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横浜のとある映画館にて男が一人働いている。その男は慣れているのか気にしていなさそうであるが、客はちらちらと男に視線を投げかけていた。男の顔立ちはとびきりの美形ではないが、よくよくみると筋の通った鼻に薄い唇、切れ長の一重とと整っている。だが、客が興味を持つのはイケメンだからなのではない。髪が老人のように真っ白なのである。若々しい顔と動きに白髪というアンバラスさが男を目立たせていた。
(この次もこの映画か。興行主にとってロングヒットするのはいいんだろうけど、そろそろ飽きてきたな……。)
チケットもぎりをしながら来場特典を客に渡していく。老若男女幅広い層に当たった映画らしく色んな人がシアターへ入って行った。上映開始時間間際に一人の少女がチケットを握って駆け込んでくる。走ってきたのか少し息が上がっている。
「もう始まってしまいましたか?」
「今は宣伝を流しているので本編はまだ始まっていませんよ。場内は暗いのでお気をつけて下さい」
「ありがとうございます」
その少女はお礼を言うとするりとドアの向こうへ消えて行った。
「あ、特典渡し忘れたな……」
あまりにも流れるように場内に入って行ったので渡すタイミングをすっかり逃してしまった。あとで渡そうと一つだけ特典を片づけずに近くのテーブルに置いておく。
(たしかあの子の特徴は、)
出てきた時に見逃さないよう、どんな子だったか思い出していく。髪は真っ黒で、白いリボンでポニーテールをしていた。そして、服は膝丈ぐらいの水色のワンピースに黒いローファーを履いていたような。さっき会ったばっかりなのになかなか思い出せないものである。
「さて、あと1時間半ちょいかな」
どっかりと入り口前の席に座って、もしかしたらあとから入ってからかもしれない入場者を待つ。やることがなくて暇すぎる。仕事中だからスマホも触れず、手持ち無沙汰だ。できることは椅子に座って寝るだけである、とばかりに目をつぶる。もちろん、本当に寝るつもりは……なぃ……。