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朝!

 朝。


「ねえちゃーん!」


 あぁ、なんか声が聞こえる。 ……妹の声だ、……あれ、いたい、いたい。 ぺしぺしと、ほほを叩かれているような……。


「……うぇ?」


 ぼんやりと目を開くと、妹が見えた。 私の体にまたがって、頬を叩いてきている。 横に目を向けると、近くには、弟が立っていた。


「早く起きろ! 行ってるぞ!」


 弟は一言だけ残して、外のほうへ走っていった。 妹も続いて、その場を離れていく。


 起きて見回すと、もう人は、ほとんど残っていないようだった。 特に、生身なまみの人はおらず、少しだけ残っているのは、みな幽霊ゆうれいの人のようだ。 幽霊の人は、朝ご飯を食べる必要もないから、朝もこうやって、だらだらしてる人も、多いんだよね。


 さあ! 私はやること、たくさんあるぞっ! 私は起き上がると、ふあーっとあくびをした。 声を一発出して、気合を入れる。


「よしっ!」




 料理をする所は、キャンプ場みたいに、共同の場所があるんだ。 山の斜面に、水が湧き出すところがあってね。 水があふれてるから、そこで料理をしたり、洗い物をしたりするんだ。

 料理に使う道具なんかも、用意されてるの。 ここに来れば、あとは食材を自分で持ってくるだけで、料理が出来るってわけ!


 もう日がのぼってきて、料理場では、生身の人たちがたくさんいた。 あぁ、空気が爽やかで、気持ちがいいっ! 朝日が横から差してきて、日の光を浴びて、歩く足が心地よくて。 みんな、忙しそうに動き回ってる。 あちこちで、料理の煙が上がって、熱気が頬をかすめるっ!


 食料は、海の近くにある市場や、街の中での取引で、自分で買ってくるんだ。 料理に使う食材は、色々あってね。 動物の肉もあるし、山や森でとってきた、木の実や山菜とか……。 この島でとれるものは、なんでも使うよ。


 新しい料理を考えるのが好きな人も、結構いるよ。 ほら、そこにいる人も、鍋に変な緑色の液体を入れようとしてる。 ……ねえ、それ、大丈夫っ!? 危ないもの入れるのは、やめてよね。



 ……と、私もやること、やらなきゃ。 いまは、川の水で、後片付けの洗い物をしてるんだ。 私たちの家族は、もう料理は終わってるの。 あとは、街に売りに行くだけ!

 ……よし、私も洗い終わった。 さ、行こうっ!


 家族のところに戻ってきて、私はその辺に、洗ったものを置いていく。 弟と妹は、売るための饅頭まんじゅうをまとめて、準備をしていた。 これから、私を含めた子ども3人で、街に出て売り歩きに行くんだ。


 近くでお母さんは、まだ料理を作っていた。 これは、私たちが食べる分だよ。 売り歩いた後に、帰ってきてから、家族みんなで食べるの。


「じゃ、行ってくるね」


 私がその場を去りかけると、お母さんが、気づいたように言ってくる。


「歌子! これ、あまり」

「あぁ、はいはい」


 料理に使った、あまりもののショウガだ。 私は手を伸ばして、それを受け取っていく。 これは、食料を保存する食糧庫しょくりょうこっていうところに、戻してこないといけないんだ。


 食糧庫は、この街に住んでいる人なら、誰でも利用することができるんだ。 倉庫の中に、なんと一人一人のための専用スペースがあるの! だから、個人で食料を保存しておくことができるんだ。

 ちなみに食糧庫も、迫力があるんだ! 地面から高いところに立ってて、建物も大きくてね。


挿絵(By みてみん)


 地面から高いところにあるのは、風通しを良くしたり、雨がたくさん降った時、雨水が入ってくるのを防ぐためなんだって。


 私は食糧庫に来ると、足元にぶらさがっている縄ばしごを上り始めた。 するするっと、慣れた手つきで上がっていく。


 上にたどり着いて、床に上っていく。 ……おっとっと、高いところだから、注意しなきゃね。 床に足をつけたら、倉庫の中へ目を向けて、歩いていく。


 中は薄暗くて、棚みたいな物置がたくさん置かれてる。 その上には、食べ物が、所狭しと並んでるね。 見ると、個人ごとに区切りがされてて、簡単に線を書いて区切っている。 その上に名前を文字で書いてて、誰の仕切りかが分かるようになってるんだ。


 倉庫の中を歩いていくと、ところどころに、幽霊の人が立っている。 これは、盗む人がいないか、監視をしているんだ。 もちろん私は、盗むなんてしないよっ! ……フフフーん♪♪ 私はすました顔で、挨拶をしながら通り過ぎていく。


