93/木
これは憧れを拗らせたヒロインを振り向かせるための物語(違う)
決戦の日。(スプラの)
品評会の締切は昨日の昼の12時までであり、出来ることは全てやったという報告は受けている。ただ、スプラが鍛治の道を進んだことは知っていても、どんな作品を作り上げたのかは聞いていなかった。
グレンが使いそうな装備と予想しても、剣なのか、盾なのか、鎧なのか、アクセサリーなのか。
品評会自体は、今日の昼に順位発表はされているはずなので終わっているが、オークションが明日明後日の2日掛けて行われるはずだ。
オークションに出品するかは製作者の自由であり、勿論スプラは出品していない。
「今日は、いきなり予定空けさせて悪かったわね」
「俺もスプラがMLやってくれて嬉しいし、気にすんなって!今日はレンテと二人でレベリング手伝うからよ!」
そしてその場に何故か呼ばれている俺。
せっかく勇気を出して二人きりで遊べるチャンスを得たのに、そこでヘタレるのは流石スプラである。
「じゃあ早速何処かのフィールドいくか!ちなみにスプラは今レベルどのくらいだ?」
「16よ」
「「え?」」
「あ、いやなんでもない。続けてくれ」
驚いてつい声が口を出たが、いつの間にそんなレベルに。
でも一週間以上放置してたのか…。
俺にできることが無かったとはいえ、この話を深く掘り下げると墓穴を掘りそうなので、君子は危うきに近寄らず、だな!
「もう16になってんのか。じゃあプリムス周辺じゃ、経験値足りないよな…」
「その、実は今日やりたいことがあるのよ」
「そうだな、もうやりたいことまで見つけてるなら、今度の土日のどっちかで王都目指すとして、今日はそのスプラがやりたいことすっか!」
「それなんだけど、もう王都までは転移陣開放しちゃってて…」
「もうそんなに進んでんのか!?頑張ってるんだな!」
初心者支援とはいったい…。なんて野暮なツッコミをしないのがグレンクオリティ。
「グレンと一緒に遊びたかったからね」
「別に同じゲームしてるんだし、誘ってくれればいつでも一緒にやるぞ?レベルとか気にしなくていいって!俺も気軽に誘うしよ」
「おんぶに抱っこは私が嫌なだけよ。それで、王都に行きたいんだけど、いいかしら?」
ということになったので、転移陣で王都に移動することに。
さっきから周囲の視線が痛かったので、願ったり叶ったりです!
王城に併設された騎士団の詰め所で、スプラが何やらやり取りをしたあと、王都に三枚ある壁の一番外側の外壁の上にやってきた。
こんなところに登る許可よく下りたな。
騎士団でのやり取りは、品評会に出していた出品物の受け取りだろうし、この場所はテューラ殿下にでも頼んで事前に許可を取っていたのだろう。
品評会は公式イベントではあるが、闘技大会と同じく主催はセントルム王国だし、諸々の準備や進行も全て王国主導のもと行われている。
昼にあったらしい王城での品評会の様子は、国内全ての町と都市で空中投影されていたらしい。
話は逸れるが、MLの公式イベントは今のところ、ML内での出来事に運営が便乗して、運営がやっていることといえば、プレイヤーへの広報担当みたいなイメージを俺は受けている。
何が言いたいかといえば、品評会イベントにおいて、アイテムの出品は冒険者ギルドか騎士団詰め所に足を運んで手続きをしなければならなかったし、出品物の回収は騎士団詰め所に行かなければならなかったのだ。
「ここの景色好きなのよ」
王都外周をしばらく囲むのは、広大な穀倉地帯だ。
魔法やら、魔道具やらで成長速度を早められている小麦は、季節に関係なく日によって表情を変えるため、割とファンタジーしていて面白いと王城から眺めていたときに思ったものだ。
今日は刈り入れ前なのか、黄金麦穂の絨毯が何かの光にライトアップされていて、夜だというのに視界を楽しませてくれる。
「稲穂か麦穂の違いはあるけど、田舎のお爺ちゃん家みたいで心が安らぐのよね」
「そういえば、昔はよくスプラの爺ちゃん家に遊び行ってたな…」
幼馴染二人の思い出なのだろう。
未だになぜ連れて来られたのか分かってないし、知らない思い出話に首を突っ込む場違いな度胸もないので、柳のように静かに佇むプレイ。
「ふぅ…。思い出話はこれくらいにして、本題に入らないとよね」
黙って聞いてるだけのこっちにまで緊張感が伝わってくるんだが…。
まさか、今日ここでなのか!?
