混沌の世界
さあ、お泊りパーティーも佳境だぜ!
部屋の中では、服作りが進んでいた。 もう夜中も深くなっているというのに、まったくみんな寝る気配がないみたいだ。 ギャーギャーと騒ぎながら、深夜テンションで作っているみたいだ。
そんな中、イトも服を作っていた。 床の上に広げた布地の前で、せっせと作業している。
完全に没頭して、目の前しか見えてない顔だ。 次はこれをして、その次はあれをして……。 おそらくイトの頭の中では、グルグルと作業の手順がめぐっていることだろう。 周りの様子を気にしている様子は、ひとかけらもない。
イトが作業を続けていると、横から視界に何かが入ってきた。 大きくて黒くて、ちょっと茶色っぽい髪の毛で……。 気づけば、それは歌子の頭だった。
歌子はもう眠たいようで、うとうとしていてイトのほうに頭をもたげてきたみたいだ。
「……あ」
イトは手を止めると、ぼうっと歌子の頭を見つめた。 どうすればいいのか分からないみたいに、座ったままじっとしている。 手で支えてやればいいだけなのに、それすらも色々頭で考えているんだろうか。
そうこうしているうちに、歌子の体はさらに傾いてきた。 いよいよ頭が落ちそうになったのを見て、イトは道具を放り投げて受け止めていった。
「イトー、ちょっと……。 ん、どうしたの? ……あら歌子、もう寝たの?」
小春がのんきな声でやってくる。 小春はまだ眠気がなく、普段の調子みたいだ。 もう夜が深いというのに、元気なものだ。
そこへ、雨子もやってくる。
「あれ、歌子、もう寝た?」
腕の中で、歌子はすうすうと寝息を立てていた。 イトはその寝顔をじっと見つめていて、何かを考えるようだった。 今まで自分がしてきた行動を、振り返っているような様子だ。 イトは何かにつけて歌子を引っ張り回してきたから、考えるところでもあるんだろうか。
「あ、じゃあ、もう寝ようか。 みんなー、ねるよー!」
雨子が少し抑えた声で、部屋のみんなに呼びかけた。 その場の人々も、少しずつその様子に気づいていったみたいだ。 あぁ、もう夜遅いしね。 明日も仕事があるし、そろそろ寝よう。 そんな感じで声を控えて、手を止めていく。
ご飯もいっぱい食べたし、服作りも進んだ。 お泊りパーティーも、そろそろおしまいの時間である。
広い部屋の中で、それぞれが床に敷物を用意して、寝る準備を始めた。
ユメもその声を聞いて、片付けを始めた。 敷物を部屋の端から持ってきて、テラス部分の近くに陣取って、敷物を敷いていく。
「じゃ、消すよー」
スズネは部屋に呼びかけると、明かりに土器をかぶせて火を消していった。
ふっと辺りが暗くなり、窓から入ってくる星明りだけになった。 部屋の中は一段と静かになり、小さな寝息が立ち始める。
ユメは横になると、目の前の床をぼんやりと眺めた。 星明りが差し込んできていて、涼やかな夜だ。 窓際だから、外の空気が感じられる。 城の中で寝るのも、悪くないかも……。
床を見つめながらぼんやりとしていると、前方で横になっていたホナミが話しかけてきた。
「ユメ」
「……ん?」
目をつむりかけていた私は、目を開けてホナミを見る。
横になって寝ているホナミは、こっちを見ていて、なんだかすごく普通の女の子に見えた。 ホナミもこんな風に、普通に寝るんだ。
……いや、そりゃそうでしょ。 何言ってるんだろう、私。
だってホナミって、普段は宙に浮いてフワフワしてるし、いつもどこかに散歩に行ってるし……。
そんなことを思っていると、目の前のホナミは、ぽつんと話しかけてくる。
「夢見酒、見つかった?」
あぁ、ホナミも知ってたんだ。 もう、やってらんないね。 みんなに注目されてんじゃん。
そっちのほうは匿名にしてなかったし、しょうがないかな。
私は小さく首を振って答える。
「……いや」
「ふーん。 ……おやすみ」
ホナミは一言いうと、背中を向けていった。 相変わらず気まぐれな人だなあ。
たぶん夢見酒に興味があるってわけではないんだろう。 ただなんとなく、日常会話をしたかっただけなのかな。 まあ、いっか。
私は目を閉じて、眠りの中へと入っていく。
風が、そよいでいる。 目を開けると、草木と心地よい木漏れ日が視界に入ってきた。
私は草むらの上で寝転がり、日向と日陰の間で揺られていた。 小さく風が吹いてきて、穏やかに私の顔をなぜていく。
そばには木が立っているのが見えている。 枝分かれする葉っぱの間からは、日の光が散らばるように降り注いでくる。
私は呼吸を続けると、体が上下していく。 すう、はあ……すう、はあ……。 自分の心臓の音が小さく混じるように聞こえてきて、大地の中に溶け込んでいくようだ。
そのままの体勢で、私は腕を上のほうにやり、適当にそこらの葉っぱを手に取った。 引き寄せて、鼻にくっつけていく。 目を閉じてすうーっと匂いを嗅ぐと、葉っぱの青臭さが感じられた。 あぁ、気持ちいい……。
そのまま葉っぱを口にくわえて、私は身を起こしていく。
上半身だけ起き上がると、私は街のほうを見た。 高いところからの眺めで、気持ちがいい。 街はさらに発展していき、さらに複雑で大きな建築が出来ていっているのが見える。 そのうち、さらに変なものでも出てきそうな勢いだ。 未来研究所の人たちも研究を頑張っていると聞くし、どんどんヘンテコな街になったらいいな。
私は地面を押して、腰を上げていった。 立ち上がると、うーんと腕を上に伸ばして伸びをする。
近くを通りがかった子供が、こっちを見た。 葉っぱをくわえた私を見て、不思議そうな顔をしながら通り過ぎていく。 相変わらず私は街の変人代表なんだろう。 まあいいや。
私は歩きだし、木の影を抜けて日向へと出ていく。 街の階段へとさしかかると、見覚えのあるような姿の人が、下から階段を上がってきていた。
不思議な、未来っぽい服を着た女の子だ。 あぁ、ソラさんか。 前は相談に乗ってくれて、ありがとう。
そう思いながらすれ違い、ユメは階段を下りていく。
ユメとすれ違ったソラは、街の階段を上がっていった。 しかし、ずいぶん疲れているように見える。 表情はぼんやりしていて、生気が感じられない。 ぼうっとしながら階段を歩き、目の焦点も定まっていないようだ。
隣に、階段を駆け下りていく子供たちがいた。 笑いながらじゃれ合って、楽しそうだ。 ソラは横目にそれを見ながら、機械的に足を動かし続けて階段を上っていく。
階段を上りきり、少し開けた場所に来ると、ソラは足を止めて街の景色を振り返った。 眼下に広く、穏やかで平和な街の様子が見える。 料理を売ってる人がいて、人と楽しく話している人がいて……。
ソラはその様子を虚ろな目で見つめていたが、やがて景色に背中を向けていった。 そのまま地面に座り込むと、はあとため息をついて、頭を力なくうなだれる。
ソラは一体、どうしたんだろう? 嫌なことでもあったのかもしれないが……しかし、なにか変な感じだ。
ソラはもう少し明るくて素直なはずだが、今のソラは利発で、複雑な心を抱えた感じがするのだ。
姿かたちはソラなのに、ここにいるのは違うような……。 妙な違和感を感じさせるのは気のせいだろうか。
ふあー……。 眠いわね。(小春)




