8.
4.の内容を間違って投稿していました(..;)
そこに現れたのは、離宮での幽居しているはずの元王妃だった。美しく着飾った彼女は、魔女のような笑みを浮かべて私たちを見下ろしていた。そしてその傍には陰鬱そうな魔術士が控えていた。
「ああ、本当に忌々しい。でもこれで殺してしまえば──」
「やめよ」
その声は、狂った魔女のようにとても恐ろしいものだったが、それを制止したのは国王陛下だった。血を乱暴に拭っている。
「お前たちはなんてことを……」
「陛下。これは私どもを蔑ろにした罰なのですわ」
「愚かな。《神々の加護》を持つディアンナ嬢に対して、毒を盛るなど……っ、この国は終わりだ」
「なっ!?」
「そんな迷信……っ!?」
恐らく毒を盛ったであろう魔術士は、急に喉を押さえて苦しみ出す。王妃もまた急に苦しみ出して顔を両手で押さえる。
「あああああああ!」
「焼けるっ!!」
「やはりこうなったか。ぐっ……直接的に《神々の加護》であるディアンナ嬢を害する者を、許しはしない」
(私に……そんな力が? でも、それだけ神々に守られているのなら、どうしてお母様は……)
毒の効果が消えたのか、呼吸が楽になった。国王陛下や四大貴族の方々も毒が体内から消えたようで、顔色も良い。
現行犯ということで王妃及び魔術士は捕縛され、一件落着──とはならなかった。
「これはこれは、大変なことになっていますね」
「バナードか」
「兄上……」
すぐさま大勢の騎士たちに私たちは取り囲まれた。騎士全員がバナード王子側に着いたようで、その背後には宰相と騎士団総司令官の姿があった。
「国王陛下。我々は未来あるバナード王子を王位に継がせるべきだと、ここに立ち上がりました」
「騎士団も同じく、バナード王子に可能性を見いだしました。これよりこの国の権限は全てバナード王子に」
(まさか、このタイミングで王位簒奪を目論むなんて!)
「馬鹿な……!」
「兄上を傀儡にして、己の欲望を満たしたいだけだろう!」
四大貴族のうち三家は状況的に不利なのを察してか、アッサリとバナード王子に鞍替えをした。あっという間に勢力図が塗り替えられ、バナード王子は次期国王として返り咲く。もっとも彼自身に国を運営するだけの器も、才覚も無い。
宰相と騎士団長総司令官の傀儡の王として、担がれたのだ。
(このままではこの国は、そう遠くない未来に滅ぶわ……)
「ああ、ディアンナ嬢。酷い目に遭わせたいと思ったのだけれど、直接的にお前に何かすれば母たちのようになるのだろう?」
「……試して見ますか?」
下卑た笑みを向けて、騎士に取り押さえられた私は彼を睨む。
「君の陞爵は無効とし、君は子爵家で静養する。この国に出して影響があっても困るし、危害を加えれば加護が発動するらしいからな。ああ、本当に残念だ。できるだけ死にたくなるようなことをしてやろうと思ったのに」
「……っ」
そう言って笑ったバナード王子は悪魔よりも悪魔らしい顔をしていた。
***
国王陛下及び第二王子が病に倒れたと公表し、来月の当主拝命の儀が中止となる。全てが上手く行きかけていたのに、まるで見えざる手が私の足下を崩そうと暴れ出したかのようだった。
国王陛下が私を当主にすると宣言してから、私は子爵家で監禁された。子爵家で私の監視しているのは父、継母や義妹、使用人たちだ。
(……もしかして、お母様もこうやって監禁してゆっくりと弱らせていった?)
