90/月
昼休みの教室にて、俺は修羅場に遭遇していた。
そのキッカケはいつものトモとのML雑談だった。
「おいタケ!あんなに可愛いエルフのお姫様どこに隠してたんだよ!」
「お前エルフスキーだったのか?」
「それもあるけど!やっぱり騎士には儚くて可憐な仕えるべき姫が必要だろ!紹介してくれ!」
「ふーん…。友則ってああいうのが好みなんだ?」
「好みのタイプはまあ…そうだな。優しくて思い遣りがあって、お花とか小動物を愛でてるような儚げな、守ってあげたくなる女の子だな。あのお姫様は感情表現も豊かで、照れたようなはにかんだ笑顔なんてドストライクだな!」
「…じゃあ、友則はセレスティアみたいな子と付き合いたいんだ?」
「あ?さっきから何言ってんだ?それとこれとは別だろ、タ、ケ…」
何やら拳高々に力説していたので気づかなかったのだろうが、誘導尋問していたのは俺ではなく、途中から現れた若葉だったのだ。
こんなに良い笑顔の若葉は久々に見た気がする。
巻き込まれないようにひっそりと佇んでおこう、うん。
「よ、よう若葉!先週はテストだったし、なんだか久しぶりな気がするな!」
「そうね、友則はゲームだなんだってすぐ帰っちゃうから、話しかける余裕もなかったわ」
「お、おう、それはすまんかった…」
ここしばらく、お前が放置しているせいで俺の方にとばっちりが来ていたのだ。しっかり反省してもらうためにも、もっとこってり絞ってやってください姐さん!
「なにか!何か用事があって来たんじゃないのか!?」
「なによ、用事がないと休憩時間に幼馴染のところに来ちゃいけないわけ?」
「そういうわけじゃ、ないんだが…」
「まあいいわ。友則、木曜日空いてる?」
「その日はちょっと…」
「空いてるわよね?」
「…はい、空いてます」
哀れなり。
蔑ろにしていたツケをここでとことん払わされるがいいのだ!ふはははは!
しかし、何というか若葉少し変わったか?
前はトモを前にすればタジタジで、借りて来た猫のようになっていたのに。既にトモを尻に敷いていて笑いを堪えるのがやっとです!
「空いてて良かったわ。トモが最近ハマってるゲームあるでしょ?」
「マグナリベルタスな」
「そうそれ。私も最近始めたんだけど、初歩だけでいいから教えて欲しいのよ」
「え、若葉も始めたのか!?よくおじさん達許してくれたな!」
「習い事のことなら私がやりたいから、やらせてくれてるだけよ」
「まあMLのことだったら俺にドンと任せろよ!若葉だったら、運動神経良過ぎるくらいに良いから、すぐに有名プレイヤーの仲間入りするって!」
「別に私は有名プレイヤーなんて…。トモが居てくれればそれでいいっていうか」
「そうか?困ったら何でも言ってくれれば助けるけどよ、タケも若葉も欲がないよなぁ。いや、レンテ師匠は今や最強プレイヤーか!」
ちっ。余計なこと言ってないで、その朴念仁気質治しやがれ!
「そうなのよ!もう私は行くから!木曜日、午後8時にプリムス中央広場に集合よ!」
言いたいことを言い終えて、そそくさと自分の教室に帰っていく若葉を見送る。
「…若葉ってあんなにグイグイ来るタイプだったっけ?」
「いや、元からあんなだったろ」
俺に対してはずっとガキ大将みたいな感じだったし、あの件以前はもっとガキ大将だった。まあ、それも小学生の頃の話なんだが。
「ところでタケ、知ってたろ?」
「何をだよ」
「とぼけんなって、若葉がML始めてたことだよ」
「……」
俺の周りは全員エスパーか何かなのか…?