「私がML始めたのは、グレンと一緒に遊びたかったからなの」
「おう」
真面目に耳を傾けるイケメンは、いつにも増してイケメンです。くせう。
「でも、分かっているつもりだったけど、思ってた以上にグレンは活躍してるって聞いて、追いつくのは厳しいと諭されたから…。それでも諦められなくて、まだ可能性がある生産職の道に進むことにしたのよ」
「…なるほど、あれはそういうことだったのか」
なに、俺の方チラッと見て言うのやめてほしいんだけど。何かしたっけな…。
「…すまん、スプラ!少しでも強くな」
「待って、まずは最後まで聴いてくれないかしら」
「そうだよな、ごめん」
グレンは攻略組と呼ばれる集団の中でも、闘技大会の本戦に出たくらいには一握りの強者だしな。
常に良いものを身に付けるのも大事なことなのだろう。
借りた杖も返してしまって、俺は未だに初心者装備ですがなにか?
「グレンの隣に並び立つために、色んな人に助けてもらったわ。そのおかげで、自分の努力以上のものが出来てしまったのはちょっと複雑だけど…」
スプラが一本の片手剣を取り出す。
赤い鞘には宝石のようにカットされた魔石が組み込まれているが、決して華美ではなくシンプルなものだ。
「グレン、これを受け取りなさい。貴方のために作ったの、私一人じゃ完成させられなかったものだけどね」
「おいこれ!まさかスプラだったのか!?」
「剣の銘は紅蓮、アイテム種別は魔剣よ。キーワード『火よ』で刀身が火を纏って、キーワード『紅蓮』で炎球が出せるわ」
なにやら、驚いている様子のグレン。
「…品評会鍛治部門の最優秀賞と全く同じ剣じゃないか。どうやって…」
「わたしの努力…と言いたいけど、そこの非常識な友達が手助けしてくれたおかげよ」
非常識ですか、そうですか。
初心者がわずか二週間で最優秀賞取るのも非常識だと思いますけど!?
ここはアウラみたいに開き直るところだろうか…。
「でもその剣は、普通の設備と、今出回っている素材、私のスキルをフル活用して作り上げた中での最高傑作。もっと性能の良い剣も出来たけど、私の今の実力を知ってほしかったから」
王女殿下や、国内最高峰の職人の助言などはあったのだろうが、まさか聖霊王産アイテム無しで最優秀賞取ったのか?
スプラさん、マジパネェっす!
「どう?わ、私をグレンの専属鍛冶士にしてくれない、かしら。グレンの装備は私が作って、たまに足りない素材なんかを二人で一緒に取りに行ったりして、それでその…」
「……」
「グレン?」
俯いて固まるグレン。
「…さっきは早とちりして悪かったな。そうだよな、若葉はいつでも俺のヒーローだもんな…」
最後は消えいりそうなか細い声で聞き取れなかったが、嬉しそうな顔をしている。
「こんな、プレイヤーじゃまだ誰も作れないもん持って来られたら断る理由がひとつもねぇよ!こっちでもよろしくな、スプラ!」
「本当!?ありがとうグレン!」
「ちょ、おい!抱きつくなって!」
「あ、その、嬉しくてつい…」
真っ赤です、お互いに。
うぜぇ、さっさとくっつけよ。ぼかぁ、特等席で何見せられてるんですかねぇ!
