300年前の回想っ!
昼ご飯を食べようと、『城』に来た歌子たち。
2人はルンルン歩く雨子と一緒に、城の2階に上がってきた。
たくさんの部屋が作りかけられているみたいだ、廊下を歩くと、次から次に部屋が見えていく。 すごい……本当に王様にでもなった気分だ。
雨子と一緒に、私たちは一つの部屋に入っていった。
部屋は広く、私たちがいてもちっぽけに見えるぐらい大きかった。 一人では使えきれないぐらいだ。
外側の壁には、窓のような穴が開いていて、昼間の日の光が差してきている。
窓の近くには、スズネと小春の姿があった。 2人は窓際の辺りに座って、ご飯を一緒に食べているみたいだ。
スズネがこっちに気づいて、手を振ってくる。
「歌子。 一緒に食べよー」
小春もおにぎりを手に持って、もぐもぐ食べてるみたい。 あぁ小春、あなたもご飯を食べることにしたのね。 味がしないってぼやいてたけど、みんなと一緒に食べたいのかも。
「ねえ歌子、300年前の話は、どうなったの?」
おにぎりを手に持ったスズネが、思い出したように聞いてくる。
2人が食事をしている辺りの床には、文字が書かれた石ころや紙切れが散らばっていた。 見た感じ、300年前の『時のはざま』についての資料のようだ。
300年前……。 降霊能力を持った一族が一つの家にまとまって住んだり、夢見酒の噂が流れたり……。 失踪者が出たりなど、一番情報がぐちゃぐちゃしている時代だった。
そういえば昨日の混乱の中でも、降霊洞穴に探検したな。
300年前の情報を憶え屋で募集してたら、『時のはざま』を知ってるという人が口座の中に現れて、降霊洞穴の地下深くに、殺された2人分の骨があると話したんだっけ。
実際に私たちも見に行ったけど、深い地下の部屋で、2人分の骨が掘り出されてた。
後から聞いた話では、情報提供してくれた人は、なんと降霊能力を持った一族の一人だったんだって。 名前は『コガネさん』とか言ったっけ……。 一族の家で、10代の少年として実際に生きていた人だって。
怪しい一族の人が、怪しい事件にかかわっている……。 これはなんだか、面白い謎の予感がするっ!!
雨子は床に座っていくと、思い出したように話しだした。
「あ! またコガネさんが、新しい話を、入れてたよ」
「誰、コガネさんて」
おにぎりを食べていた小春が、ぼそっと呟く。
「その、骨のことを話してた人」
「あぁ。 ……え?! そいつ、大丈夫なの?」
その『コガネさん』が情報提供者だから、殺人の犯人である可能性は、たしかにある。
雨子は、手元の資料を見ながら頷いた。
「うん、多分。 ……っていうか、一応、入ってきた人は、みんな検査したんでしょ?」
「うん、大丈夫だよ」
私は頷いて答えると、そこに置いてあったおにぎりを手に取って、食べ始めた。 さっき汁物だけ道で買ってきたから、おにぎりがあってちょうどよかった。
街に誰が入ってきたのかを確認する……。 昨日は誰もかれも大慌てだったけど、身元のチェックはしっかりやったみたいだ。 犯罪者が紛れ込んでたなんてことになったら、大変だしね。
……でも、よく考えたら、身元のチェックなんて意味があるんだろうか?
だって、この話は『時のはざま』だ。
もしこのコガネさんという人が犯人だとしても、時のはざまで人を殺したのなら、他の人がそれを知らなくてもおかしくはない。 隠された殺人なら、犯人は犯罪者とすら知られてないことになるからだ。
私はおにぎりを食べながら、近くにあった紙きれを、一つつまんで目を通してみる。 やっぱり300年前の資料のようだ、結構細かく調べてる。 雨子はいったい、どこからこんな情報を持ってきたんだろう?
