テスト明けに遊ぶのってまさに青春
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──テスト明けに遊ぶのってまさに青春
テストが終わり、自由な時間が再び訪れた!
テストが終わった教室は安堵の声や結果に思い悩む声がし、テストの最中の静寂さはどこかに消え去っていた。喜びの声があれば、悲嘆にくれるため息も聞こえるような、そんな状況だ。
「手ごたえはどうよ、如月?」
全ての科目のテストが終わったときに早乙女が余裕の表情で尋ねてくる。こいつ、本当に余裕そうだな……。
「俺はぎりぎりだよ。成績落ちてないといいけれどな」
俺の方は神宮寺と勉強した甲斐もあって、辛うじて手ごたえがあったという感じでしかなかった。だが、今のところは手放しで安心できるような状況じゃない。
「成績落ちたら実家暮らしに戻るんだろ? 大丈夫か?」
「分からん。成績が落ちないように神に祈っている」
「日本人ってこういうときだけ神頼みするよな」
「そういう民族ですので」
早乙女が冷やかすのに俺は苦笑してそう返す。
「まあ、今さら結果を悔やんでも仕方ない。もうどうにもならないことだ。というわけで、ここは開き直ってお祝いをしようぜ。憂鬱なテストの終わりを祝して打ち上げだ」
「いいね。やろうぜ」
早乙女から楽しそうな提案を聞くのに俺は笑みを浮かべて頷く。
「なら、いつもの面子でいいか?」
「ああ。神宮寺と柊さんも誘うんだろ?」
「もちろんだ。みんなで遊ぼう。場所はどうする?」
「また映画でも見て、それからボーリングでもするか?」
「悪くないな。じゃあ、駅前に集合で」
「了解」
こうして早乙女主導で打ち上げが決まった。
テストの結果がでるのは夏休み明けなので、それまでは執行猶予というところである。それまでの間に遊べるだけ遊んでおこう。
「きさちゃん」
そんなことを俺が考えていたとき、神宮寺が席にやってきた。
「どうだった? 大丈夫そう?」
「分からん。ちょっとは手ごたえがあったけど……」
「そっかー……」
そう言って神宮寺の表情が暗くなる。
「悪いな。勉強いろいろと教えてくれたのに」
「いいよ、いいよ。気にするな~」
それでもすぐに神宮寺はいつもの笑みを浮かべてそう言う。
「それより早乙女からも話があるだろうけど、テストの打ち上げで遊びに行くんだけど予定空いてるか?」
「テスト明けの休みに?」
「そうなる。どうよ?」
「もちろんいくぜ~! 遊び惚けようぜ~!」
神宮寺はノリよくそう返した。こいつが断ることはないと思っていたが、思っていた以上にノリノリだな。
「なら、早乙女には俺から伝えておく。いつもの面子だから気軽にいこうぜ」
「アイアイ、サー」
こうして俺たちはテスト明けの休みに一緒に出掛けることになった。
テストは苦痛だったが、その後には長い休みがあるのはいいことだ。
* * * *
それからテスト明けの休みに俺たちは駅まで待ち合わせをしていた。
「悪い。遅くなった!」
「大丈夫だ。時間丁度だよ」
俺が慌てて待ち合わせ場所に駆け込むのに早乙女がそう返す。
俺は早めに家を出たつもりだったが、着いたのは予定時間ぎりぎりであった。
早乙女は普通のラフな格好をしており、柊さんは涼しげなノースリーブのワンピース姿。そして、神宮寺は半袖のTシャツにデニム地のショートパンツだった。
神宮寺ってこんなにお洒落だったっけ……?
