友達の家でディナーは青春かもしれない
……………………
──友達の家でディナーは青春かもしれない
「またな、如月、神宮寺!」
「明日また!」
それから俺たちは図書館で解散し、俺と神宮寺は自宅に帰る。
「今晩はちゃんとうちにおいでよ~」
「その件は本当にいいのか? お邪魔しちゃって……」
「いいって言ってるだろ~? 神宮寺さんのこと、信じてないのか~?」
神宮寺はそう言って俺の頬をつついてくる。
「それならお邪魔するけど……」
「お待ちしておりま-す」
俺は最後に神宮寺に確認したのちに神宮寺に別れを告げて、叔父さんの家に戻った。
「叔父さん? もう帰ってる?」
俺はそう言いながらリビングに向かうが人影はなし。
「叔父さ~ん?」
「どうした、湊?」
そこで仕事部屋から叔父さんがひょいと顔を出す。
叔父さんは40代で、仕事はリモートでやっているタイプの職業。なので実は昼間も在宅していたりする。だからこそ、両親が安心して叔父さんのところに俺を預けたわけなのだが。
「今日さ。友達から夕食に招待されてて。だから、俺の今日の夕食はいいよ」
「そうなのか。分かった、分かった。しかし、夕食をごちそうになるならばお礼はしないとな。これでケーキでも買ってくるといいぞ」
そう言って叔父さんは財布から5千円札を取り出して渡した。
「オーケー。ケーキ買ってからいくよ」
「よそ様の家では行儀よくな」
叔父さんにそう言われて俺は近所にあるちょっといいケーキ屋さんに行くと、そこでケーキを買うことに。
「チーズケーキか、チョコレートか、あるいはイチゴのショートケーキか……」
俺は店のカウンターに並ぶ美味しそうなケーキを眺めて呟く。ここのケーキはお高いだけあって美味しいのだ。
「すみません。レアチーズケーキ2個とチョコレートケーキ2個、それからモンブランを1個それぞれお願いします」
「はい! ありがとうございます!」
ケーキ屋さんにケーキを包んでもらい、保冷材も一緒に入れてもらう。それから俺は自転車で神宮寺の家を目指した。まさに18時になるぐらいであり、時間的にはちょうどいい感じである。
俺はちょっと緊張しながらも、ぽちっと神宮寺の家のチャイムを押す。
「はいはーい」
チャイムとともにすぐに神宮寺が出てきて、俺の姿を見るとにやりと笑った。嬉しそうでありながらも、ちょっとからかってやろうと思っているような、そんな笑みだ。
「おう。これ、お土産な。食後にみんなで食べようぜ」
「別にそういうの気にしなくてよかったのに。けど、嬉しいよ。上がって、上がって」
俺がケーキ屋の箱を手渡すのに神宮寺が自宅に俺を招き入れる。
「お邪魔します」
俺と神宮寺の仲なれど、やはり他所様の食事にお邪魔するというのは緊張するものだ。俺は神宮寺にぴったりついて行って、リビングに入った。
「いらっしゃい、如月君。今日はゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
神宮寺母に出迎えられ、俺は頭を下げる。
「……じーっ……」
そこで視線を感じると神宮寺妹が物陰から俺の方を睨むように見ていた。
「お母さん。これ、きさちゃんからお土産だって。あとで食べよう」
「あらあら。ありがとう、如月君。しっかりしてるのね」
神宮寺と神宮寺母がそうやり取りするのを神宮寺妹は見つめると、ケーキの箱に目を留めて目を輝かせた。物陰から出てきて、神宮寺妹はケーキの箱に向かって駆ける。
「何ケーキ? チョコレート?」
「チーズケーキとチョコレート、それからモンブランね」
「わあっ!」
箱いっぱいのケーキを見て、歓声を上げる神宮寺妹。分かりやすい子だ。
それから神宮寺妹は俺の方に歩み取ってくる。
「お前、いいやつだったんだな。感心したぞ!」
などと偉そうに言う神宮寺妹。その頭を神宮寺がぴしゃりと叩く。
「そうじゃないだろー? ここはちゃんとお礼を言うんじゃない?」
「ううっ……。ありがとうございます……」
神宮寺妹は姉に叱られてそう俺に頭を下げる。
「どういたしまして。ケーキはあとで食べような」
「うん!」
すぐに神宮寺妹は気を取り直し、またケーキの箱を眺めに向かった。
「それじゃあ、お皿並べるの手伝って~」
「あいよ」
俺は神宮寺とともにお皿を食卓に並べる。神宮寺妹もそれを手伝っていた。
「たっぷり食べていってね」
「おお……!」
今日の神宮寺宅の食事は揚げ物だった。からりと揚がった白身魚やエビ、アスパラガスなどの野菜といったメインの料理に、そっと豆腐の味噌汁やほうれん草のお浸しなどがついている。実に家庭料理といった家庭料理だ。
揚げ物なんて手の込んだものは俺も叔父さんも作れないし、買ってきてもやはり揚げたての美味しさには及ばない。揚げたてが味わえるのは、そう言うお店に行っにいったときのみであった。
そうであるが故に俺は神宮寺宅の料理に感動していたのだ。
「いただきます!」
「ごちそうになります」
