表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/100

憶え屋で、みんなの日記を読もうっ!

 丘で酒を作り終わって、街に戻ってきた歌子。

 街に戻ってくると、道のあちこちで、お酒を飲んでいる人がいた。 やったっ! 今日は宴会の日だっ!

 この街では、たまにこうやって、街全体でお酒を飲むときがあるんだ。 意味があるのかは、私には分からないけど。

 幽霊の人も、『まぼろし』のお酒を作れる人は、飲んでるみたい。 幽霊の人も生身の人も、みんな一緒に混じって……うーん、こんな雰囲気、いいよねっ!


 賑やかでほんのり暖かい空気の中を、歌子ははずむようにあるいていく。 私はあんまり飲まないけど、宴会の時はみんな笑顔だから、やっぱり楽しい。

 あ、そうだ……みんなはどこにいるんだろう? あとで食事をしながら、一緒に過ごすことになると思うけど。 とりあえず、いつもの場所に行ってみるかな?


 そう思いながら歩いていると、ふと気づいたことがあった。 もう少しで憶え屋の場所なのだが、ここにも同じような建物が立っている。 ……これも、憶え屋かな?

 たしかユメが店舗をどんどん増やすと言ってたんだよね。 街のあちこちに作って、どんな場所にいてもメモ出来るわよっ!! っていう風にしたいんだって。

 2号店か3号店か知らないけど、元の『本社』の近くにも建てたんだ。 いいよいいよっ、ユメっ!! この調子で、どんどん作っていこうっ!!!


「へー、ここにもできたんだ……」


 歌子はそう呟きながら、店を覗いてみる。 結構人でにぎわっているようだ、たくさんの人の声が飛び交っている。 憶え屋って新しいサービスだから、興味本位で覗いてる人とかも、いるのかな?

 そう思いながら眺めていると、店から出てきた人が目の前に現れて、声をかけてくる。


「歌子ちゃん?」


 あ、この人は知ってる。 本社のほうの、憶え屋の職員の人だ。 返事をすると、その人は道の向こうの『本社』を指さしてきた。


「200年前の話を募集するっていう所に、新しい話が入ってたよ」


 あ! ついに来たかも。 200年前……スズネが生きていたころの、『飛び降りた人の死体が消えた事件』の話っ!

 スズネも歴史所で、自分の時代を知ろうとしてたけど、じつは私も調べてたんだ。

 ……とはいっても、『消えた死体』の話を知ってるって人が口座の中に現れて、書き込んできただけなんだけど。 詳しく話を聞きたいんですけどって、言っといたから……返事がきたのかもっ!


「ほんとですか! 分かりましたっ」


 歌子は返事をすると、さっそく本社のほうへ歩いていく。


 正直に言ってしまうと、私は最初、憶え屋はそんなに流行らないだろうと思ってたんだよね。 だって、仕組みが分かりにくいし、そんなに預ける記憶や記録なんて、みんなないんじゃないかと思ってた。 せいぜい使われるのは、後から付け足すように作られた、伝言サービスぐらいじゃないかってね。

 でも実際には、多くの人が利用してくれてるみたい! 通貨量の記録なんかの、真面目なことに使ってる人ももちろんいるけど……私たちみたいに遊び心で使ってる人も、結構いるみたいだよ。


 歌子は本社に着いて、馴染なじみのある小屋に入っていく。 中は人の声で満ちていて、今日も賑やかだ。


 憶え屋の中は、人が話すためのカウンター席がある。


挿絵(By みてみん)