それはなんとなく勘のようなものだった。思えば継母と義妹の嫌がらせは口だけだった。父も物は投げるが私に当てることはない。
(今は、どうにかして状況を打破しないと……)
嫌な予感がするも、私の味方はここには誰もいない。あのお茶会の後、強制的に子爵家に閉じ込められて、外の様子が全く分からない。
アルフレッド様は無事なのか。国王陛下や第二王子はどうなったのか。
不安な日々はある日唐突に終焉を迎える。
最悪な形で。
***
「え、お父様今なんて……?」
「だから、お前ではなくベティーがアルフレッド・エヴァーツ令息との婚約した、と言っている」
子爵家に閉じ込められて一カ月。
嫌がらせなどをすれば、自分達に跳ね返ると学んだ継母やベティーは、私を無視し続けた。
珍しく父と継母のオードリー夫人も一緒で、上機嫌だ。
「アルフレッド令息は、今や神獣の世話役と名誉ある役職に就いておられる。そんな彼を支えるためにも婚約者はベティーとなった」
「なっ──」
婚約破棄、いや婚約解消だろうか。
その言葉を理解するのに、数十秒掛かった。
どうして。
そう思う反面、ついに来たと思う自分もいた。今までアルフレッド様が庇ってくれていたけれど、庇いきれなくなったのだろう。あるいはバナード王子が画策した──。
(王子が何かした──というほうが有り得るわね……)
王城のお茶会に呼び出された日以降、アルフレッド様とは会えていない。でも彼は神獣の世話役として、危害を加えられることはないはずだ。
(アルフレッド様……)
目を閉じればアルフレッド様の笑顔が浮かび上がる。アルフレッドが大好き。
でも今の私はアルフレッド様にとって重荷でしかない。だからアルフレッド様が愛想を尽かした?
神獣様が駄々をこねるのは、私と会うときだけらしい。それ以外の公務の時は聞き分けがいいとか。
(王子の画策ではなく、アルフレッド様に見限られたら……)
そう思うと胸がチクリと痛んだ。
アルフレッド様が私を捨てたとしたら、この国に私の味方は──たぶん、誰もいないだろう。国王陛下も、第二王子も最善を尽くしてはくれるかもしれないが、お二人が無事かどうかも分からない。
「ふふっ、正確に言えば、表向きディアンナは私になるの。ほら、こうすれば」
「……え?」
目の前には私がいた。私の姿、声、そのものだ。
「お父様が素晴らしい魔導具を用意してくださったの。これで表向き私がディアンナとしてアルフレッド様と結婚するのよ。そして貴女は一生このまま子爵家の屋敷で暮らすの。ああ、《神々の加護》で、嫌がらせはできないけれど、この国を出て行かれるのも死なれても困るから、ちゃあーんと面倒は見るわ」
「──っ!?」
ベティーが、アルフレッド様の新しい婚約者?
なんの冗談だろう。アルドリッジ子爵家は亡き母方の家で、父は婿入りしただけだ。ベティーには家督を継ぐ条件が認められていない。
デミアラ王国の家督権限は、血の繋がりの無い者が相続はできないのだ。それを王家が覆したのだろうか。違う。そうじゃない。恐らくバナード王子を含めた派閥が、私の存在を秘匿して、ベティーに演じさせる。
私が邪魔だけれど、排除も追放もできないから──だから、幽閉することで、《神々の加護》という恩恵だけ受け取ろうとしている。咲いて過ぎる考えだった。
「領地運営や事業はどうするのですか? それに王家がそれを許したと?」
婚約解消に衝撃を受けつつも、現実問題としてベティーに教養がないことを指摘すると、オードリー夫人は発狂した。
「まあ、私の可愛い、可愛い娘では無理だとおっしゃいたいの!?」
「貴族学院に入学できず、経営学を学んでいないのであれば不安なのは否めないでしょう。もちろんそういった学びの場がなくても独学で成功した者はいますが……ベティーの場合はそれ以前の問題で──」
「黙りなさい!」
「オードリー、君も落ち着いて。その辺りは私もしっかり考えている。結婚するのはベティーだが、領地運営や事業は今まで通りディアンナにさせれば良い」
(は?)
「まあ、名案だわ」
「元はと言えばお前が神獣様に毛嫌いされ、拒絶されたのが原因なのだ。お前のせいで一族に瑕疵が付いた。それをどうとも思っていないのか!?」
「それは……」
神獣様に嫌われている。この国でその事実が何よりも重い罪だと言い出す。私だけが神獣様に嫌われている──けれどそれは私自身では、どうにもできないことだわ。
神獣様の世話役の妻が、神獣様に嫌われている、など外聞も悪いのだろう。政治的に見ればいらぬ火種を残さないようにするのは理解出来る。でも納得できるかは別だ。
眼前に居る人たちが同じ人間とは思えなかった。
ただの駒。
血が繋がっていても、人はここまで冷酷なことができるのだ。
私は影のように生きて、愛しい人が義妹と幸せそうに笑うのを一番近くで見続けろという。それが私の罰だと言うような視線に、言葉に、態度に、心の何かが音を立てて砕けた。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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