06-01 プロ異能とプロ異能選手
プロ異能バトルリーグ。
通称iリーグ、もしくはプロ異能。
戦争が終わってから数年で発足したプロ異能バトルリーグが、今の形になるまで結構なんだかんだあったらしいけど……今じゃ、名実ともに、この国、いや、世界で一番の人気スポーツ……とも違うけど、一応そう呼ばれてるもの、だ。
一部から六部、合わせると千人近い選手と、五十近いチーム。世界に冠たる企業群がスポンサー、関連産業は日本だけでも総計五兆円規模。異能研究の最先端が集う場でもあるから、学際的な性格まで持っている。新しい異能拡張グッズ――装具も、まずはリーグの試合で試されることが多い。
学会であり展示会であり、そして、それぞれの異能を極めた、プロ異能選手たちのチーム総当たりリーグ戦。でもルールはシンプル。
自分の異能で相手を打ち倒すタイマン勝負。
つまるところ、異能バトル。
「…………はい?」
そんな、プロ異能の選手にならないか、と僕から誘われた一絵さんは「きょとん」の見本みたいな顔で僕を見た。
「見たところ……あんまり……お金に不自由しない……って暮らしでは、ないよね、あの、すいません志水さん、気を悪くしないでください」
「あはは、なんだい若いのに、妙なオトナみたいな口きいて、いいさ、ここに住んでる連中はお金に不自由しないどころか、今日休んだら来週飢える、そういう連中ばっかりだからね」
けらけら笑い、お茶を手に観戦態勢に入る志水さん。
「へ? え? なに? プロ異能? わた、私が? は?」
彼女の周囲に飛び散ってる疑問符が目に見えるようで、少し面白かった。
「そうだ。顔もスタイルも抜群の十代の女の子。妹を養うためウーバーで日銭を稼いでいた貧乏アパートから這い上がってきた、って背景も絶対人気が出る。君がプロ異能選手になったら、確実に、一部のトップを張る選手になれる。そしたら年収一億だって普通の話だし……」
彼女にどう言ったら響くだろうか、と、少し口ごもった瞬間。
「え、わ、私じゃ、ムリに決まって……え……あ、ああ、ああああ!」
彼女が呟き、僕を見て、そして叫んだ。
「……そうだ。今の僕は、三兆円出すのでも、人類全員に腕を二本増やすのも……君に、いかにも人気が出そうな異能をあげるのも、なんでもできる……ま、三つ使ったら死んじゃうそうだけど、一つ二つならオッケーってこった」
「ひぇ…………へ? でも……あのー、三兆円じゃだめなの?」
「僕は両親を亡くし、葬式から行方をくらませた無能の十六歳だぜ。それがいきなり大金を手にしたら、どっから盗んできたって話だ。脱税系異能でもありゃ別だけど」
「で、でも、私に急に異能ができても、なんでだよ、って話に……」
「抜け道が一個だけあるだろ? 知らないとは言わせないぜ、多様さん」
「へ……あ……ああ! 七種異能!」
僕は黙って頷く。
今の異能社会じゃざっくり、効果で異能を分類して呼ぶ場合が多い。戦闘系異能、資源系異能、頭脳系異能なんて具合。人によって大分類小分類が曖昧で、精神系異能の中に頭脳系異能を含んで言う人もいるから、ニュースかなんかじゃあんまり使われない分類だ。
学術的、正式に異能は、一種から七種に分類されている。
特殊な力を持った武器防具を具現化する一種異能、修羅道から、半ば概念系異能に近いトリッキーな能力を持つ六種異能、正典派。
この種類は先天的に決まってて、変えられない。練習したら一種異能が使えるようになった、みたいなことは絶対にない。
人は生まれ持った異能と、死ぬまで付き合っていかなきゃならない。
けど、その例外が七種異能、異分子。
狂人めいた執念や常軌を逸した没入により、後天的に異能を獲得、あるいは変質させる唯一のパターン。僕みたいな無能や、一絵さんみたいな多様が唯一、夢を見られる生き方……まあでも、そういう夢の例に漏れず、実際は不可能に近い……どころじゃない。不可能だ。多い時には年に百人ほど、少ない時には三年に一人(どちらも全世界で、の話)、ってな割合の七種異能を獲得した実例を見てくとわかる。
異能大戦中、街はすっかりゾンビアポカリプスみたいな有様だった中、カードゲームショップで普通にカードゲーム大会を開き優勝した、だとか。
人生のすべてを費やし32bitまでの家庭用ゲームを全収集、そして全ゲームを全クリ、その様子を全配信、とか。
将棋のプロだったが、失着するたびに指を切り落とし、そして名人位をとったその日の夜、なぜか自分で片腕を切り落とた人、とか。
控え目に言って、異分子には狂人しかいない。
こういうのを目指してバカな真似をする多様さんたちは後を絶たないけど……成功したって話は聞かない。研究によって見方は異なるけど、七種異能はそもそも、生まれた時には活性化していない異能因子を持っているだけで、根本的には無能でも多様でもない、という見方が今のところ優勢。ま、要するに、やっぱり、後天的に異能を手に入れる手段なんてねえ、ってこった。クソが。
「でも、でもでも、私にそんな、好きなもの……」
「おいおい、必殺技はもうあったじゃん」
「へ?」
ばかばかし過ぎる名前だけど……周囲とのギャップと彼女のキャラクターを考えれば、ある意味でばっちりだ。自転車の名前もそのまま使えるかも。
「ひきにげパンチ」
「じ、自転車の異能……!?」
「バトルの時はウーバーの時の格好でね。絶対人気出るから」
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一日三回更新、07:10、12:20、19:30。
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