「じゃあ、まずは映画か?」
「そう。今回はホラーじゃないぞ。アクション映画だ」
「いいね」
気をとりなして今日の予定を確認する。
アクション映画は好きだ。派手なアクションを楽しむと言うのは、映画ならではの楽しみだと思う。やはり映画はド派手に動くアクションと爆音を楽しまないとな。小説や漫画では楽しめないことだ。
「じゃあ、早速見に行こうぜ!」
「おー!」
俺たちは駅前の商業施設に入り、映画館に向かう。
チケットを買い、ポップコーンを買い、飲み物を買い、そして上映室へ。
「きさちゃん。隣、いいかい?」
「ああ。いいぞ」
神宮寺は俺の隣に座り、映画が始まるまでポップコーンをかじった。
「楽しみだね?」
「そうだな。評判調べたけど、クライムアクションで凄く面白いらしい」
「それは何より」
それから映画が始まった。
『麻薬取締局だ!』
冒頭から派手なアクション。警察の特殊部隊が重武装で麻薬カルテルのアジトに突入していくシーンから映画は始まった。
激しい銃撃戦が繰り広げられ、それから不穏な光景が広がる。ドラッグの袋の山がつみ上げられており、その傍には腹部に手術痕がある男女と今まさに腹部からドラッグの詰まった袋を取り出されている人間……。
「うわっ……」
その映像に神宮寺が思わずそう声を漏らした。そう言えばこいつもグロテスクな描写は苦手だったな。
「大丈夫だ」
俺は安心させるように神宮寺の手をぽんぽんと叩く。
『ファウスト特別捜査官。ニューメキシコに飛んでくれ。そこで任務がある』
『了解』
イケメンの警察の捜査官が現れて上司にそう言われる。
そこでは麻薬カルテルと国家の非合法な戦争が準備されており…………。
『射撃自由!』
胡散臭いCIAのエージェントが出てきたり、法の順守を求めるFBIの捜査官たちと対立したり、怪しい民間軍事会社が出てきたり、麻薬カルテルとの銃撃戦や危険な駆け引きがありで、どこまでもわくわくさせてくれる映画だ。
『戦争は終わらない……』
しかしながら、クライムアクションらしく終わりは切なく、暗いものだった。
俺はとても満足して神宮寺たちと映画館を出た。
「滅茶苦茶面白かったな!」
「ああ。ああいう派手なアクションものってすげー楽しめるよ」
俺がまず感想を口にするのに早乙女も笑みを浮かべて頷く。
「凄く暴力的だったけど、わくわくする内容だったね」
「うんうん。陰謀があれこれと張り巡らされれててね。けど、終わり方が切ないぜ~。あれって何も解決しなかったってことだろ~?」
柊さんと神宮寺もそう感想を述べた。
女性陣はこういう暴力的なアクション映画は苦手かもと思ったが、そうでもなかったようである。意外に気に入っている様子だ。
「終わりがあんな感じなのはクライムアクションものの宿命だな。あんまりハッピーエンドにすると犯罪を助長するかもしれないし、それに現実の犯罪も簡単に解決するのかもって思われそうだろ?」
「なるほど。きさちゃんはそこら辺考えて見てたんだね」
「いや。俺も見てたのはほとんどアクションシーンだけどさ」
神宮寺が褒めるのに俺は照れてそう返す。
「そうだよな。やっぱり大画面で派手なアクションを見るのはたまらない」
「そうだね、そうだね。まだ今度いい映画かあったら一緒に来ようね!」
「もちろんだ、百花」
ここで人目を気にせず早乙女と柊さんがいちゃつく。お似合いカップルだよな。
「きさちゃん。あたしたちもまた来ようなー?」
「あ、ああ。面白そうな映画があったらな!」
神宮寺がそう言って身を寄せてくる。何故かとても距離が近い。神宮寺からいい匂いがするのに俺の心臓はばくばくと鳴りそうになっていた。
「それじゃ適当に飯食ってから、ボーリングに行くか」
「おー!」
早乙女が仕切って俺たちは以前にも入ったフードコートのファストフード店に入り、そこでバーガーを食べながら映画の感想を語り合った。
「アクションはよかったんだけど、ちょっとグロいシーンがあったよね……」
「分かる、分かるよ、神宮寺ちゃん。私も思わず目を閉じちゃったもん」
神宮寺が少し疲れた様子で語るのに柊さんが首肯。
「でも別に怖くなるようなシーンじゃなかったろ?」
「グロいのは苦手~。だって痛そうじゃん?」
そう言いながらも神宮寺はぱくりとハンガーバーを大きく口を開けて食べる。
「もっと平和的な映画にするべきだったか……?」
「大丈夫。アクションはよかったからオーケーだよ、大和君。でも、今度は恋愛ものとかでもいいかも?」
「ありがと、百花。俺たちの参考になるような恋愛映画を探そう」
今日は早乙女と柊さんがやたらといちゃついている。
「神宮寺は恋愛映画って興味あるか?」
「ん? ちょっとはあるよ。あたしも恋する乙女だからね~」
「はははっ。恋する乙女か」
俺は冗談だと思ってそう笑ったが──。
「これは冗談じゃないよ?」
神宮寺はどこまでも真剣な表情で俺の方を見つめたのだった。
そうして真剣な表情をしている神宮寺はそのイメチェンもあって、もの凄く可憐な美少女に見えて……。
「お、おう。そうなんだな……」
俺はそういうことだけしかできなかった。
神宮寺を異性とは意識しまいとは思っていたけれど、このときだけは神宮寺も女の子なのだと思わされてしまった。悔しい。
「へへっ。きさちゃんもいつか恋する男の子になるよ。絶対にね」
神宮寺は予言めいてそう告げる。
「恋する相手がいればな」
俺はそう言って赤くなった表情を隠すようにハンバーガーに食らいついた。まだ顔が熱くて自分でも赤くなっているのが分かるほどだったのだ。
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