神宮寺妹がまずそう言ってもぐもぐと食べ始め、俺たちも続く。
「美味しい?」
「美味しいです!」
神宮寺母の問いに俺はそう答える。
カリッと上がった揚げ物は食感がまず嬉しい。それに白身魚とエビのフライに添えられているタルタルソースと一緒に食べると風味が味わってとてもよい。
普段は意識して食べない野菜もここでは美味しいごちそうだ。さくさくとアスパラガスを食べ、ほうれん草のお浸しも美味しくいただく。
「そのお浸し、光莉ちゃんが作ったのよ」
「え? 神宮寺、さんが?」
思わずいつものように神宮寺と呼び捨てにしようとして改め、それから俺は神宮寺の方を見た。神宮寺はによによしながら俺の方を見ている。
「そうなのか?」
「そうだぜ~? と言ってもレンジでチンして切っただけだけどね~」
俺の問いに神宮寺はちょっと自慢げにそう言う。
それすらまともにできない俺からすると神宮寺の料理リスキルは凄いものだ。素直に感心してしまう。
「凄いな。美味しいぞ」
「それぐらいだったらきさちゃんにも作れそうだから、あとでレシピ教えたげるね」
「おうよ」
神宮寺は余裕の態度でそう言い、俺はほうれん草のお浸しを貪りうように食べる。醤油と出汁がしっかりしていてほうれん草のしゃきしゃき感もいい感じであった。
「しかし、光莉ちゃんが料理を作りたいなんて言うのは、ここ最近のことなのよね。前からもっと手伝ってくれたらよかったのに。それとも……」
それとも……?
「うふふ」
神宮寺母はそう言って俺の方をじっと見つめてきた。どういうわけだ……?
神宮寺は最近料理を始めたのか……。その理由は一体なんだというのだろうか……? ある日目覚めたときに家庭的な女性に憧れでもしたのだろうか……?
もしかして、俺のためだったり? と思って内心で苦笑した。そんな都合のいいことを考えるのは童貞臭いぞ、と。
「もうお母さん、余計なこと言わないでおくれよ~!」
「余計なことなの?」
「そうなの、そうなの」
神宮寺はそう言って神宮寺母の言葉を遮る。どこか慌てて、顔を赤くして恥ずかしそうな様子の神宮寺の様子にも俺は首を傾げたのだった。
「ごちそうさま! ケーキ食べていい?」
「食器を片付けたらね」
「やったー!」
神宮寺妹は早々に夕食を食べ終わり、食器を片付けに向かった。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」
俺も食べ終わり、神宮寺と神宮寺母に頭を下げる、
「いいのよ。光莉から聞いたけど、いつもはスーパーのお弁当ばかりなんでしょう? それじゃあ体に悪いわよ。これからも何かあれば遠慮なく食べに来てね」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
とは言え、そう何度もお邪魔するのも悪いだろう。俺としても毎回ただ飯に預かるというのは心苦しい。
「ねえねえ! ケーキ食べよ、ケーキ!」
そんな中で神宮寺妹が無邪気にそうはしゃぐ。
「そうね。いただこうかしら。ちゃんと如月君に感謝するのよ、彩華?」
「はいはーい。ありがとう、お兄ちゃん!」
神宮寺妹は俺よりもケーキの方に関心が強いらしく、まともにこちらを向かずにそう言ったのだった。
それから俺たちはケーキを平らげた。ちゃんと家族4人(神宮寺父はまだ帰っていないがちゃんといる)と俺の分で1つずつ買っておいたので、足りないことも余ることもなく俺たちはケーキを平らげた。
「じゃあ、そろそろ失礼します」
俺はケーキを食べ終えてから、席を立った。
「暗くなってきたから気を付けて帰りなよ~」
「ああ。そうする」
神宮寺はそう言いながら俺を玄関まで見送る。
「今日はありがとな、神宮寺。久しぶりに家庭料理ってやつを味わえた」
「別にいいってことよ~。それよりさ。これからも一緒に食事しない?」
神宮寺は不意にそう提案してくる。
「それは悪いだろう。今日は厚意に甘えさせてもらったけど……」
「そうかぁ。じゃあ、今度はあたしがおかずでも作って持っていくよ」
「お前こそ別にいいって」
「きさちゃんはあたしの手料理、食べたくないのかい?」
神宮寺はそう言ってじっと俺の方を見つめてくる。
「それは……食べたいといえば食べたい…………」
今日のほうれん草のお浸しも美味しかった。あれはどこか懐かしい味だった。また食べたいと思うぐらいに。
「じゃ、いつか作っていくから。期待せずに待っていておくれ~」
「ああ。期待せずにな」
俺は神宮寺が悪戯げな笑みを浮かべて言うのに、そう返した。神宮寺の手料理も美味しいと分かったので、これは期待するなと言われても期待せざるを得ない。
「それじゃあ、また明日学校で」
「また明日ね~!」
俺は神宮寺にそう別れを告げてから、神宮寺がぶんぶんと手を振るのに暫く応じ、帰路についた。
「今日の夕食はごちそうだったな……」
神宮寺宅を離れてから俺はそう呟いた。
……………………