死者と話せるサービス……? なんじゃそりゃw
よし! 料理も売り終わったことだし、こんどは、海のほうを、見てみよう。
この島では、街がある場所は、海の近くの一か所にまとまってるの。
島の、それ以外のところは、森や山がたくさんあって、人は住んでないんだ。
海岸の辺りでは、船が入ってきたり、魚を取ったりするんだ。 漁師の人たちは、ここで仕事をしてるよ。
私の友達にも、漁師の人がいてね。 ミツバっていう、体の大きな男の子なんだけど。 ミツバも、ここでふだん魚をとって、はたらいてるの。
そこから陸に上がっていくと、『市場』ってところがあってね。 誰でも出入りできる、色んなものを売り買いする場所なんだ。 食材も、ここで売ってるよ。 山でぶっ殺したイノシシなんかも、ここに持ってきて売るわけだねっ!
船で島の外から来た人たちも、この市場で商売するよ。 色んな珍しいものが並んでて、好奇心をそそられて、ワクワクするっ!!
そして! 市場のいちばん大きな特徴は、売るものが、ふつうの『物』に限らないってことなんだ。 なんと、歌やお笑いなんかの、見世物を披露したりする人も、たくさんいるの!
色んな声が聞こえてきて、活気にあふれてて、とっても賑やかな場所なんだ!
ほら、その辺でも、女の子が、歌ってる。 その前には、見物人が、数人立ってて、歌を聞いてるみたい。
……ん? あれ、この女の子、見たことあるな。 あっ! 私の友達の、すっごく元気な幽霊の女の子の、ちょっと空回りしてる、小春じゃん!
小春は、ふだんは市場で歌を歌って、お金を稼いでるみたいなんだ。 正直、そんなに稼げないらしいけど、他にやることなくて暇だから、やってるみたい。
……あ、そろそろ歌い終わったみたいだ。 ぱちぱちと拍手が鳴って、そこにいた人たちが、立ち去っていく。
「よかったよ、ひとつ」
10円ぐらい、もらえたみたいだ。 やったね、小春っ!
小春は、もう別の方向を見て、その場から動きだしていた。 昼時になったことだし、もう歌うのをやめるみたい。
「あぁ、はいはい。 ありがとっ!」
小春は振り返って、笑顔で返事をしながら、その場を去っていく。
市場の別のところでは、べつの幽霊の女の子がいた。 勉強会にいた、よくしゃべって、いつも暴走気味で、記憶力が無駄にいい、雨子だ。
市場の一角に座り込んで、俯いて何かをしているようだ。 じっと、手元のものを見つめている。
見るとそれは、キラキラと光っているようで、透明な、ガラスみたいなもののようだ。 だけどガラスとは違って、雲や光のように、さわれないもののようだ。
これは、『まぼろしの物体』っていう、幽霊が作り出す、物体(?)……みたいなものなんだ。
幽霊は、自分の頭で想像したものを、こうやって目の前に、見える形として、作り出すことができる。
出来るようになるには、練習する必要があるらしいし、どれだけできるかは、人によって差があるみたいなんだけど。
幽霊の人たちは、自分の服装なんかも、そんな風にして、見た目を変化させてるの。 髪の毛の色なんかも自由に変えられるから、街の中は、とってもカラフルなの!
いま雨子は、『まぼろし』のメモ紙を、作っているみたい。 まぼろしで作ったメモ紙に、まぼろしで作った筆で、文字を書き込んでいる。
……あれ? でもそれって、意味あるの? だって、そんな風に作った『まぼろし』って、本人がその存在を忘れちゃうと、形が消えてしまうんじゃなかったっけ。
だいぶ前の話なんだけどね。 記憶力が悪いのをいつも気にしてる、幽霊の女の子で、気だるげな感じの、突拍子もないことを考えつく、ユメの話なんだけど。
ユメは、幽霊だから紙をさわれなくて、メモが出来ないって最近イライラしてるんだけどね。 そのユメが、頑張って練習して、やっとまぼろしの紙を作れるようになったんだ。
だけど、いざメモしてみても、しばらくしたら、文字がぐちゃぐちゃになって、読めなくなってたの!