 席はプライバシーのために区切られていて、隣の声は、いちおう聞こえないようになっている。 実際には、めちゃくちゃ聞こえるけどね。


 カウンターに近づいていくと、一つだけ空いている席があった。 そこの職員が、こっちに気づいて挨拶をしてくる。


「こんばんはー」

「こんばんは。 第3区画の歌子です、活動記録をお願いします」

「歌子ちゃんね。 ちょっと待ってて」


 了解して職員は立ち上がり、店の奥へ引っ込んでいった。 向かった先は、記録室だ。

 憶え屋の奥には記録室というところがあって、部屋中に紙の記録が置いてあるんだ。

 私も行ったことがあるけど……人の名前や、住んでる区画なんかを使って、順番に並べて整理しててね。 そこから私の記録を、今から持ってきてくれるんだ。


 歌子は仕切りの中に座ったまま、憶え屋の中を見回してみる。

 ……あ、壁に、たくさん文字が書かれてる。 『アキカゼの植物情報口座』『ミツエダの大陸マメ知識!』……? ……ほうほう、なんか口座の名前が、並べて書かれてるみたい。


 憶え屋では、誰がどんな口座を作ってるかは隠されていて、職員の人以外は分からないようになってる。 口座を名前を並べたリストを張り出せば、分かりやすいけど、さすがにプライバシーがあるからね。

 だから、例えば私の口座を誰でも書き込めるようにして、公開にしたって、誰も気づいてくれないんだ。 『歌子の都市伝説口座っ! 公開口座にしたよ! フゥゥーーっっ!!www』って大声で宣伝して回らないと、誰も気づいてくれないの。


 いま、私が見てる壁には、口座の名前がたくさん並んでるけど……。 もしかしたらこれは、公開口座だけは、宣伝もねて壁に張り出すようにしたのかも。 こうしておけば、わざわざ自分で宣伝する必要がないからね。


 ちなみに、私の都市伝説口座は、最初からなぜか有名だったんだ。 自分で宣伝しなかったのに、みんなが書き込んできてね。 スズネも私たちのこと、知ってたし……なんでだろう?

 ……そうか。 意外と私たち、有名なのかなっ!!!?? やったっ!!!ww


 歌子がガッツポーズを決めていると、2人の職員が戻ってきた。 さっきの人に加えて、もう1人いるみたいだ、声をかけてくる。


「あ、歌子ちゃん! ……はいこれ」


 ぽんと、何かを手渡される。 石ころだ、文字がびっしりと書かれた石ころが、私の手の上に置かれた。


「え?」


 意味が分からなくて、思わず声が出る。 その職員の人は、笑って答えた。


「あぁ、そうやって書いとけば、渡すだけで済むから」


 ここのカウンター席に座って、職員の人に内容を話してもらうのが普通だ。 だけど私が生身だから、物理的なメモを手渡すのも出来る……。 なんだ、それだけかw


「あぁ、そういうことか」


 私は、なんか変な笑いが出てくる。 こうやってると、誰が幽霊で、誰が生身だか、よく分からなくなってくる。

 目を落とすと、石ころには文字がびっしり並んでいる。 書かれてるのは、200年前の『消えた死体の話』の詳しい話みたいだ。 200年前の体験談のようだから、話したのは幽霊の人だろう。

 でも、ここに書かれた文字ははっきりとしてて、指でさわれる。 まるで幽霊が文字を書いてるような感覚になって、……うーん、もうなんだか分かんなくて、ぐちゃぐちゃだw


 石ころを渡してくれた職員は、面白がるような顔で笑いながら、奥へ引っ込んでいった。

 もう一人の職員は、私の目の前に座って、別の紙束を広げていく。 都市伝説が書き込まれてる、例の私の記録帳だ。 職員の人は、記録の紙をぱらぱらとめくっていった。


「えーっと? ……じゃあ、どうする?」


 200年前の情報は手に入れたし、あとは普段の感じで、適当に聞いてみようかな。 小春たちも最近はよく利用してるみたいだし、何か書かれてるかも。


「なんか、ここ数日で書かれたこと、ありますか?」


 職員の人は紙をめくって、記録帳の中を眺めていく。


「えーっと……ホナミちゃんが、書き込んでる。 『今日は、東の森に行った。 ここの高台は、眺めがいい。 でも、人は少ないから、おすすめだよ』って」


 ホナミは、またいつものように、島の中をふらふらと散歩しているみたい。

 ……あぁ、やっぱり不思議な気分っ! 今までは私一人しか、こういう日記みたいなことはできなかったから。

 それに、交換日記をみんなでしてるみたいで、新しい感じっ!


