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2.

 

 私は国王から見せて貰った資料を見て、絶句した。自分の噂を流した犯人の名は見覚えしかない。

 自称王太子バナード王子、そして義妹と継母までは特定できたらしく、その犯人に国王陛下も私も頭が痛くなった。よりにもよって身内という。


(お継母様とベティが、ここまでのことをするなんて……)


 アルドリッジ子爵に大恩がある王家の一員が、子爵令嬢を貶める発言や言動の数々が既に問題になっており、四大貴族からも指摘が入ってきている。

 そして同じアルドリッジ子爵家の一員である継母と義妹が、噂をばら撒いていると聞かされて卒倒しかけた。自分たちの首を絞めることだと分からないだろうか。しかも義妹ベティの異性トラブルを私にすり替えるあたり、かなり悪質だ。


「今回のことで、オードリー夫人、ベティ子爵令嬢はアルドリッジ子爵家の正当な継承者が誰なのかを理解していないことがわかった。ディアンナ嬢、次の王家主催のパーティーには、家族全員で参加させるように招待状を送ろう。私に少し考えがある」

「承知しました、陛下」


 アルフレッド様は「婚約者が非難を受けているのであれば、神獣の世話係を辞退します」と宣言して、それはそれで問題になってもいたと国王陛下から教えて貰った。

 彼の出世を考えれば私と婚約破棄をするほうが、彼にとっては良いことなのかもしれない、そう思ってアルフレッド様に手紙を送って話す時間を捻出して貰った。


 後日、王城の庭園。

 そこで国王陛下からガゼボの場所を提供して貰った。そとのカフェやお互いの屋敷では快く思わない者が聞き耳を立てるかもしれない、と配慮してくださったのだ。

 侍女もお茶とスイーツを用意したら、ささっとその場を下がってくれた。


 それからすれ違う形でアルフレッド様が姿を見せる。歩く姿も格好いい。


(見惚れちゃうな……)


 実に三カ月ぶりのアルフレッド様は、少し疲れた顔をしていた。

 黒くて絹のほうに滑らかな髪、深紫色の瞳、整った顔立ちで以前は騎士服に身を包んで居たけれど、今は貴族服で白シャツに、クラバットを撒いていて、黒のトラウザーとコート姿だ。


「ディアンナ!」

「アルフレッド様」


 私を見てアルフレッド様は足早に私の傍まで駆け寄り、片膝を突いて手を差し出す。これ以上無いほど紳士な態度で、彼の手に触れたら途端に彼の腕の中に。


「ディアンナ。ああ、やっと会えた。ディアンナだ」

「アルフレッド様っ」

「うん、もっと僕の名前を呼んで」

「アルフレッド様。……会えて嬉しいです」

「僕も、今すっごく幸せ」


 ぎゅっと抱きしめるアルフレッド様の温もりに、途端に一人で頑張ってきた気持ちが緩んで、涙が零れてしまった。

 それを見てアルフレッド様は「ごめん、ごめんね!」と私の涙を拭って、沢山謝ってくれた。アルフレッド様は何も悪くないのに。

 私のために走り回ってくれているって、手紙にも贈物を以前よりも沢山してくださったし、今日だって時間を捻出してくれたのだ。


「すんすん。あー、ディアンナの良い匂いがする」

「アルフレッド様!? 発言がちょっと犯罪臭っぽいです!」

「ディアンナに会いたいに、会えないなんて地獄だったのだから、ディアンの温もりと香りを忘れないようにしたい」


 冗談ではなくアルフレッド様は本気だ。ちょっと思考が危ない方向に行きつつあるのはストレスもあるのだろう。喜んでいたアルフレッド様はすぐにションボリとしている。


「ディアンナ。巻き込んでごめん。僕がお世話係になったばかりに……」

「それこそアルフレッド様のせいではないではありませんか。……私が下手を打ったばかりに、噂や悪評ばかりが広がって……アルフレッド様こそ王城で酷い目には遭っていませんか?」


 前のめりになって尋ねる私に、アルフレッド様は「そんなことはないよ」と目を細めた。


「ディアンナのほうが大変な目に遭っているのに、それでも最初の僕の心配をしてくれる。そんなディアンナの心が穢れているだの神獣に拒絶されているなんて思っていない。むしろ綺麗すぎて、その魂の輝きに驚き慄いたってほうがしっくりくるよ」

「アルフレッド様」


 全面的に私の味方をしてくれるのは、アルフレッド様と国王陛下ぐらいだ。一人じゃないというのが、これほどまでに心強い。


「じゃあ、婚約破棄は──」

「え、なにそれ? しないよ。絶対に。僕が愛しているのはディアンナ、君だけだ」


 慌ててアルフレッド様は全力で否定してきた。その後でハッとなって、涙目になる。


「もしかして、こんな面倒な男とは別れようと?」

「いえ、私も結婚するのならアルフレッド様と一緒が良いです。……でも、アルフレッド様の出世に響くようなことになるのなら、婚約は」

「しない。確かに神獣の世話係は名誉あることかもしれない。でも僕はそんなものよりも、ディアンナと一緒に居る未来がほしい。だからルナに僕以外の世話係を選んでほしいと言って、国王陛下にも新しい神獣の世話係候補リストを作って貰っている」

「そんなことが?」

「どちらにしても僕一人だけじゃもう限界だからね」


 そう言ってコツンと額を合わせた。確かにアルフレッド様の顔色は悪い。目に隈だってあるのだ。その負担はどれだけのものなのか、私は計り知れない。


「何より年中無休なんて無理。僕は一人しか居ないし、僕はディアンナと一緒の時間を取りたくて堪らないんだ。ディアンナは夕焼けのような綺麗な髪に、檸檬色のキラキラした瞳、とっても可愛らしくて、貴族学院で異性に告白やデートに誘われたらと思うと、気が気じゃない。……いっそ、卒業を待たずに結婚してしまう?」

「ええ!?」


 冗談かと思ったけれど、思いのほかアルフレッド様は本気だった。目が、笑ってなかったもの。それでも将来考えてくれるアルフレッド様が嬉しくて、頬が熱くなる。

 もしこの時、快諾していたら何か変わったのだろうか。

 勢いに任せて、彼との結婚を形にしてしまったら──。

 そうしたら、私の未来は明るかったのかしら。



 ***



「ディアンナ・アルドリッジ。噂が横行しているため、学院内では悪意と敵意が満ちている。国王陛下にご相談し、解決が見込めるまで休学してほしい」

「え、なっ……」

「これも君のためだ。分かってほしい」

「……承知しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


  頭が真っ白だった。

 勉強するのは楽しかったし、特に次期子爵家として経営学や農耕などの知識は必要だと思っていたのに、噂がこんな風に障害になるなんて思いもしなかった。

 休学している間、定期的に課題や授業内容など講師が持って来てくれるが、以前のような感心したような眼差しはなく、どこか訝しむようなものに変わっていくのに、そんなに時間が掛からなかった。

 屋敷も母屋では継母と義妹が煩いので、こぢんまりとした別邸に移動した。父が関わるのは仕事関係のことばかり。この家には味方はいない。

 最初は使用人たちも同情的で、親切だったけれど、いつの間にか横柄な態度が目に付くようになるのに時間はかからなかった。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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