雨子はもう、食事は終えているようだった。 床に散らばった資料を手に取って眺めている。 みんなに聞いて欲しい内容があるみたいだ、一つの石ころを手に持つと、そこに書いてあるメモを読み始めた。
300年前の、『コガネさん』の視点の、一族の家の様子の回想のようだ。
「『……家の玄関に、入っていく。 ハナが、ちょうど家の中から出てきて、お互いに気づく。 ちょっとだけ目を合わせるけど、ほとんど話さない』」
ハナ……一族の、別の人だろうか? 初めて聞く名前だ。 玄関で出会ったけど、目が合っても話さない……ふむふむ。
……もしかして、家の中の空気は良くないのかな? この一族は、いくつもの家族が一つの家にまとまって住んでいたと聞いた。 なんだか、嫌な予感がする。
食べ終わってゴロゴロしていた小春が、きょとんとした顔をした。
「え、何それ」
「その人の、300年前の回想。 事件以外のことも、話してくれてるみたいでね。 ……『通り過ぎて、廊下を歩いて行く。 隣の部屋から、怒声が聞こえる。 また、怒っているようだ。』」
ひーっ!! ほらやっぱり、険悪な雰囲気だよ。
……やっぱりねえ。 複数の家族がまとまって住んでる家なんて、おかしいと思ったんだ。 ぜったい、ヤバいことが起こってる。
あんまり話さない家族(?)どうしに、怒鳴り声が響く家の中……。 一気にダークな感じになってきた。
これから一体、どうなるんだろう? 扉を開けたら、いきなり包丁を振り上げてたりとか……ひぃっ! こわいこわい。
こんな状況なら、この『コガネさん』も心労が絶えないだろうな……。
「『そんなことより、今日の晩飯は何だろう。 イワシが大量にとれたらしいから、それを楽しみにしよう。』」
そんなことより……って、気にしてないんかーいっっ!!
晩ごはん……イワシ? 空気が悪い家庭かと思ったら、いきなりけろっとしてて拍子抜けする。 コガネさんは、ちょっぴり楽天家なのか?
私はふと目を落とすと、私が持っている紙にその続きが書かれていた。
手に持った紙を渡していくと、雨子は今まで読んでいた石ころを床に置いて、受け取って続きを読み始める。
「……『新しい地図が、完成した。 今日は、先生が来ていた。 イトちゃんとハルちゃんも一緒だ。 玄関で会うと、新しい薬草が見つかったのだと、2人が楽しそうに話してくれた。』」
あ! イト、来たっ!!w ……そうか、300年前だからイトが生きてた時期なんだ。
遠い日の出来事を聞いてたのに、いきなり親近感がわいてくる。 また時間の感覚がぐちゃぐちゃになるっ!
『時のはざま』の事件が起きる前には、イトはすでに死んでたと言っていたから、事件が起こる、いくらか前の時期の回想なんだろう。
どうやら一族の家に、医者の先生が来たようだ。 一族には病気の人が何人もいるから、診察に来たんだろう。
イトと一緒にいたのは、『ハルちゃん』……? この街の長と一緒に働いていたと言っていたから、これは長の名前なのかな。 へー。
話す横で、小春は退屈そうにしていた。 ブラブラと体を揺らしながら、適当に相槌を打っていく。
「ふーん。 ……なんか、そいつ楽しそうね」
確かに、そうかもしれないw
家の中の人間関係は、一見そんなに良くはない。 だけどこの『コガネさん』は、そんな中でも生活を楽しんでるようにも見えるからだ。
……でも、私だったらやだな。 ギスギスした家で、生活していくなんて……。 やっぱり家族は、仲良くなきゃ。
スズネは、さっそく推理するように頭をひねってるみたいだ。 情報を整理しようと、雨子に聞いていく。
「え、その人が? ……何?」
「この人は、その一族の子供の一人だって。 ……こんな感じ」
雨子はそういって、別の紙を引っ張ってきた。 どうやら家系図のようだ。
1つ目の家族に、玄関で会ったハナさん……。 2つ目の家族には、情報提供者の『コガネさん』。
村の一番の権力者はハナさんの父親で、コガネさんの上には兄弟がいる……そんな具合のようだ。
「はー……えっと?」
「家族は2つ同居してて、……あ、3つ目の家族の人も、一人いるね」
外れたところに、1人だけ従兄弟の人がぽつんといるのが見える。
「やまい……病気なの?」
「あ、そう。 この人は病気にかかってて、医者の先生に診てもらってたみたいだね」
「この人……コガネさんの、父親も?」
「そう。 その2人が病気で、家の奥のほうで寝てたんだって」
家系図を覗き込みながら、みんなで口々に情報を整理していく。 小春は横からぼうっと眺めながら、相変わらず退屈そうだ。 他人事みたいに、ぼそっと呟く。
「ふーん、大変ねえ」
……でも確かに、大変そうではある。 家の中にいくつもの家族が同居していて、病気の人が何人もいて……。 家の中は、雰囲気が悪かったんだから。
