召喚編①
「大変申し訳ないのですが、あと1週間返済を待っていただけないでしょうか」
瞳を潤ませながら懇願してくるのは、新人神官のエリカだ。
「全く問題ないですし、むしろ支払免除でいいですよ。この世界に召喚されて以来、エリカさんにはずっとお世話になりっぱなしですから」
パッと笑顔になったエリカは、一瞬でまた神妙な面持ちに戻った。
「返済延期をご了解いただけたこと、本当にありがとうございます。ただ、支払免除だけはお考え直しいただけないでしょうか。せっかく皆で整備した『ルール』を破ってしまうことになりますので」
つぶらな瞳でまっすぐに見つめながら話してくるものだから、たまらず俺は視線を窓際に向けてしまう。
「『ルール』の中に支払免除の特例も盛り込んでおけばよかったな〜。今から特例追加できないかな〜」
俺はそう呟きながら、つい1ヶ月前の出来事を思い返していた。
約1ヶ月前、資源に恵まれないリュウト国の神官たちは、経済苦境を打破するため、やむにやまれず禁術である召喚魔法を発動した。
「皆よく聞いてほしい。この術は確かに、人の道を外れた禁術として指定されている。ただ我々にはもう後がないのだ。危機に貧するこの国を変えるにはこの方法しかないことを、どうか理解してほしい」
神官長が話を終えると、周囲の神官もおもむろに頷きつつ、各々に割り振られた術式の発動を始めた。
1人また1人、ブツブツと唱えながら色とりどりの光に包まれていく。色鮮やかな光はやがて混ざり合い、渦を巻いて部屋の中央へと集まり、やがて人型となり霧散した。
「あぁ!?んだよまぶしいなぁ!」
ブラック企業で朝から晩までこき使われ、いつも通り終電間際で帰宅してベッドに直行し、気絶したように眠っていたはずだった。・・・さっきまでは。
急に光で目の前が真っ白になり、驚きと共に飛び起きると、見慣れない厳かな部屋の中央にいた。そしてなぜか和装の謎のおじさん達に囲まれていた。
「成功だ・・!」周囲を取り囲みながら、口々に感嘆の声を漏らすおじさん達に恐怖を覚える。
(なんだこの状況。よく分かんねーけど、何かとりあえずやべーな・・・)
寝ぼけながら苦笑いをしていると、中央にいた初老のおじさんが歩み寄って来た。
「私はリュウト国神官長のサトリと申します。あなたは我々の術によりこの国に召喚されました。突然のことで驚かれていることでしょうが、どうか我々の話を聞いていただけないでしょうか」
「まじすか・・・苦笑」
(なんかとんでもない状況になってるやんけ。でもこれワンチャン明日から出社しなくてよくなるやつでは?)
数秒前までは何が何だか分からなかったが、長い社畜人生から解放される可能性が見え隠れしてきたことで、多少は冷静さを取り戻すことができた。
「ちょっと詳しいお話を聞かせてもらってもいいですか。というかさっき言ってた召喚って何ですか」
「冷静にお話を聞いていただけそうで、ほっとしました。手短に説明させていただきますが、その前によろしければお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「ユウキといいます。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願い致します。それでは、ユウキ様の現状について、簡潔にご説明させていただきます」