おう……」
神宮寺は真剣な表情で告げるのに、俺は頷くしかなかった。
「け、けどな、神宮寺。別に俺は成績が悪くなって実家に戻っても、こうして一緒に出掛けたりするのはいいぞ。そんなに心配するなよ」
「うん……」
こう言っても神宮寺は寂しそうで、心配そうだった。
これは俺がいい成績を取って実家に戻るのを防ぐしかなさそうだ。神宮寺はいい友人だし、俺の成績をこうして気にかけてくれるし、だからこういう寂しそうな顔をさせたくなかった。
それに今の俺も神宮寺と分かれたくなかった。
「よし。なら、勉強頑張らないとな。いい成績取って何とか叔父さんの家に居候を続けるぜ。俺だって学校が近い方が朝寝てられるから楽だしな」
「そっか。きさちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ」
神宮寺はそう言ってにまっと微笑む。
それから俺たちは夏に出された宿題を全て終わらせるぐらいの勢いで勉強を続け、夕方過ぎまで図書館にいた。
神宮寺は俺の分からない点を教えてくれ、俺も神宮寺に現国などの科目について助言し、そうやって助け合って勉強をした。
そうしていると自然と距離が縮まり、すぐそばに神宮寺がいるというのが当たり前になってくる。しかし、今の神宮寺は美少女で、いい匂いがして、俺はどぎまぎするのを一生懸命隠さなければならなかった。
「よーし。そろそろいいだろう。今日はこれぐらいにしておこうぜ」
「そだね。今日はよく勉強したなぁ~」
「本当にな。夏休みだってのに頑張ったぜ、俺ら」
それでも勉強に集中し、俺たちは1日の成果としては十分に宿題を終わらせた。
「きさちゃん。帰る前にちょっと本を見ていこうぜ~」
「前から思ったけど、随分と最近本を読もうとしてるな、神宮寺」
「言っただろ~。あたしも変わったんだよ~」
「ふうん」
神宮寺は前は漫画しか読まないと公言していたのに、最近では妙に小説などに興味を示している。
もしかして、俺が文学少女が好きだからか? などと自意識過剰になってしまいそうだ。でも、どう考えても神宮寺が文学少女になる様子は想像できなかった。俺の中の神宮寺はそういうタイプではないのだ。
「なら、今度はどういう本がいい?」
「前に勧めてくれたSFが面白かったから、それ系統の話が読みたいかなぁ」
「おお? SFに興味を示したか。趣味のいいやつめ」
「へへっ。SFって難しそうで読まず嫌いしてたけど、なかなかに面白かったぜ~」
俺が勧めた本を神宮寺は楽しんでくれたようだ。何より。
「なら、次はだな。こいつをお勧めしよう」
俺は牧歌的な表紙のハードカバーの本を図書館の本棚から取り出した。
「へえ。何だかファンタジー小説みたいなタイトル」
「これもタイムスリップものだぞ。近未来のイギリスでヴィクトリア朝にタイムスリップして、ドタバタしながら第二次世界大戦中に行方不明になった花瓶を探す話。一応言っておくとハッピーエンドで終わるから安心して読んでくれ」
「ほえー。面白そうだねぇ。難しくはない?」
「そんなに複雑な科学の話が出てくるわけじゃないから大丈夫だと思う。理系が苦手な俺でも理解できたしな」
「それなら安心だ。借りてくるね~」
「楽しんでくれよ」
神宮寺はほんわかした本の表紙と俺の説明を聞いて気に入ってくれたようで、早速本を抱えて貸出カウンターに向かって行った。
それから俺たちは図書館を出て、帰路につく。
「きさちゃんはいろんな本を知ってるよね。流石は文学少女が好きなだけあるぜ~」
「おうともよ。如月さんは小説を愛する文学少年だからな~」
神宮寺がからかうように言うのに俺は気軽にそう返す。
「……そういうきさちゃんのことも好きだぜ?」
「え……。今……」
神宮寺が小声でささやくように言うのに俺は思わず聞き返そうとしてしまった。
「い、いや。文学少年って賢そうでいいな~ってね。ふ、深い意味はないよ~」
「そ、そ、そうか」
神宮寺が慌ててそう言うのに俺はただただ頷いていた。
「お、俺も本に興味を示してくれる神宮寺のことは……嫌いじゃないぞ」
俺も恥ずかしながらそう言っておいた。神宮寺だけに恥ずかしいことを言わせておくのはフェアじゃないと思ったのだ。
「そっか、そっか。うへへへ……」
「何だよ、その気味の悪い笑い方」
「何でもないよ~」
神宮寺はによによしている。こういうところは以前の神宮寺のまんまだ。
「じゃあ、また明日も勉強しに行こうぜ~」
「おう。宿題をさっさと終わらせて遊ばないとな」
「そうそう。高校の夏休みって3回しかないんだからな~」
俺と神宮寺はそう約束を交わし、それぞれの家に帰ろうとした。
「きさちゃん」
そこで神宮寺が立ち止まる。
「絶対に遊ぼうね?」
「あ、ああ」
神宮寺が真面目な表情で言うのに俺は思わず頷いた。
そのときの神宮寺は本当に美少女に見えた。くやしいけど認めないといけない。
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