夏祭りと花火はものすごく青春だ
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──夏祭りと花火はものすごく青春だ
それから神宮寺より夏祭りに関する予定が送られてきた。
早乙女たちとも連絡を取って集合地点を決め、その日が来るのを楽しみに待った。天気予報によれば、その日はちゃんと晴れで打ち上げ花火も見られるだろうということだ。
よくよく考えればゆっくりと打ち上げ花火を見たことはあまりない。夏は暑くて、花火を見に行く気にもならなかったから。
そして、当日。
俺たちは近所の神社の鳥居の傍で待ち合わせた。
「よう、如月。神宮寺は?」
「まだだよ」
暫く待つと早乙女と柊さんがやってきた。早乙女は前に海に行ったときと変わらない格好だが、柊さんは涼しげな桃色の浴衣姿だ。
「どうどう、如月君? 涼しげでいいでしょう?」
「いいね」
柊さんが自慢するのに俺は素直に頷き、そんな柊さんの彼氏である早乙女がちょっと羨ましくなったりもした。
「ごめん、ごめん! 遅くなった~!」
それから神宮寺が姿を見せる。
何と神宮寺も浴衣であった。柊さんとは色違いの空色の浴衣で……正直なところ、滅茶苦茶似合っていた。
「お、おう。えらく気合入れてきたな……」
「せっかくの夏祭りだからね~。楽しまなきゃって!」
「そ、そうか」
神宮寺はノリノリだったが、俺の方は神宮寺に思わず見とれてしまいそうで気が気でなかった。くそう、神宮寺なのに。
「じゃあ、そろそろ行くか?」
「おー!」
早乙女が言いだし、俺たちは神社の鳥居をくぐって夏祭りの会場へ。
夏祭りの会場にはたくさんの出店が並び、大勢の人がお祭りを楽しんでいた。近くでは盆踊りも行われているのか、音楽も流れてきている。
「夏祭りってこんな感じなんだな……」
俺はとても久しぶりの夏祭りの光景にそう呟く。夏の熱気に負けないぐらい賑やかで、活気に満ちた光景は自然と気分が持ち上がってくる。
「ねえねえ。みんなで綿あめ食べよー?」
「いいね~。綿あめってこういう場所ぐらいでしか食べる機会ないし」
柊さんが提案するのに神宮寺が賛同。
確かに綿あめって他の場所で食べるようなものじゃないよな。スーパーにもコンビニにも売ってないし。
そう思いながら俺たちは綿あめの出店に向かい、4人分を注文した。
「わあ。口の周りがちょっとべとべとに……」
「あははは。ウェットティッシュあるよ~」
「ありがと!」
柊さんと神宮寺がそんなやり取りをしている。
綿あめは美味いのだが、食べ方をミスると口の周りが汚れてしまう。だが、こういうのを含めて夏祭りの楽しさなんだろうな……。
「次は何する?」
「タコ焼き食べたーい!」
「オーケー。次はタコ焼きな」
早乙女がそう言ってタコ焼きの屋台の方に向かう。
「きさちゃん。今日はなんだかテンション低い?」
そんな中、神宮寺が少し心配するように尋ねてきた。
「そんなことないぞ。ただ夏祭りって久しぶりだから、思わず見入っちゃってさ。ちょっと観察中ってだけ。楽しんでるかって言われたら、もちろん滅茶苦茶楽しんでるから心配するなよ」
「そっか、そっか。それならよかった!」
俺の答えに神宮寺は安心したように微笑む。
「きさちゃんは食べたいものある?」
「んー。チョコバナナだな。食べてみたい」
「オーケー。柊ちゃんたちの分も買って来ようぜー!」
「おう!」
早乙女たちがタコ焼きの屋台に向かってる間に俺たちはチョコバナナの屋台で人数分のチョコバナナを買うと、それを持って屋台から離れた静かな場所に向かった。
「ここなら花火が良く見えそうだな」
「だね。柊ちゃんたちもこっちに合流するって」
俺と神宮寺は地面に座って夜空を見上げる。
「きさちゃん。楽しんでる?」
「ああ。楽しんでる」
俺がそう答えるのに神宮寺が俺の方に少し身を寄せてきた。神宮寺からシャンプーや制汗剤の匂いがしてくるのに、俺はどきりとした。
「……これらかもこうやって一緒に青春を楽しもうな、きさちゃん」
「あ、ああ。そうだな。せっかくの青春だしな」
