13.
真っ暗闇で皆が私を見ている。遠巻きに、見て、ヒソヒソと同情めいた言葉を掛ける。
『自分が──でなくてよかった』
『──に拒絶されるのが私だったら耐えられないわ』
『でも、お茶もパーティーも、ご一緒してくださらないなんて……おかわいそう』
皮肉と嫌味。そして罪人に言うような心無い言葉。怖くて、暗くて、誰も助けてくれない。誰からも愛されていないことは悲しくて、苦しくて、上手く息ができない。
(もう嫌だ。消えて! 消えないなら私を消して!)
悲鳴にも近い声を上げる。
このまま私は私の心を壊そうとした。でも、それを誰かが止める。
『ディアンナ……そっちにいてはダメだ。こっちに……』
優しい声。温かくて、泣きそうになる。
(誰?)
誰かに手を掴まれて、闇を抜ける。温かい。そういえば、昔誰かに手を引かれて助けて貰った気がする。でもいつだろう。
「……わあ」
気づけば明るい日差しの元にいた。
優しい色合いの雰囲気の良いカフェだ。
誰かと一緒にカフェでお茶をしていて、それがとっても愛おしくて、幸福なことだと分かっているのに、その人の顔が見えない。
聞き慣れた音楽と、向かい合って話す誰かとの時間が愛おしい。店員さんが生チョコタルトと紅茶セットを持って来てくれた。
『ここの生チョコタルトは甘すぎなくて、でも濃厚で美味しいね』
『うん』
『そうだ、今度──』
話している内容はハッキリ覚えているのに、声や、その人のことがすぐに霧散してしまう。
幸せな夢。あるいは過去だったのだろうか。
それならどうして私は手放したのか。
***
「でぃあんな」
「ん?」
ふと目を覚ますと、羊妖精が私に引っ付いて眠っていた。この羊妖精だけは他と違って毛が黒くて、黒紫色の綺麗な目をしている。羽根は銀色で少し飛ぶのが苦手な子だ。
モフモフをぎゅっと抱きしめる。
そうすると「きゅう」と照れて耳が少し赤くなった。そんな姿も愛おしい。
「おはよう、アル」
「おはよう。でぃあんな。……すき」
羊妖精は一日の大半は牧場で寝ているか、草を食べているかだったが、この子は私から離れないでずっと傍にいる。
それが続いて一年も経てば日常となった。名無しなのも可哀想なので、アルと名付けたら飛び上がるほど喜んだ。大袈裟だけれど、とっても可愛いし、一緒に居て落ち着く。
何よりアルが来てから、悪夢も変わっていったように思う。ただ怖いだけじゃない、不思議な夢。
懐かしくて、心地よくて、幸せな一幕。カフェでお茶をする時間がとても印象深い。
「でぃあんな、すき」
「ふふ、私もアルが大好きよ」
「うれしい」
ギュッと抱きしめると、なぜだか泣きそうになる。それと同時に胸が温かくなった。モフモフは最高なのだけれど、それだけじゃない。
でもそれを言葉にするには難しいようだ。
「今日も仕事が終わったら、お茶をしましょう」
「あまいもの」
「ええ。アルがいっぱい手伝ってくれるから、とっても助かるわ」
「でぃあんな。えがお、すき」
アルと一緒の暮らしは、私の世界をより鮮やかに彩ってくれた。一人暮らしも悪くなかったし、リジーとの仕事も楽しかった。
でもアンジェリカもリジーも外から来た人と共に元の国に戻ってしまったのだ。それ以外にも仲良くしていた子たちが軒並み記憶を取り戻して、《最後の楽園》を後にして行った。それは喜ばしい言葉と思う。
(過去を思い出しても、不幸にはならない。その結末を見ることが出来たから……かな)
記憶を取り戻した人たちは誰もが嬉しそうに見えた。リジーは体の傷を嘆いていたけれど、その傷は大切な人を守るために負ったものだと思い出したらしい。過去に救われることもあるのだ。
(私はどうなのだろう)
全部が全部そうではないけれど、そういうこともあるのだと知った。《最後の楽園》は楽しいことばかりで、穏やかで、生きやすい。それ以上を望むのは罰当たりなのだと思う。
(そういえばリジーが私にも会いに来た人がいたとか言っていたけれど、そんなことあったかしら?)
「でぃあんな、かんがえごと? かなしい? つらい?」
「ううん。アルが居るから寂しくも悲しくもないわ」
アルがいるなら二人で生きるのも悪くない。アルなら私を一人ぼっちにしないって、なぜだかそう断言できる。なぜだかは分からないけれど。
それはそれで幸福なのだと思う。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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