05-03 異能と無能
「嶋くん、ナイフとか銃とか、出しといていいよ。一呼吸で殺せるようにしておいて」
「了解」
「太陽っっ……なんっ……なんでっっ……!!」
「おい黙っとけ、今、彼氏クンのカッコイイシーンなんだからよ」
地面に引きずり倒され、背後から馬乗りにされ、ツインテールをつかまれ首を上げさせられ、ナイフを首に押し当てられる一絵。
「…………先に言っておくと、太陽くん、ここから先も一絵ちゃんの命がかかってるよ。慎重に行動してね。できることなら……あの子には執行したくないから」
そう言うと僕の手をほどき、駐車場の柱に背を預ける。
「……執行、って……」
「私たちが奪われてきたもの……人が人である限り誰もが等しく持っているはずだったもの……人権。人権を、執行する……私たちEQは、目的に向けた障害の排除を、そう呼ぶの」
そりゃあ、なんとも、気が利いてるな。
「ホントならアジトに行ってからがいいんだけど……まだみんなにはやることがあるから、ね。今、ここで、君の周囲一キロに入った人は不可逆的に、異能が使えなくなる異能、それを、君自身に作ってもらうよ。それでいいね?」
「……あなたたちも使えなくなるのは、いいんですか?」
「一流の研究者はフランケンシュタインの怪物を作り出しても、対処する手段も同時に作り出す、だってさ」
そう言いながら、スーツのポケットからこぶし大の装置を取り出し、パチパチとスイッチを入れる。それを自分の腰につけると、一絵を取り押さえてる嶋にも一つ、同じのを投げる。
「装着者に影響する、君の異能を無効化する装具」
「……そ……そんなモンが、あるなら……」
「あはは、あのバカ博士にしか作れないよ、こんなもの。君の異能にだけしか効かないんだもの。あの人は……自分の知能が失われるのを何より恐れてるから、こういうのも作っておいたんだってさ。まだ全然量産化はできてないんだけど」
「おい、どうした坊主? 顔が青ざめてるぜ?」
にやにや笑いながら嶋も、片手でそれをつける。
「た……太陽……太陽……っっ……」
一絵が泣きそうな顔になりながら、僕を見る。
僕は苦笑いしてその顔を見て……見てられなくて、目をそらした。
そうして、深呼吸して、手を掲げる。
「零種、概念系異能、起動せよ」
はっきりしてるのは。
「第一認証『ラプラス』解除……第二認証『マクスウェル』解除……最終認証『シュレディンガー』解除……」
詠唱を口にしながら、僕は考える。
「全耐愚検証破棄。最終起動シーケンス、詠唱へ移行……」
雨咲も嶋も、僕を殺さない、ってこと。
まだ二人は、僕に未練たらたら、気にくわない異能社会をすっきりできるリセットボタンとして、僕を、強烈に求めてる。
「我は求める」
……もう一つ、はっきりしてるのは。
「理なき力を。我は求める。由なき力を。我は求める。願いの具現を。猿が猿に願う猿の夢、故にその名を〈三つの願い〉。その絶対を以て、我、ここに命ず」
三つ目の願いを使った瞬間、僕は死ぬってこと。
「顕現せよ。異能よ、顕現せよ。我が身の中に、余人の能わぬ異能を顕現させしめよ。我ここにその本質を呼び、超常の力の顕現を、我が身の中に求める……」
最後に、はっきりしてるのは。
連中は、一絵なら、あっさり殺すだろうってこと。
たいしてなにか、思うところもないだろう。
今までやってきたみたいに、人権を執行する、ただそれだけだ。
だから、ここからが本番だ。
僕の、一世一代の大舞台。
人生で三度目の本気中二詠唱の、さあここからだ、ってところで……。
「…………雨咲さん、最後に一つだけ確認なんですが」
僕は言った。
「………………いいよ、答えてあげる」
最大級に警戒しながらも、雨咲はまだ余裕を見せて答える。
「異能がすべて消えた世界で、どんな人を無能として扱うつもりですか?」
一瞬、雨咲は答えに詰まった。
けど、僕にはその一瞬で十分だった。
「〈等しくネットのクソ野郎〉、投影モード」
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一日三回更新、07:10、12:20、19:30。
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