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1日終わりっ!

 目つきの悪い、髪がボサボサの男と話した小春。 せっかく色々話してあげたのに、何あの態度! むきーっっ!!

 小春は、再び歴史所に戻ってきた。 まだ怒っているようだ、地面を踏み鳴らしながら歩いてくる。


「まったく……ん?」


 歴史所の廊下を歩いていると、不意にどこからか大声が聞こえてきた。 建物の外からのようだ、誰かがバタバタと慌ただしく叫んでいる。


「アワ! アワ!」

「うわっ!」


 大柄な男の幽霊が目の前を通り過ぎていったのに、振り返った小春はびっくりして飛びのく。 どうやら降霊術の創始者のアキカゼのようだ、人の名前を呼びながら歴史所の廊下を走っていく。

 アワといえば、さっき山で降霊されたばかりの、人探しの上手い女の人の名前もアワだった。 500年前の知り合いだと言ってたし、それを聞きつけてやってきたのかもしれない。

 アキカゼは歴史所の部屋へと突入していくと、部屋の中を大声で叫びはじめた。 歴史所の中にいた人々は、何事かといった顔でその様子を眺めている。 大男が突入してきて、生死の境をさまよってるかのごとく必死の形相ぎょうそうで叫ぶものだから、びっくりだ。


「……アキカゼ?」


 部屋の真ん中にいた一人の女の幽霊が立ち上がった。 山で降霊されたアワだ、きょとんとした顔を浮かべている。

 街に戻ってきた後、歌子と一緒に歴史所に来たんだろう。 住民登録の途中だったようで、横には職員の人も座っている。

 部屋の中を探し回っていたアキカゼは気づいて振り返ると、勢いよく走ってきた。


「ひゃっ! ……ちょっと、どうしたの?」


 驚くアワの足元にやってきて、アキカゼは床へと崩れこんでいく。 床に伏して倒れこむと、うめき声を上げ始めた。 どうやら泣いているようだ、500年前から会っていなかったからだろうか、抑えていたものが噴き出すようにして声を上げている。


 小春は廊下から部屋の中を覗いて、その様子を見ていた。

 ……ふうん、アキカゼちゃんも、あんなに泣くことあるのねえ。 体が大きくて、いつもはりんとしていて偉そうなのに。 今朝、山で一緒にいた時は頼もしかったけど……意外とまだまだなのね。



 別の場所では、歌子が仕事をしていた。 向こうのアキカゼたちの騒ぎは聞こえていないようだ、疲れ切った顔で筆を動かして書類を作っている。

 書類が完成したのか、筆を机に放り投げていった。


「……はあ……これで一応、終わりました?」


 隣に座っていた所長に聞く。 所長も幽霊たちの処理に疲弊ひへいしたようだ、ぐったりした顔を浮かべて頷く。


「うん、そうだね。 ……帰っていいよ」


 今日の仕事がようやく終わった……! 歌子は力をゆるめて、岩の椅子いすから立ち上がっていく。

 今まで動き続けていたから、なんだか嘘みたいだ。 ……あぁ、体が重い。 ギシギシときしんでて、自分の体じゃないみたいだ。

 机から立ち上がりながらふと辺りを見ると、向こうにある明かりが消えかけているのに気づいた。 臨時に設置した火が、今にも消えそうになっている。


「あ、でも、向こうの明かりが……」

「いや、いいよ。 もう、帰ろう」


 所長は面倒くさそうに、ハエを振り払うようにして言った。 所長も相当疲れているようだ、これ以上の仕事は、人がするのも見たくないらしい。

 ……まあ、大丈夫か。 火が消えても、別に死ぬわけじゃないし。

 歌子は立ち上がると、あくびをしながら歩きだした。


「……はーあ。 ……あ」


 歴史所の廊下へ向かって歩きだすと、弟と妹が見えた。 入り口から入って、こっちに向かって走ってくる。 仕事が終わるのを待っててくれたみたいだ。


「ねえちゃーん! ……終わった?」

「うん。 ……帰ろうか」


 2人はバタバタと、足元に走ってきた。 弟と妹の勢いを受け止め、2人の体に触っていくと、生身の体のにおいや服の肌触りを感じていく。 安心感を覚えつつ、歌子はゆっくりと歩き続けた。

 さっきも料理を作って食べさせてくれたし、ありがとね。

 ぼんやりとそう思いながら、3人で歴史所を後にしていく。



 外に出ると、街はすっかり夜の姿になっていた。 点々に見える明かりが見えていて、暗く涼しい空気が心地よい。

 落ち着いた温度の風が体にあたっていくたび、解放された気分が増してくる。 歩く足の筋肉は疲れ切っているけど、地面を蹴る感触が気持ち良い。


「あー……あ、きれい」


 天を見上げると、星空があった。 暗く静かな中に星が輝いていて、いつもと同じ夜空に安心感を覚える。 本当に私たちってちっぽけだなあ……。 こんなにあたふたしても、自然はいつものままだ。

 今日は、色々あった。 朝起きたら誰もいないってところから始まって、山の中を歩き回って、街を歩き回って……。 ちゃっかり降霊洞穴こうれいほらあなにも入ったし、降霊術も経験したし。 ……あれ、意外と悪くなかったかも? やったー、イェイ……。

 これだけの出来事が1日の中に納まってるなんて、とんだ日だ。

 ……ぁあ、疲れた……。 そんなことを思っていると、ふっと力が抜けてくる。


「うわっ! ……なんだ?」

「ぎゃっ!」


 弟と妹の2人が、びっくりした声を上げた。 歌子の体が倒れこんできて、2人の上に覆いかぶさってきたのだ。 歌子に抱き寄せられて腕に巻き込まれるようにして、勢いよく地面に押し倒される。

 弟は地面に尻もちをつくと、痛そうに顔をしかめた。


「……おい、大丈夫か?」

「あー、きもちいー……あったかーい……」


 歌子は2人を抱きしめたまま、目をつむって独り言をつぶやいていた。 極限まで疲れているだろうに、ちょっとだけ微笑んでいる。

 歌子は呼吸を上下しながら独り言を続けていたが、そのままずるずると力が抜けていった。 2人を抱きしめていた腕の力も緩んでいき、体が地面に落ちてやがて動かなくなる。


「おい! ……あ、寝てる」


 歌子は草の上にほほを押しつけて、すやすやと寝息を立てていた。 表情は消えて、うつぶせに地面に倒れたまま、静かに呼吸をしている。

 弟はその様子を覗き込み、あきれた顔をした。

 だらしねえな、おい! 『食べないと倒れるよ』『しっかり働きなさい』って、いつも俺に説教垂れるくせによ。 ……まあしょうがねえか、ずっと動き回ってたみたいだしな。


「……しょうがねえ、おい、頑張って運ぶぞ!」

「よーし、まかしとけい!」


 妹と一緒に声を上げて、2人は歌子の体を抱えていった。 重い体をなんとか持ち上げ、えっちらおっちらと家まで運んでいく。

 俺もシャワー浴びるぜっっ!!! シャアアアアアッッ!!!www (ミツバ)

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