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街の外! (キャラ絵あり)

 私たちは、ホナミの後を追って、街の外に出てきた。 海や市場とは反対側の、島の内部へ向かう、森や山があるほうだ。


 この辺りは、上りの傾斜の丘になっている。 辺り一面に草が生えていて、向こうには森が見える。 森の中では、軍隊が訓練をしていたりして、ふつうの人が行くことは、あまりない。


 丘を上っていきながら、歌子ははあはあと息を吐く。 汗がたれて、体にくっつく服が、重く感じられる。

 背後には、少し遠くに、街が見えている。 さっきまで、たくさん階段を上り下りしてきたから、もうへとへとだ。 前を見ると、ホナミは相変わらず、地面から浮いて、ふわふわと楽そうに移動している。 いいなあ、幽霊は、いつも、楽そうで。


「ホナミー! ちょっと早いー!」


 歌子が、疲れた足を動かしながら、耐えかねたように叫んだ。 私たちの街は、低い山の斜面にあるから、階段がやたらと多い。 いつも、たくさん階段をのぼって、足腰は鍛えられてるから、簡単なことでは疲れない。

 ……だけど、幽霊の調子には、やっぱりついていけないことも、ある。


 大声で呼びかけると、向こうでホナミが振り返って、こっちを見た。 生身は遅いなあ、なんて、考えてるのかも。


 頑張って歩く歌子の近くを、さっき憶え屋に来た、はつらつとして元気そうな女の子が、一緒に歩いている。

 この子は、さっき名前を聞いたら、スズネというらしい。


挿絵(By みてみん)



 一緒に丘を上っていきながら、スズネは憶え屋での話の、続きを始めた。


「ねえ、さっきの話だけど、私の死体、見つからなかったの?」

「えっ?! 死体?!」


 前を歩いていた小春が、振り返って大声を出した。 まだ、さっきの話は、小春たちにはしてなかった。 いきなり死体なんて言葉が出てきたから、びっくりしたんだろう。

 話題に反応して、今度はおしゃべりな雨子が、後ろから声をかけてくる。


「あ、なんか分かったの?」


 雨子は、死体が見つからなかった事件のことだって、すぐに分かったみたいだ。 雨子は記憶力がいいから、大体の都市伝説のことは知っている。


 ……でも、どうやって答えたらいいの? 『この子が自分で死んだみたいでさ』って……なんとも言いづらい。


 歌子は、何と答えていいか分からず、まごついた。


「あぁいや、えっと……」

「私、200年前に、自分で死んだの」


 スズネが、あっさりと自分のことを話す。 小春は眉をひそめて、一瞬黙り込んだ。 その言葉の意味を、考えているようだったが、すぐに驚いたように大声を出した。


「ふーん……。 ……えぇっ?!!」

「自分で死んだ?」


 後ろから、大きな体で歩きながら、ミツバが入ってきた。 話の内容が気になったみたいだ、眉をひそめて聞いてくる。

 振り返ったスズネは、頷いて答えた。


「うん。 ……こう、ふいっと高い所から……」


 そういいながら、両腕を広げて、ふっと地面から跳ねるような動作をする。

 ミツバは、まだ飲み込めていないようだった。 考えるような、ぼんやりしているような、複雑な表情になっている。


 その前で、歌子は歩きながらじっと考えていたが、口を開いた。


「でも、200年前って、たしか、ひどい災害が、たくさん起きた時だよね?」


 歴史所で働いている歌子は、各時代のできごとは、ある程度知っている。 200年前といえば、ひどい災害が頻発ひんぱつして、降霊術こうれいじゅつすらもままならないほどひどかった時代だ。