「でもそっか、若葉もML始めてたのか…」
「そろそろ、ちゃんと向き合ってやれよな」
「…おう」
…。
「それで、セレスティア様のことなんだけど…」
「ちょっと若葉のところ行ってくるわ」
「あ、おい!冗談だって!」
午後9時、ログインしました。
昨日は緊急クエをクリアして、打ち上げやなんやと雑貨屋えびすのクランホームでどんちゃん騒ぎをしてお開きだった。
楽しかったのもそうだが、ランキング報酬各種の内容も教えてもらえたりしてなかなか有意義でもあった。
俺が欲しいと思ったのは、東郷が獲得した【攻撃吸収】なんかは継戦能力高くなるので羨ましいスキルだった。物理・魔術関係なく、敵に攻撃を当てればダメージに応じてHP・MP両方回復してくれるそうだ。
他にも、累計回復報酬の【月夜の癒し】は、月が出ている夜限定だが、回復効果を補正(大)してくれ、一日一度だけ蘇生が可能というスキルでもあった。
そう、制限は大きいが、ついに蘇生可能なスキルをプレイヤーが獲得したのである。
獲得したのは星海きらりというプレイヤーで、なにやらML界隈では人気の配信者らしいが、かなり感謝された。
プレイヤーで唯一や、最速攻略とかいうのは、良いトレードマークになるのだろう。
ともかく、色々と場当たり的に行動し過ぎて、斜め上の休日になってしまったが、結果としては上々と言えよう。
批判的な意見は少ないみたいだし、むしろ感謝してくれるプレイヤーが多数派らしい。あらゆる情報を出血大サービスした甲斐があったな!セシリアさんには感謝しきりでございます!
「とはいっても、今プレイヤーが多い町中を呑気に歩き回るのは身動き取れなくなりそうだし、ほとぼりが冷めるまで…」
前にも同じようなことを言っていた気がする。
まあ、スプラの決戦の日である木曜日までは、王女殿下二人組はサポートに回るんだろうし、今日併せて3日間は精霊界でスキル熟練度稼ぎでも大人しくやっておこうか。
どこかの異界で頑張っているであろうスプラの様子を見に行ってもいいのだが、邪魔になっても嫌だし、俺に手伝えることももう無いしな。
ということで、精霊宮殿のいつもの部屋に居るわけだが、ひとつやり残していたことを思い出した。
源泉についてである。
「なあ、源泉を拡張したらどうなるんだ?」
「どう、って言われても領域が広がるだけだよ?所属人数が増えれば国機能とかも解放されるけど、今ここに所属しているのはレンテとわたし達、妖精達だけだから、あまり領域広げ過ぎても持て余すだけじゃない?」
「領域内にはモンスターが湧かなくなりますが、湧ける範囲が狭まることで、モンスターが強くなったり、徒党を組んだりする可能性が高まりますね」
「それって湖を範囲に入れたらナマズも居なくなるってことか?」
「今湧いてるモンスターは消えないよ。それに領域内で湧かなくても、湧いたモンスターが外から普通に入ってくるし、そういう意味でも少人数じゃ管理できないから、無闇に領域広がるのはオススメしないかな」
「ですが、レンテの言うとおり新しい混沌鯰は湧かなくなるでしょう」
うーむ、それは困るな。
フェアリーズと約束した手前、ナマズさんが居なくなるのは困るし、これからもご褒美として居続けてほしい。
どれ、湖の周囲を囲むように領域に入れて、湖だけ領域外には…おっ、出来るじゃん!
精霊界のモンスターって今のままでも俺の手には負えないし、多少強くなったところで変わらないから拡張しちゃえ!
〈支配領域【源泉:精霊宮殿】が拡張されました〉
〈所属上限が〔130/500〕から〔130/550〕に増加しました〉
なるほど。領域が広がれば所属上限が増える、と。
精霊宮殿から湖へ続く道を主に、湖の周囲は鉛筆の線のように囲んだだけなので何とも言えないが、この拡張範囲で50人は多いのか少ないのか。
取り敢えず、湖周辺を一定範囲拡張して所属上限が700になるくらいで止めた。まだまだ拡張出来そうだが、湖で遊んでいるときに外からモンスターが襲ってこなければそれでいい。
ディーネが言うように、広げ過ぎても管理できないだけだしな。