『まぼろし』は、それを作り出した本人の、想像力を反映したものなんだ。 だから、本人が内容を忘れちゃったら、しょうがないみたい。 メモに書いた文字も、ぐちゃぐちゃになったり、消えちゃったりするんだって。
座り込んだ雨子のそばには、海での仕事を終えて来たのか、大きな体をした、漁師の男の子の、ミツバもいた。 しゃがんで、雨子の手元を眺めている。
そこへ、歌の仕事を終えた小春が、走ってきた。
「どう?」
小春がグイっと覗き込んできて、座り込んでいる雨子の手元を見ていく。 雨子は集中しているようだ、返事をしようとしない。
その横にしゃがんでいたミツバが、顔を上げて、代わりに答えた。
「死者と話せるってところ、また見つけたってよ」
「あら、来たわね?!」
小春はニヤリと笑うと、挑戦者を受けつけたボクサーのように、手でこぶしを叩いた。
『死者と話せる』系サービス……。 こういう都市伝説は、小春たちにとっては初めてではないのだ。 今までは、ぜんぶ詐欺だったが。
「あ、小春」
メモを書いていた雨子は、小春が来たのに気づいたようだ。 書くのをやめて、よっこいしょと立ち上がっていく。
「どこ? それ。 どこにあるの?」
小春が、興味を押さえられないように、ズイズイッと聞いていく。 雨子は立ち上がると、手元の『まぼろし』のメモを眺めながら、その区画を出ていった。 3人は、市場の中を歩きながら話していく。
「第2区画の高台の辺りだって。 さっき、街歩いてたら、いきなり話しかけられてね」
その辺りは、幽霊の人が住んでる家が多い場所だ。 その中に、死者と話せる……というサービスがあるらしい。
しかし、考えてみれば、おかしなものだ。 この街には降霊術があって、幽霊を死者の国から呼び寄せることができる……。 そんなところなのに、死者と話せるって言われても……、そんなサービス、誰が利用するんだろうか?
同じ事を思ったのか、小春はちょっと馬鹿にするように声を上げた。
「へえ! 今回も、本当だったのね。 ……で、いつ行くの? 今?」
「いや、明日の昼に約束してる」
「あ、そう。 ……よーし、今度は、どんな詐欺行為かしら。 とっちめてやるんだからっ!」
「詐欺確定かよw」
賑やかに商売をしている人たちの中を歩きながら、3人は歩いていく。 ミツバが笑ったのに、ぶんぶんと腕を振るっていた小春は、ふんと鼻を鳴らした。
「当たり前じゃない。 前回も、前々回も、そうだったんだから」
「いや、でも今回は、本物かも」
いきなり雨子が、真面目な声で言う。 小春はきょとんとした顔を浮かべて、聞き返した。
「なんで?」
「その辺りって、よく変な噂がたっててね。 ……夜、霊か生身か分からない女が歩いてたとか、真昼間に、地面に伏して、土のにおいをうっとりしながら嗅いでいた人がいたとか……」
「なんだそりゃw」
ミツバが呆れたような、馬鹿にしたような風に笑った。 そんなの、都市伝説でもなんでもねえよ。 ただの、変人だろw
笑うミツバの横で、小春は真面目な顔で、考える。
「ふーん、世の中、変な奴も、いるものねぇ」
最近は、社会も複雑になってきた。 そんな、意味わかんない変人が出てきても、しょうがないのかしら……。
ま、いっか。 とりあえず、ユメのところにでも行ってみるかしら。 憶え屋? ……とか言ったかしら、なんか変な店作るらしいし。
3人は市場を出ていき、ブラブラと歩いていく。