 奥のほうに来ると、私たちの家族の仕切りがあった。 母、私、弟、妹の4人分が並んでる。 私は適当に、手に持っていたショウガをぽんと置いた。

 よし、任務完了! 戻って、弟たちと、街に売りに行こうっ! 私はくるっと体を返して、入口へと戻っていった。



 縄ばしごを下りて倉庫の下に戻ってくると、弟たちが私のことを待っていた。 売るための準備が整ったようだ、2人で重そうに荷物を抱えている。

 私は地面に降りて、その荷物を受け取っていった。


「よし、行こう!」


 私は元気に言って、さっそく歩きだす。 2人もついてきて、一緒に声を出し始めた。


「饅頭、いかがですかー!」


 人は、すでにたくさん歩いていた。 あちこちで、料理を売っている人が見える。 どんな料理があるのか、気になって眺めている幽霊の人なんかも、いるみたいだ。


 売り始めると、さっそく声をかけられた。


「1個ちょうだい」

「はい、10です!」


 私が笑顔で答える横で、弟が、饅頭を用意してさっと手渡していく。 男は受け取ると、口にくわえて食べながら立ち去っていった。


「イノシシ肉の入った、おいしい饅頭だよーっ! いかがですかー?」

「お、ねえちゃん、1個もらえるかい?」


 今度は、私たちと同じように料理を売ってるおじさんから、声をかけられた。 でっかい肉を、道端でじゅうじゅうと焼いているみたいだ。

 私が返事をする横で、今度は妹が、饅頭を用意していく。 弟は仕事をするのも忘れて、巨大な肉に目を取られてるみたい。 おいっ、仕事、仕事っ!


「はい、まいどー! 10ね」

「うわーっ! うまそうっ!」


 肉を眺めていた弟が、思わず大声を上げた。 おじさんはその声に振り向いて、にかっと笑う。


「おっ! 弟くん、これ、欲しいかい?」


 弟は、あっと言って、慌てたように私を見上げた。 あら、言っちゃったら、買わなきゃいけないじゃんっ!w

 ……ま、いっか。 結構おいしそうだし。


 私は苦笑いしながら、買ってもいいよの合図として、頷く。


「あぁ、いいよ。 えーっと、これいくら?」

「これは、200だよ」


 200! ……ありゃ、結構高いなあ。 でも、もう勢いで、買っちゃおうっ! フゥーっっ!!!


「よし、じゃあ買うよ!」

「おし、まいど! ……あれ、それで、どうすんだっけ? 数を、おぼえるんだったか?」


 おじさんは、元気にこたえてくれたものの、なにやら戸惑ったように、おろおろし始めた。

 ……ん? もしかして、この島に来たばっかりで、お金をどうしたらいいか、分かんないとか?


「おじさん、もしかして、新しい人?」


 おじさんは頭をかきながら、頷いた。


「あぁ、そうなんだよ。 昨日来たばっかりでな。 ……たしか、数を憶えとかなきゃ、いけないんだったよな」


 数を憶えて……あとは、それを報告しなきゃいけないんだけどね。

 街の中には、お金を管理してる人たちがいてね。 その人たちを見かけたら声をかけて、自分のいま持ってるお金を、報告しなくちゃいけないの。

 『通貨記録師』って言ってね。 その名の通り、通貨量を記録してる人たちなんだ。


 私はそんなことを思いつつ、頷いて答える。


「うん、そうだよ」

「そっかー。 ……やっぱり、なかなか難しいなあ」


 うーん、まあ、最初はちょっと、難しいって聞くよね。 島の外では、まだ物々交換が主流らしいし。


 ちなみに、島の外から来た人は、物々交換(ぶつぶつこうかん)だけで済ます人もいるけど、この『憶えるお金』を使う人も、結構いるよ。 島に来て、持ってきたものを売って、歌を聞いたり、お笑いなんかを見たりして……。 幽霊の人がしてくれるサービスには、憶えるお金で払うしかないからね。

 島の外に出るときに、どれだけ使ったか、払ったかを、公的機関にチェックされるんだ。 もし払いすぎてたら、コメをその分だけ、公的機関から受け取ったり……そんな風にして、つじつまを合わせるみたい。


 ……あれ? でも、このおじさんは生身の体を持ってる。 なら、憶えなくたって、筆とかを使って、記録しておけばいいんじゃないかな。 私はそう思って、懐を探っていく。


「あ、ちょっと待って。 ……こういうのがあってね」


 そういって取り出したのは、筆だ。 憶えるのが難しいなら、書き留めておけばいい。


 筆を見て、おじさんはきょとんとした顔になった。


「なんだ、そりゃ」

「これ、筆っていってね。 こうやって、墨につけると、ものが書けるの」


 手持ちの墨につけて、自分の腕にさらさらと書き込んで見せる。 おじさんはそれを見て、理解したように声を上げた。


「へぇ、なるほど! それで憶えられるってわけだ」

「そう。 売ってる人が、そこらにいるから、一つ買っとくといいよ。 数のあらわし方は、聞けば誰でも、教えてくれるから」


 おじさんは説明を聞き終えると、大きく頷いた。


「わかった、ありがとう」


 そういって、2人は笑顔を交わして別れていく。

 そばを見ると、私が会話をしている隙に、弟たちが、むしゃぶりつくように肉を食っていた。 ちょっと! 私のぶんも、残してよね。


 呆れて笑いながら、私は再び歩きだす。


「饅頭、いかがですかーっ!」

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