 それを知っているはずのスズネは、軽い調子で頷いた。


「うん、そうだよ」

「だったら、他にも死んだ人って、たくさんいるんだから、……その飛び降りた人ってのも、スズネちゃんなのかは、分からないかも……?」


 そういって、歌子は色んな可能性を考えてみる。 飢餓きがで人々が死んで、雨に巻き込まれて死んで……。

 ……でも、謎として噂があったのは、『飛び降りた人』だ。 飛び降りた人なんて、災害が多い時代だとしても、あまり想像できない。


 前を歩いていた小春が、こっちに近づいてきた。 歩調を遅くして横に来ると、スズネの顔を覗き込み、観察するように聞いていく。


「あなた、自分で? ……ひとりで、死んだの?」


 小春はなんだか、理解できないというような顔だ。 そりゃそうだろう、この街では、そんな話は聞かないのだ。


「うん。 変だよねw」


 スズネは、自嘲するように、ははっと笑った。 それを見た小春は、まだ不思議そうな、疑うような、よく分からない表情をしてうなっている。


「うーん……?」

「……にえで死んだ人とかも、確かいたような……」


 考えていた歌子が、ぼそっと言った。


「生け贄?! ……あぁ」


 小春はびっくりしたように、また大声を上げたが、すぐにそれが何を意味するのかを分かったのか、何も言わなくなった。 そういう話なら、この街では、ごくたまにだけど、聞くんだよね。 昔からの、変な風習としてあるみたい。 最近は、廃止になったと聞くけど……。


 200年前に生け贄があったことは、スズネは知らなかったようだ。 初めて聞いたような声で、反応する。


「あ、そうなんだ。 私、多分その前に死んでるから」

「そうなの?」

「うん。 ……ずっとコメが取れなかったしねー。 そっかー、あの後、たくさん死んだんだ」


 自分の生きてた時代のことなのに、なんだかスズネは他人事みたいだ。 というか、自分が死んだ後に起こったことを、ここに来てからも、知ろうとしなかったのだろうか? 歴史所に行けば、そんなことはすぐに分かる。 ……なぜだか分からないけど、それは不思議な感じもする。


「ホナミー! どこ行くの?」


 話の途中で、小春が前のほうを向いて、大声を出した。 前で立ち止まっていたホナミは、どこか別のほうを眺めていた。 振り返ってこっちを見ると、ホナミは腕を上げて、方角を指し示す。


「こっち」


 ホナミが差した方には、山があった。 それも一つではなく、見渡す限り山しかないところ……。 しかも、ホナミの腕は、角度が低く、どこか下のほうを指してる気がする。


 それを見たスズネは、変な気分がして、思わず聞いた。


「……え? 山の中?」

「うん。 山の中の、まんなかぐらい」


 まんなか? ……どういうこと? なに、土の中ってこと? 嫌な予感がした小春が、聞き返す。


「あんたの言うまんなかって、どこよ? ……また、土の中のことじゃ、ないわよね」

「うん、そうだけど……」


 ホナミが普通に答えると、小春はやっぱりねといった様子で、呆れたような仕草をした。


「ほら。 だから、私たちは慣れてないんだって、そういうの!」


 この前、同じようにホナミに連れていかれた時に、そんなことがあったのだ。 山のふもとに行ったかと思えば、道もないのに、ホナミはすいすいと土の中を進もうとした。 しかし、他のみんなは立ち止まってしまった。


 幽霊は、体が透けてるから、壁も地面も通り抜けられる。 だけど、それは理屈上のことだ。 生きてた時の感覚が邪魔をして、ふつうは簡単にはできない。

 ホナミは何かを通り抜けたり、宙をふわふわと浮いて移動するなどが、得意らしい。 街の中でも、ホナミほど物理法則を無視して動ける人は、少ない。 空を飛んだり、壁を通り抜けたりするのは、練習を積む必要があるのだ。


「俺らは、そもそも行けないぞ」


 大柄な体を落ち着かせ、立ち止まったミツバが言った。 生きてて、生身の体を持ったミツバと歌子は、もちろん通り抜けるなんて無理だ。 そんなことも考えてなかったのか、ホナミは今気づいたような声を出した。


「あ、そっか」

「あそっかって、あなたねえ」


 小春がゆるやかにツッコミを入れる。


 一行は立ち止まり、辺りを眺めた。 歌子が一番最後に追いついてきて、息をはあはあと吐きながら、辺りの景色に目をやる。 この辺りはひらけていて、風が吹いていて、気持ちがいい。 汗が光る歌子の額で、髪の毛が小さく揺れている。


 ホナミは景色をきょろきょろと見ていたが、思い出したように言った。


「じゃあ、向こうからも行けるよ」


 そういって今度は別のほうを、腕で指す。 見ると、正反対の、海のほうを指しているようだ。


「海? 海から行けるのか?」

「うん。 ちょっと、回り道だけど」


 ホナミは宙に浮いたまま、一人で動き始めた。 みんなはそれについていって、再び足を動かしていく。 向こうには、海と浜辺が見えている。

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