身を寄せた神宮寺が俺の顔を覗き込んで言うのに、俺は視線を僅かに逸らしてそう言った。まともに神宮寺の顔を見たら顔が赤くなっているのがばれてしまう。
「何だよ~。どうして視線逸らすんだよ~」
「べ、別にいいだろ。そういう気分なんだよ」
「神宮寺さんの顔が見れないのか~」
「だって、今のお前は……その……凄く……」
可愛いと言おうとして俺は口をつぐんでしまった。
「そ、そ、そっかー」
しかし、神宮寺には伝わったのか、神宮寺も顔を真っ赤にして視線を逸らす。
そして、どこか気まずい空気が流れていたときだ。
「おーい。如月、神宮寺ー」
と、ここで早乙女たちが合流し、俺と神宮寺は慌てて距離を取る。
「タコ焼きかってきたぜ。一緒に食おう」
「俺たちもチョコバナナ買ってきたぞ。花火見ながら食うか」
「おお。いいじゃんね」
俺はチョコバナナの箱を掲げてそう言い、早乙女たちも地面に座る。
「そろそろ花火の時間だけど」
「見えるかね?」
俺たちが空を見上げて待つ中、花火が打ち上げられるのが見えた。
空が色鮮やかに染められ、パーンという音ともに光が広がる。その様子を俺たちは見とれたようにして眺めていた。
「やっぱりいいね、花火」
「そうだな……」
神宮寺のその言葉に俺が頷く。
友達とこうして花火を見上げるのって凄く青春な気がする……。暑さも和らぐような色とりどりの花火を見つめて俺たちはタコ焼きなどを口に運ぶ。
そこでそっと神宮寺が俺の手に自分の手を重ねてきて、俺が驚いてびくりとする。た、たまたま手が重なったにしては随分としっかりと手が重なっている。
「じ、神宮寺?」
「どうした、きさちゃん?」
にししっと悪戯げに笑う神宮寺。
「何だよ、からかいやがって」
「別にからかってないぜー?」
神宮寺はそう言って俺の手を握ってくる。柔らかい神宮寺の手の感触が伝わってきて、俺は思わず声を上げそうになってしまう。
く、くそう。神宮寺の癖に。
「……もうちょっとだけこうしていさせてよ」
「……ああ」
神宮寺はささやくようにそう言い、俺は素直にそれを受け入れた。
俺たちはそうやって花火が打ち上げられるのを手を重ね合って見つめた。
「あー! 花火、凄く綺麗だったね!」
「そうだな、百花。凄くよかった。誘ってくれてありがとうな、神宮寺!」
そうして花火が終わると柊さんがそう言い、早乙女も立ち上がって今回の提案者である神宮寺に礼を述べる。
「いいってことよー。よければまた来年も一緒に来ようなー?」
「ああ。来年も一緒にな」
神宮寺のその言葉に早乙女たちは頷き、帰路についていった。
「俺たちもそろそろ帰るか?」
「そうだな。そろそろ帰ろうかー」
俺も立ち上がり、神宮寺も立ち上がったがちょっと足の方気にした動きを見せる。
「どした?」
「サンダル、ずれちゃったみたいで……。いたたた……」
よく見れば神宮寺の足が靴擦れを起こして赤くなっていた。
「それじゃ、歩くの辛そうだな。背負って行こうか?」
「いいの?」
「お、お前ぐらいなら余裕で背負えるし」
俺は神宮寺の足が痛そうなのを見て、そう提案した。いつもの俺らしくもないが、今日を楽しめたのは神宮寺のおかげだし、放っておけなかったのだ。
「じゃあ、お願いしようかな」
「ほれ」
俺は腰を落とし、神宮寺を背負った。
するとすぐに神宮寺の甘い匂いと体の柔らかさが伝わってくるが、俺はきょどったりしないように耐えた。神宮寺は友達だしと言い聞かせて、俺は神宮寺を異性として意識しないように努めた。
「きさちゃんもさ。やっぱり男の子だよね」
「ど、どういう意味だよ?」
「力持ちってことさ。やっぱり男の子は力があるね~」
神宮寺はそう言って小さく笑う。
もしかしたら神宮寺のことを意識していることに気づかれたかと思ったが、そうではなかったようで少し安心。
「……ありがとうね、きさちゃん」
「……どういたしまして」
俺と神宮寺はそう言葉を交わし、俺は神宮寺を家まで背負って行った。
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