執行官の事件簿
異世界転生者は、この世界に来た時に神から恩恵を授かるらしい。
その恩恵はチートスキルと言われ、多くの者が我が世界に様々な成果をもたらした。
同じ異世界転生者でも、善良な者と邪悪な者は実在する。
400年前、異世界転生者が度重なる悪事を重ね過ぎ、国益は勿論、治安も悪化させた事で正式に異世界転生者を裁く法律が出来た。
それから沢山の異世界転生者が裁かれ、罪状の重さから死刑になる者も続出した。
だが、それでも異世界転生者は犯罪を犯す。
私はシュバルツ・ドワフ(28)。騎士団団長と異世界転生者執行官の二足のわらじを履いてる。
異世界転生者執行官とは、罪状により裁判を通さず犯罪者である異世界転生者を見付け次第速やかに殺す権利を持つ者の事だ。
要するに死刑執行人の事である。
今回は、15歳の異世界転生者で男爵令息の少年の起こした事件から語ろう。
一昨日、シュナザ侯爵家の一家や使用人含め、50人が一晩で皆殺しにされた。
殺された理由は、男爵令息が侯爵家令嬢に公衆の面前で婚約破棄されたからしい。
元々、令嬢と令息は価値観の違いから喧嘩が絶えず、令嬢は悩んだ末に婚約破棄する事で自ら令息に慰謝料を払いたかったらしい。
令嬢はそのあとも、幼馴染みの伯爵令嬢と男爵令息を引き合わせ婚約させようと考えていた。
合わない自分よりかは、可愛い幼馴染みの方が彼も良いだろうと。
自ら悪者になってまでも、令嬢は先を考えていた。
だが、男爵令息は目先の怒りで全てを支配されたのだ。
深夜、侯爵家を襲撃した彼は令嬢をズタズタに引き裂き、幼い弟妹も肉塊にして、夫妻をバラバラに引き裂いた。
勿論、その前に使用人や護衛騎士達も挽き肉のようにしてから。
現場に入った私や部下は、おぞましい光景に言葉を失った。
人間は我を見失うと此処までするのかと。
令嬢の日記を見て我々は涙を流さずには居られなかった。
今回の婚約破棄は、事前に侯爵家から男爵家に事情が伝えられていた。
だが、令息だけは令嬢の真意を見ようとはせずに凶行に走ったのだ。
既に男爵家一族は絞首刑が執行され、残すは逃亡中の令息だけである。
私は愛用の鎌を魔力で具現化すると、夜の街を令息の魔力探知しながら走った。
スラム街の更に奥で、身を潜める令息を見付けた。
令息は血塗れの服を来たまま、身体を震わせ頭を抱えていた。
「僕は悪くない!!僕は悪くない!!」
譫言を繰り返す令息に、私は目を細める。
「君は大罪を犯した。侯爵家の家族や使用人全てを残酷に殺し、その未来を奪ったんだ。君は罪から逃れられないし、私は君の刑を執行する」
私は感情のない声で告げた。
「うわぁああああ!!」
令息は魔力を暴走させると、瞳は赤く染まり、体つきが変わり異常な筋肉が発達すると四つん這いになって飛び掛かる。
「チートスキル【ヘルバーサーカー】か」
ヘルバーサーカー。
自分の命を燃やして狂戦士化するスキルで、自我を怒りで失うので倒された相手は残酷に殺されてしまう。
そう、侯爵家の家族や使用人もヘルバーサーカーで殺されたのだ。
「だが、無駄だ」
「うがあああっ!!」
令息の振り降ろされた豪腕を私は避けると、擦れ違い様に鎌で彼の身体を真っ二つに斬った。
二つに別れた上半身と下半身が地面に落ち、私は鎌に付いた血を返しで拭う。
チートスキルの異世界転生者は、自らの力の大きさに振り回される者が多い。
そのせいでまた、新たな悲劇を繰り返す。
私は異世界転生者を再び執行するべく夜の闇へと消えた。