 歌子はウキウキして、さらに聞いていく。


「あぁw 他には?」

「他には……スズネちゃんが、書き込んでる。 『歌子、また新しいの考えたよ。 雨の日にしか入れない口座とか、どう? ……あ、だけど、雨の日には、憶え屋は休みなのかな』……だって」


 職員の人も、思わず笑っている。 雨の日には、憶え屋も休んでるだろう。

 でもそんな日に、家にいながら、家の仕切りを超えてみんなで自由に集まれる場所があったら、楽しいだろうな。


 そんなことを考えていると、職員が思い出したように言った。


「そうだ、さっき、これとは別に、伝言預かってたみたいだよ。 ……おい!」


 そういって、近くを歩いていた別の職員に声をかける。 呼ばれた人は振り返ると、こっちを見て、伝言を伝えてきた。


「え? ……あ、歌子ちゃん。 小春ちゃんが、『第1区画の、西のはしの、下のほう家で待つ』……だって」

「あぁ、分かりました」


 第1区画っていうところは、ふだん私たちが行かない所だ。 いつもの場所じゃなくても、こうやって伝え合えれば、自由に約束の場所を決められるっ!


 そろそろ、小春たちのいる場所に行くかな? 歌子は口座を開くのをやめて、立ち上がっていった。 ……あ、そうだ、壁に書かれてる口座のことを、聞いてみよう。


「これって、もしかして、公開してる口座ですか?」


 立ち去りかけて、壁に書かれてる口座のことを聞いてみる。 片付けをしていた職員の人は、頷いて答えた。


「そう。 誰でも入れる口座は、ここに書くようにしたんだよ」

「へー! ……そっか」


 これで、宣伝とかをしなくても、公開してる口座のことをみんなに伝えられる。 他の人が公開してる口座も、自由にチェックできるようになるし……ムフフ、さらに色んな楽しいことが、起こる予感っっ!!



 歌子は憶え屋を出ていき、夜の道を再び歩き出した。 宴会で明るい街は、賑やかさを増してきていた。

 ……そういえば、さっき石ころをもらったんだった。 この中には、200年前の『消えた死体』のことが書かれてるんだったよね。 えーっと、なになに?


「……あ」


 石ころを読もうとしていた歌子は、ふと気づいたように顔を上げる。 見ると、道の向こうにスズネがいた。 一人で歩いて、ブラブラと辺りを眺めているみたいだ。


「スズネ!」


 スズネはぼんやりと、退屈そうに辺りを眺めていたが、こっちに気づいて足を止める。


「あ。歌子」

「小春が、いつもの場所で、待ってるみたいだよ」


 それを聞いたスズネは、一瞬たじろいだように見えた。 迷うような、変な表情を浮かべるが、すぐにいつもの顔を取り戻し、自然な感じをしてみせた。


「うーん……。 ……あ、私はいいや。 じゃあね!」


 背中を向けて、スズネはスタスタとどこかへ去っていく。 ……え、なんで?!


「いいの?!」


 一瞬遅れて、スズネの後ろ姿に声をかける。 しかし、スズネの姿は通行人の中にかき消されてしまった。


 ……なんで? ……まあ、しょうがないか。 そんなことも、あるのかも。

 誰だって、一人になりたいときはある。 スズネが今はそうなのかもしれない。


 私がなにか悪いことをしたって可能性も、あるけど。 うーん……友達になってから、みんなであちこち連れまわしすぎたかな?

 まあ、ほっといて飯食おうぜ!!!(ミツバ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