「それで、コガネさんには2人お兄さんがいて。 で、もう一つの家族の父親が、村全体の一番の権力者で……その子供が、さっきのハナさんって人」
「……一人っ子なんだ」
スズネが、ぼそっと呟く。 兄弟の話を聞いたことがないから、もしかしてスズネも一人っ子なのかな。 ちょっと親近感を持ったのかも。
「それで、殺された2人っていうのは?」
「それはまだ、分からない。 イトも、色々調べてるみたいだよ」
殺された2人が、果たしてこの中の誰なのか……? それは重要な情報だ。 それが分かれば、犯人の推測もしやすくなる。
雨子は話を終えて、フムウと手を顎に当てて、探偵のように家系図を見つめている。 どうやら今回の情報はこれぐらいみたいだ。
分かったのは、情報提供者のコガネさんが一族の人ということと、家の中の雰囲気が悪かったこと。 家の中には病気の人がいて、医者の先生が一族の家に診察に来ていたこと……。
うーん、でも、まだ事件の全体像は分からない。
家の中の雰囲気を見ると、殺人が起こったというのはありえるのかもしれないけど、『時のはざま』っていうのはまだ見えない。
夢見酒の姿かたちも見えないし、失踪者というのも繋がらない。 うーん、どういうことなんだろう……。
小春は飽きたのか、体を放り出していった。
「はー! ……なんか、難しいわねえ、最近の世の中は」
ごろんと寝転がって、天を仰いで、腕を広げる。 もう面倒くさくなったみたいだ。
横から雨子が、ツッコミを入れる。
「これ、300年前だけどね」
「300年前も変わんないわよ。 私が生きてた頃は、もっと簡単だったけどなー……」
小春が生きていた頃は、800年前だ。 600年前にこの島にコメが入って来てから、社会が大きく変わったから、その前の時代のことを言ってるんだろう。
小春は床に仰向けになったまま、目を閉じて、静かに呼吸をする。 ちょうど顔の部分だけ日陰に隠れていて、気持ちよさそうだ。
「……でもユメは、死ぬほど退屈だったって、言ってたよ」
ユメと小春だと、性格が違う。 面白くてワクワクすることを求めてるのは同じだけど……。 口には出さないけど、ユメのほうがもっと激しく求めてる気がする。
いつかのユメとの会話を思い出す。 『ユメ、自分の生きてた時に戻りたいって、思う?』『絶対嫌だ』。 即答だったから、びっくりした。
そんなに自分が生きてた時代が、退屈だったんだろうか。 親や兄弟は、現代にはいないんだし……ちょっとは懐かしむ気持ちとか無いのかな。
小春は目を開けると、気の抜けたように笑って答えた。
「あぁそう? ……うーん、まあ、退屈だったわねw」
小春はいつも、正反対のことばかり言ってる気がする。 面白いと言ったら、つまらないと言ったり。 退屈だと言ったら、ワクワクすると言ったり……。
そんな小春を見つめていると、ふと、ぜんぜん関係ないことが頭によぎった。
「あ、そうだ、さっき言ってた人、どうなった? ……あの、嫌なやつとかっていう……」
さっき憶え屋の記録室での、小春とのやりとりを思い出す。 憶え屋の職員に向いてる人……とか言ってたっけ? 嫌なやつとだけ言ってたが、それ以上の情報は知らない。
……でも、小春がそんなに嫌がる人なんて、私は見たことがない。 ちょっと珍しいし、興味があるかも?
小春は寝っ転がったまま、思い出すようにして答えた。
「もう、ばりばり仕事してるわよ」
「え、誰?」
雨子も知らなかったようだ、アンテナに引っかかったように、ピピンと反応する。
「なんか、憶え屋の職員として、いい感じの人がいたって……」
「へえ! ……ん? なんか、面白そうっw」
雨子は突然ウキウキしだすと、素早く立ち上がった。 歩いて、部屋の外へと向かっていく。 また変なことして引っかき回すんだろうか? いいよ、ドンドン引っかき回していこうっ!!ww
小春は寝ころんだまま、追うように大声を出した。
「雨子ー! あいつ探すのー?」
「うん、ちょっと見てくる」
背中を向けたまま答えて、雨子は部屋の外へと消えていった。
……雨子はいいなあ、楽しそうで。 昼ご飯を食べて、ブラブラ散歩に行って……。
「……っていうか、雨子って、ふだん何してんの?」
「さあ。 無職なんじゃない?」
スズネの問いに、小春が寝そべったまま適当に答える。
「いや、研究所の研究員なんだよ、雨子」
汁物をすすっていたツムギちゃんが、訂正を入れた。 ことば所も研究棟の中にあるから、廊下を歩いている雨子の姿を時々見かけるのだ。
小春はだらしない格好をしたまま、どうでもいいように呟いた。
「あ、そうなの? ……へえ、ちゃんとやることやってんのね、あの子も」
……え? 私はほら、歌ってるじゃない。(小春)




