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いろいろ事件の予感っ!

 憶え屋で話していた、歌子うたことユメ。 そこへやってきたのは……?


「すいませーん、ちょっと聞きたいんですけどー」


 2人が話していると、いきなり聞きなれない声がした。 店の前のほうだ、誰かが、私たちに向かって、声をかけてるみたいだ。


「はい、何ですかー?」


 振り返った歌子うたこが、パタパタと店のおもてへ向かった。

 入り口に近づいていくと、店の中を覗いている、幽霊の女の子が一人いた。 一目見て、元気ではつらつとした子だと分かる。 その女の子は、様子をうかがうような面持おももちで聞いてきた。


「なんか、不思議な出来事とか、事件とかを、調べてる人たちがいるって、聞いてきたんですけど……」


 なぬっ!? 来たっ! なにか、新しい動きの予感っ!

 歌子はパッと顔を明るくさせて、楽しそうに答える。


「それ、私たちですっ!」

「あ、そうなの」

「うん。 ……もしかして、興味あるの?」


 なんとなく、そんな気がしたのだ。 ……なんでだろう? 単なる情報提供じゃないような……すごく、親しみを感じて、私たちと似た者同士な感じが、するんだよね。


 歌子がそう思っていると、案の定、女の子はすこし照れるように頷いた。


「うん、ちょっとw どんなのが、あるの?」

「えーっとね、色々あるんだけど……」


 歌子は体をひるがえして、店の中に戻っていく。 女の子もそれに続いて、辺りを眺めながら店に入ってきた。


 机のところに戻ってくると、歌子は再び記録帳を手に取り、パラパラとめくりだした。

 女の子はそばに来て、それを覗き込んでくる。 ギッシリと漢字が書き込まれた記録帳が、目に入ったようだ。 女の子は目を丸くして、驚いたように声を上げた。


「ひゃー! これ、全部そういうの?」


 歌子の記録帳は、ぜんぶ漢字で書かれている。 ひらがなもカタカナも、かけらもない。

 歌子は笑いながら、頷いた。


「うんw 今のだけじゃなくて、過去のも、調べてるからね。 ……ほら、400年前の、まぼろしの財宝とか……」


 女の子は興味津々に、近づいて覗き込んできた。 めくられていく紙を眺めながら、なんとか読もうとしているようだ、必死に目を動かしている。


「……あれ、でもそういうのって、歴史所とかに書いてないの?」


 女の子が、ふと思いついたように、疑問を言う。 だって、過去の事件って、記録に全部まとめられてるんじゃないの?

 そんな疑問に、歌子は紙を眺めながら答える。


「歴史所はね、そんなに細かいことを取り扱ってるわけじゃ、なくてね。 どうでもいいような事件は、省かれることも多いんだ」

「へー、なるほど……」


 まあ、そうかも。 そんな細かいことまで扱ってたら、途方もない量の記録に、埋め尽くされちゃう。


 ふむふむと納得する女の子の横で、歌子はさらにページをめくって、別の内容を読んでいく。


「うん。 あっ、200年前、死体が見つからなかった、事件とか……」

「……200年前?」


 女の子がそれに反応して、ほんの少し、こわばった声を出した。 歌子は気づかず、普段の調子で話し続ける。


「うん。 飛び降りた人がいたらしいんだけど、そのあと探しても、死体が見つからなかったって……」

「……それ、私のこと?」


 女の子が、ぼそっと言った。 声は小さかったが、なぜか言葉の輪郭りんかくは、はっきりと聞き取れた。

 それを耳にした歌子は、思わず紙から目を離す。 ……私のこと? どういうこと? 困惑こんわくした歌子の前で、女の子はこっちをじっと見つめている。


「え?」


 女の子はそのままの表情で、ためらうことなく言った。


「私、自分で飛び降りて、死んだんだよね」

「……えっ?!」

「歌子~」


 いきなり、のんきな声が聞こえてきた。 2人は話すのをやめて、店の前のほうへ振り向く。 見ると、憶え屋の中に、他の人がもう一人、入ってきていた。 ふわふわと地面から浮いていて、まさに幽霊のように移動しながら、こっちに向かってやってくる。


 この子は、ホナミ。


挿絵(By みてみん)


 いつも一人でふらふらしてて、森や山の中を、散歩してる子なんだ。 なに考えてるかよく分かんないけど、たまに、みんなと一緒に遊んだりするの。


「ちょっと来てー」


 一言だけ残して、ホナミはくるっと背を向けて、ふわふわと憶え屋の外へと出ていく。


 あぁ、もう! 相変わらず、マイペースだなあ。 いつもこうやって、何の説明もなしに、色んなところに連れまわされるんだ。

 歌子は記録帳を机に置いて、慌ててその後を追いかけ始めた。 女の子も興味を持ったのか、ついでに一緒に憶え屋を出ていく。



 店を出て、道に出ていくと、さらに別の一群が目に入ってきた。 小春や雨子たちが、道を歩いて、こっちに向かってきている。 小春は毎朝、市場で歌を歌ってお金を稼いでいるから、それが終わったのかも。 ついでに漁が終わったミツバも引き連れている。


 小春はいつものように元気に手を振って、大声を出してきた。


「歌子! そこが、憶え屋?」


 小春たちは、ホナミと一緒にいたわけではないようだ。 状況を知らないようで、普段の調子で聞いてくる。


「うん。 ……ちょっと、待って!」


 歌子は、その場を適当にあしらうと、ホナミのほうを追っていった。 向こうに、ふわふわと一人でどこかへ行く、ホナミの背中が見える。 ちょっと、待ってーっ! 歌子は心の中で叫びながら、全速力で走りだした。



 後に残された小春は、不審そうに眉をひそめる。


「え? ……何?」


 どこかへ行くホナミと、歌子についていく、謎の女の子。 ……何かしら、ひょっとして、面白い事件かもっっ!!!


 一気にテンション爆上げしながら、小春は走り出す。

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