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第六話 王家の血脈と暗殺者

 イクリの素早くも正確な翻弄とユリウスの強かで重い斬撃が合わさり、圧倒的な優勢を維持していた。

 一人、二人と黒装束が次々に薙ぎ倒されていく。

 戦いは、終局へと向かっていた——


 はずだった。


 刹那、空気が揺らぐ。

 ユリウスは敵の魔術の正体を見抜き、剣を振り抜こうとした——その時。

「——ッ!?」

 不意に別の刃が閃いた。

 敵の一人が捨て身の一撃を放ち、ユリウスの死角からエリオに向かって剣を突き立てようとしていた。

 間に合わない。

 ユリウスが剣を振るうよりも速く——

「…ッ、テメェッ!!」

 イクリが、エリオを突き飛ばす。

 そして、代わりにその刃を受けた。

 鈍い音が響く。

 血が宙に舞い、イクリの身体が弾き飛ばされた。

「イクリ!!!」

 ユリウスの叫びが、戦場に響いた。

 イクリは地面に転がり、肩から脇腹にかけて深い傷を負っている。

 鮮血が砂に染み込んでいく。

「…ハッ、マジで…ギリセーフ……。」

 イクリは苦笑しながら、傷口を押さえた。

 しかし、ユリウスはその光景を見て——完全に動きを止めた。

(まただ……)

 血。 傷。 倒れ伏す仲間。

 ——死んでいった者たちの姿が、イクリと重なる。

 一瞬、過去の光景がフラッシュバックする。

 焦げた木々、崩れ落ちる建物。仲間の最後の叫び。

 自分だけが生き残った、あの時の光景——。

(…くそっ、なんで今…!?)

 ユリウスの手が震える。 目の前の敵が、ユリウスの隙を見逃すはずもなかった。

「今だ!! 仕留めろ!!」

 敵の剣が振り下ろされる。

 ——だが、次の瞬間。

「おい、戦場で余所見してんじゃねぇよ、バカが!!!」

 イクリの怒鳴り声が響いた。

 ユリウスがはっとした瞬間、イクリは負傷した体を引きずりながら、飛び込む。

 ギリギリの距離で、イクリの爪が敵の喉元を掠める。

「ガッ…!!?」

 敵がもんどり打って倒れ、動かなくなる。

 ユリウスは息を呑みながら、イクリを見た。

「…イクリ…お前…!」

「…テメェ、何ボーッとしてやがんだ……?」

 イクリは肩で息をしながら、ユリウスを睨みつける。

「オレが死にかけたくらいで、手ェ止めるんじゃねぇよ…!」

「っ…!」

「お前は、足掻くんじゃねぇのかよ…!」

 ユリウスの瞳が揺れる。

——違う。

 イクリは、まだ死んでいない。 なら、自分がすべきことは一つだ。

「…悪い、取り乱した。」

 ユリウスは震える手をぐっと握りしめ、もう一度剣を構えた。

 その眼には、もはや迷いはない。

 戦いは、再び動き始めた——。剣を強く握りしめ、一歩踏み込む。

 先ほどまでの迷いは消え、ただ前を見据える。エリオを狙う刺客たちはまだ残っている。

 イクリの傷は深い——だが、それでも立ち上がり、戦っている。

 ならば、自分がやるべきことは一つ。

 ユリウスの剣が、光を纏う。

 敵の魔術がまだ続いている。光の刃が虚空に浮かび、ユリウスへと降り注ごうとしていた。

(この魔術——やはり、“実体”が別にいるはずだ。)

 ユリウスは鋭く周囲を見渡す。術者はどこにいる?

「イクリ、時間を稼げるか?」

「…テメェ、オレが大怪我してんの、見えてねぇのか?」

 イクリは苦笑しながらも、鋭い目をした。

「チッ…まあ、やるしかねぇか。」

 イクリは傷を押さえながら、敵の前へと出た。

「…来いよ、クソ共。」

 挑発するように笑い、爪を構える。

「ふざけるな!傷だらけの悪魔風情が!」

 敵が一斉にイクリへと斬りかかる。

 しかし——イクリは、あまりにも速かった。

 戦場に、月光のような軌跡が走る。

 イクリの身軽な動きが敵を翻弄し、斬撃を避け、隙を作らせる。

傷を負っているはずなのに、その戦いぶりはまるで舞うようだった。

 ——その間に、ユリウスは敵の影を見つめる。

 ある一点にだけ、光の刃の影が落ちていない箇所があった。

「…見つけた。」

 ユリウスは一気に駆け出し、剣を振るう。

 ——閃光斬撃ブライト・アナテム

 虚空を裂いた剣は、空間の一点を貫いた。

「ぐッ…!?」

 何もないはずの場所で、血が飛び散る。 次の瞬間、空間が歪み、ローブを纏った男が姿を現した。

「なっ…!?」

「やはりそこにいたか。」

 ユリウスは目を細める。

 敵の魔術師は光の魔術を操り、自身の姿を

“光の屈折”で隠していた。 

魔術そのものを攻撃しても無意味——だから、術者の本体を直接斬るしかなかった。

「貴様…!」

 術者が呻きながら後ずさる。

 だが、ユリウスはもう迷わない。

「お前の魔術は、もう終わりだ。」

——剣閃が、すべてを断ち切る。

 魔術師の身体が崩れ落ちると、同時に光の刃も消え去った。

 それを見届けると、イクリは舌打ちしながら敵の一人を蹴り飛ばす。

「チッ…いいとこ全部持ってくんじゃねぇよ、ユリウス。」

「…お前が時間を稼いでくれたおかげだ。」

 ユリウスは肩で息をしながら、剣を収める。

 残った刺客たちは、術者を失ったことで士気を喪失し、次々と逃げ出した。

 戦いは——終わった。

 エリオは震えながら、二人を見つめていた。

「…助けてくれて、ありがとうございます…!」

 安堵したように涙をこぼすエリオを見て、ユリウスは微笑んだ。

 しかし——イクリは、崩れるようにその場に座り込んだ。

「おい、イクリ……!」

 ユリウスが駆け寄ると、イクリは傷口を押さえながら顔をしかめる。

「いっでぇ…ハハ、マジでやっちまった…」

「無理するからだろう…!」

 ユリウスは慌ててイクリの肩を支えた。 傷は深いが、致命傷ではない。

 それでも、早く手当てをしなければ——。

「とにかく、安全な場所に移動するぞ。」

 ユリウスはイクリの腕を自分の肩に回し、立たせる。

「…悪ぃな。」

「お前がそんな殊勝なこと言うの、珍しいな。」

「バカ、てめぇ…ケンカ売ってんのっ、ぐふっ。」

「うわわ!!!大丈夫ですか!?!?」

 イクリは顔をそむけ不機嫌そう悪態を吐こうとしたが、自らの血で咽せ叶わなかった。

 そんなやり取りをしながら、三人は森を抜けた。

 傷ついたまま、それでも旅は続く。

 聖都へ向かう道の先に、何が待っているのか。

 まだ、誰も知らなかった——。

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