「あのね、決めてたことがあるのよ」
「他にもあるのか?」
あ、最初の緊張感が戻って来たような雰囲気。
「あ、あのね!…す、好きよ、グレン。ずっと、ずっと昔から。少し疎遠になっちゃった時も、グレンがゲームにハマるようになってからも、どんなに一人で寂しくたって貴方のことが頭から離れたことはないわ」
そんな唐突に始まった告白に、グレンは驚きで目を見開いて固まってしまった。
「決めてたの。今日成功したら、告白しようって。それが手助けしてくれた皆へのひとつのけじめだし、いい加減私も前に進まなくちゃってね」
数秒か、数分か。時が止まったように静寂が場を支配した。
等間隔の添えられた松明の光だけが照らす外壁の上は、王都の営みよりも、小麦畑よりもなお暗く、より一層沈黙が重たく感じる。
そんな静寂を破ったのは、驚く思考を整理して、気負う様子もなく語り出したグレンだった。
「俺の中の若葉はさ…。昔、お前に助けられてから、俺にとってのヒーローなんだよ、憧れなんだよ。若葉の強さに憧れて、同じように誰かを守りたいって想ってきた」
「あ、あたしは強くなんかない!友則がいないと、友則がそばに居てくれないと…!こんなところまで追いかけてきちゃうくらい…、弱いよ」
「こんな知らない場所で、こんな短期間で頭角を表せるんだから強いさ。…でもさ、俺がまだ弱いんだよ。俺がゲームを始めた理由はな、ここなら頑張れば強くなれて、誰かを守ることができるからなんだ。あの日の理想通りの自分に成り切ることができたから、ハマったんだよ」
おい、あんまり強い強い言ってやるなよ。
結構気にしてるっぽいぞ?
「正直、若葉が俺のことそんな風に思ってくれてたのは意外だったけど、すげぇ嬉しい」
「じゃあ!」
お?もしやこの流れは成功の兆し!?
いやぁ、長年そばで観察してきた身としては感慨深いものがありますなぁ。
「でもさ、だからこそ、俺はこのままじゃダメなんだ」
「あ…え?」
「若葉を追いかけてるだけじゃ、隣には並び立てない、ずっと成長しないままの俺だ」
「そんなことないわよ!」
「いや、俺が気になっちまうんだ。若葉の気持ちに応えるのに、後ろ向きな気持ちを持ち込むのは嫌なんだ。だから、俺がちゃんと自分の目標を見つけられて、若葉の隣に並び立てるようになるまで待っててくれないか?」
まあ、うん。混乱する気持ちは分かるよ。途中まで成功しそうな雰囲気あったもんな。
しかし、成功の兆し!?なんて言ってみたが、やっぱりという感想しか出て来ない。
考えてもみてくれよ。
もう七、八年拗らせてるんだぜ?グレンの恋愛感情は捩れに捩れまくりんぐよ。積年の想いを跳ね除けるほどには、グレンの憧れは凝り固まってしまっているのだ。
それに変に真面目なところあるからな。
兎にも角にも、それから二言三言ぎこちない会話が交わされて、グレンは帰ってしまった。
「振られちゃったわ」
「いや、あれは振られたのか…?」
「グレンの言葉、どのくらい本心だったと思う?」
「80%」
「残りは?」
「スプラと付き合ったらゲーム出来なくなりそう」
「…フッ!」
「ぶごぁっ!?」
「せめて10%よ!」
「おまえもそう思ってるんじゃねえか…がくっ」
俺に当たんなよ!!
まあ、そんな幸せそうに笑えるなら今日だけは殴られといてやるけどさ。
砂糖吐きそう。
難しい〜!
作者の想定外の方向に、スプラが一番好き勝手に暴れ回ってる…
違和感あったら是非教えて欲しい…
修正しまふ




