1.
入学当初、祝福とお祝いの言葉で溢れていた。
「侯爵家の次男であるアルフレッド様との婚約、おめでとうございます」
「主席で入学なんて、アルフレッド様もきっと喜んでいますわね」
「ええ、そうね。きっと喜んでくれると思うわ」
「主席おめでとうございます。ディアンナ様」
「ありがとうございます」
「主席でしたのに、代表挨拶はどうして五席の方にお譲りしたのですか?」
「殿下が強く希望されましたので……」
一方的に言われたのが正しいが。自称王太子のバナード・アシュベリー・エングルフィールド殿下は第一王子ゆえか、傲慢かつ「自分こそが天才だ」と思っている方だ。今までもなんらかのコンテストでは自分が優勝するよう根回しや脅迫紛いのことをしてきたそうだ。しかしそれを良しとしなかった国王陛下は、貴族学院に入ることを命じた。
結果、入学テストで王太子の成績は第五位。屈辱だったのだろう。
それ以降、何かと横柄な態度を取ることが増えた。側近たちが窘めてくれるので、大事にはなっていないが、殿下への評価は更に下がったのは当然の結果だと思う。
立ち回りが下手で、横柄な態度と自分勝手な振る舞いに、四大貴族の子息令嬢たちは早々に見切りを付けたほどだ。
私とは挨拶程度で、中立を保っている。
貴族学院で出会う人は、私個人ではなく「子爵令嬢」として見て、接してくる。少しでも恩恵にあやかろうと、声を掛けてくる人もいた。好意的な人もいたが、なんらかのメリットがあるから、というのが透けて見える。それでも貴族令嬢として、そつなく対応していった。
(人間関係は面倒な事も多いけれど、でも学ぶ環境としてここは最高だわ)
貴族学院では学ぶことが楽しく、図書室では様々な論文や研究結果などがあり毎日が忙しくも充実していた。
家では継母と義妹贔屓だったけれど、私の評判がよかったことで父は黙り、継母はサロンでの立場を確立し、義妹は私と顔を合わせても無視する程度だった。このまま婚約者のアルフレッド様が婿に入ってくれれば、家の雰囲気も変わるだろう。
そんな風に思っていた。
でもそんな未来は、神獣がこの国に降り立ったことで大きく変わってしまった。
***
神獣のご光臨。
神獣が降り立った国は、厄災や病、魔物の脅威から守り、祝福に満ちて国を豊かにするという。もっともこの国は建国以来、厄災や病に縁遠く魔物の脅威も少ない。さらに加護が加算されればより良くなるだろうと、この国始まって以来の神獣に国民全員が浮き足立っていた。
伝承通り、神獣であられる白虎ルナはこのデミアラ王国に加護を与え、次に世話をする者を指名した。この神獣の世話係は、神獣自身が決める。魂が美しく、清浄であること。
名誉なことだ。
そう本来なら。
まさか私の婚約者であるアルフレッド様が、たった一人のお世話係になるなんて思いも寄らなかった。侯爵家の次男であるアルフレッド様は騎士団に所属していたが、あっという間に王族と同じ部屋を与えられた神獣の世話係に任命。
名誉職だが、立場的には王族と同等の権限が与えられるなど破格の待遇となる。それによってアルフレッド様の株が爆上がりし「子爵令嬢とは婚約破棄すべきでは?」という噂があっという間に広まっていった。
神獣の世話係が複数人であれば、そう言った話題も分散されただろうがアルフレッド様だけ。
私がアルフレッド様と婚約継続できたのは、アルフレッド様自身が私以外と婚約する気はないとハッキリ国王陛下に声明文を出したこと。そして国王陛下も我が子爵家は爵位こそ低いものの建国以前より続く名家であり、権力があること、また代々王家には子爵に大恩があるということもあり、私とアルフレッド様の婚約は国王陛下が認め、後ろ盾となってくださったのだ。
あとは私が神獣様と謁見し、正式に婚約をしたことを告げることで立場を強めようとした。
それがあんな裏目にでるとは。
「きゃ……ううう」
「え」
婚約者のアルフレッド様と一緒に、王城でルナ様に面会をした際、ルナ様が私に怯えて気絶してしまったのだ。まだ幼いので、見知らぬ人物に会うのに驚いてしまったのかもしれない。そう少し暢気に考えていたのだけれど、周囲はそうは受け取らなかった。
『ディアンナ・アルドリッジ子爵令嬢は、ルナ様に嫌われている』
『ルナ様が気絶するほど拒絶されたのだ』
『ディアンナ子爵令嬢がいることで神獣になにかあるのでは?』
なんて噂が立った瞬間、今までの世界が音を立てて崩れ去った。それまで好意的だった友人知人軒並み離れていった。
それまでは噂があっても遠巻き程度だったが、今は本人が目の前に居ても聞こえるように悪口を言う生徒が増えた。
教室での空気も悪くて、それでも今後の領地経営のことを考えたら勉強はしないといけないから、講師からを自主学習の許可を貰い、図書室で資料を読んで独学で勉強しつつ期末テストに臨んだ。
成績は落ちずに上位一位をキープ。
今度は「授業に出てないのに可笑しい」と、また噂が一人歩きし出したので「それは違います」としっかりと意見し、講師にも相談したのだ。噂の出所はバナード王子だったとか。彼は上位十位と以前よりも順位が落ちていた。
学院内の校則を守らず好き勝手しているようだが、生徒会からの正式な処分に憤慨し私の噂を広めることで自分の処分の話題を塗りつぶそうと画策したそうだ。
そのことが王家の護衛者から国王陛下に伝わり、謝罪された。その時に、神獣の件による噂が拡散したことに対して、王家は自体を重く受け止め、隣国や神獣や聖獣の居る国に手紙を出して、対策、調査を行っていると報告書を見せて貰った。
(そんなことになっていたの!? 神獣の件は沈黙を貫くようにとは言われていたけれど……)
問題がどんどん大きくなっていることに、衝撃を受けた。私の悪評と噂が次々と流れてそれを王家が消す。まるでいたちごっこのように噂が沈下されれば別の所で出て、根拠や憶測だけで噂が一人歩きしていくものまであった。
ここまで来ると、私個人でできることはアルフレッド様と今後のことを相談するぐらいだろうか。もし彼が今後のために婿入りを考え直すのなら、その話も詰めないといけない。
(できれば……アルフレッド様と婚約破棄したくない。でも……私がアルフレッド様と婚約しているから、アルフレッド様にまで迷惑を掛けてしまっているのは事実。それにどんなに噂を消しても、仮面舞踏会、お茶会、サロンと色んなところから噂が広がっていて、その発信源も様々……)
そんな折、王城に提出する書類があったことで城への許可を頼んだところ、国王陛下からも話があると場を設けてくださった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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