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ショッピングモールの地下にあるケーキ屋へと連れてこられた。どうやらカフェが併設されているらしい。
「ここよ、私のお気に入りなの」
「美味しそうなケーキがたくさんありますね」
色とりどりのケーキがショーケースに並ぶ。抹茶のショートケーキなど珍しいものもあった。
「私はこれね、ショコラケーキ。これしか勝たん」
どうやらすでに何を食べるか決めていたらしい。きれいなチョコレートケーキだ。タルトにチーズケーキ、何にしようか迷う。
「まだなの?」
「少しぐらい待ってくださいよ、すみません」
店員さんに声をかけて会計をする。結局僕はショートケーキにした。ショートケーキなら間違いはないだろう。
「お持ち帰りですか?」
「ここで食べたいんですけど……」
「申し訳ありません、ただいま満席になっておりまして。お待ちいただければご案内出来るのですが……」
店の奥の方を覗くと席は埋まっていた。3時というおやつどきだし仕方がないだろう。
「どうします?待ちますか?」
「んー、あなた、映画館の事務所は借りられるかしら?人に聞かれたらダメではないけど積もる話もあるし」
「いいですよ。やっぱり持ち帰りでお願いします」
「ありがとうございます。お買い上げありがとうございました」
さわやかな笑顔で店員さんは僕たちを見送った。
映画館の目の前にお客さんらしき人がいる。……映画館を閉めるのを忘れていた。慌ててお客さんに駆け寄る。
「大変申し訳ありません、諸事情がありまして少しの間席を外しておりました。何か見ていかれますか?」
「スタッフさんがいないのでびっくりしました。そうですね、あれを観たいです」
お客さんが指を指したのは流行りの映画だった。やはり人気だ。
「かしこまりました。今回はこちらの不手際ですのでお代は結構です。ではこちらに」
館内に入りチケットを渡し、場内へと案内する。
上映開始すると後ろからついてきた彼女がボソリとつぶやく。
「……ここまで仕事できないなんて。ありえないわ」
「いつもはもう少し出来ますから」
流石にここまでポンコツだとは思われたくない。説得力ないなとは思いつつ早口に弁明する。
「まぁいいわ、私達は事務所に行きましょ。ほら、案内しなさいよ」
うなずいてロビーを進む。はしっこにあるスタッフ専用口のドアを開けて招き入れる。
「ここです。どうぞ」
部屋の中は少しごたついているが、座るスペースはある。軽く荷物を片付けて座ってもらう。とは言っても散らばってる物を一箇所にまとめただけなのだが。
「そうね、回りくどいことは嫌いだからズバリ聞くわ。……あなた、人間?」
スッとパイプ椅子に腰掛けた彼女が尋ねてきた。言葉が空間に静けさをもたらし、時計の秒針音がやけに大きく響き渡った。