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88/日


戦線に復帰するや否や突っ込んでいったヴァングや東郷達と入れ替わるように、テューラ殿下が後ろに下がってきた。



「もう方針が固まったのですか?もう少しゆっくり作戦を練ってもらってよろしかったのに」


「いや、10時間以上戦いっぱなしなんでしょ…。ちょっとは自重しろ下さい王女殿下」



レイドボス戦の最中、悠長にも作戦会議を開いていたわけだが、それもひとえにテューラ殿下が戦線維持を買って出てくれていたお陰で出来ていたことだった。


この王女殿下は緊急クエストが始まってから今の今まで、休憩もせずに戦いにのめり込んでいたにも関わらず息切れ一つ起こさずに、いつもの腹の中のドス黒さを隠しきれていない笑顔ではなく、屈託のない笑みを振りまいていらっしゃる。


タンクでさえ空中散歩していたのに、テューラ殿下はお得意の、攻撃を受け流しながら反撃までするとかいう魔術パリィ(理解不能)で、倒さないように手加減しながら時間稼ぎ。ちょっと意味が分からない。


まあ、精霊化スキルの物理を透過するという特性上、テューラ殿下とは相性が良かったのかもしれないが。


だが、魔法という存在を知った今、魔術でそれをやるより魔法の方が簡単だろうと聞いてみれば、「それでは修行になりませんもの。魔術士たるもの、最大の弱点をどう補うかは永遠の命題。魔術の道は一日にして成らず、ですよ!」だとさ。


そうだとしても、きっとその道は魔術士とは呼ばないと思うんだ、俺は…。



「フェアリーズ、みんなにバフ、姫ウサギにデバフを!ディーネ達は危なそうな人を魔法で援護してやってくれ!」


「レンテはサポートですか?せっかく面白いモンスターと戦えるのに勿体ないですね」


「別に俺は強敵と戦いたい欲とかないからいいんですよ。それより、実際に戦ってみて気をつけるべき点とかないんですか?」


「ひと通り皆様も分かってらっしゃるでしょうからこれといって…。ああ、そうですね。精霊化中は基本的にこちらの物理攻撃は透過してしまいますが、それは相手も同じことです」



精霊化中の姫ウサギは物理攻撃が出来ないってことか。俺自身が物理攻撃なんてしないから、そんなデメリットには全く気が付かなかったな…。



(わたくし)と違って、物理攻撃を捨てているわけではないようですので、次の爪撃に繋げる為に精霊化の発動は一瞬で解除します。物理攻撃を当てたいのならば精霊化解除直後の爪撃へのカウンターで、魔術を当てたいのならば前衛が精霊化を発動させて隙ができた瞬間に、攻撃するとダメージ効率は上がるかもしれませんね」


「セシリアさん!」


「ええ、全体に通達!」



セシリアさんがテューラ殿下の助言を共有する一方で、俺はせっせこ複合付与魔術を前衛を中心に掛けていく。


なんでも、魔法陣スキルの取得率はそんなに高くないらしい。


闘技大会であれだけ活躍したスキルなのに取得率が低いのは、消費SPがなかなかに重いことと、その使い方がいまだによく分かってないことが原因らしい。


消費SPは職業称号で多少緩和されたが、いくら強くてもその強さを発揮できないスキルに貴重なSPを割くプレイヤーは少ないらしかった。


ましてや、そんな貴重なプレイヤーの中で基本属性魔術コンプリートというのは輪を掛けて少ないので、フィジカルブーストやマジカルブーストはともかく、エンチャントオブスローンが使えるプレイヤーは、効率を極める攻略組には絶滅危惧種状態だ。


数少ない使い手達も手一杯で、今戦線復帰したメンバーは俺の担当になっている。



「『重拳』!」


「『フレイムスロワー』!」


「『居合一閃』!」



ヴァングさんの拳撃が精霊化を誘発し、田中さんが精霊化を解除させ、東郷の渾身の一撃が見事にクリーンヒット!


今聞いたばかりだろう情報に、こうも的確に連携して合わせるとは、流石に攻略組と呼ばれるだけはあるな。


あ、田中さんは正邪の偽典のクランマスターで、恰幅の良い商人と言われた方が納得できそうな魔術士です!さっきPN教えてもらったが、本名かどうかは知らない。



変化系のスキルは他と違って少し特殊だ。


スキルでも武技でも魔術でも、その殆どでRTは10秒だったり10分だったりと固定で設定されている。しかし、変化系スキルは、使用した時間×2倍の時間がRTとなる為、1秒使えば2秒、10分使えば20分のRTが発生する。


姫ウサギが精霊化を使うタイミングの多くは物理攻撃回避のためなので、攻撃を透過させる一瞬だけ発動させすぐ解除してしまう。


しかし、時折解除せずにそのまま魔法を使ってきたりとフェイントを掛けてきたりもするので、田中さんが高火力魔術で精霊化を解除させるように誘導したのだろう。


精霊化中は魔術系ダメージに弱くなるからな。



だがそんな急造コンボだけで倒し切れるほどレイドボスは柔ではない。ウサギ本来の跳躍力と俊敏さを活かして、空中さえも足場に変えて元気に高速立体起動でプレイヤーを翻弄している。



「空飛ばれるよりはマシだけど、【空歩】もなかなか厄介なスキルね…」


「あの空中を足場にしてるやつですか?」


「ええ。まだ最近発見されたばかりのスキルで、レベルを上げる毎に一歩、二歩と空中を歩けるようになるらしいわ。姫ウサギに使われると、踏みしめて加速される分、空飛ばれるよりも厄介かもしれないわね」



たしかにこの速度で縦横無尽に駆け回られると苦戦するのも頷ける。タンクのヘイト管理が上手いのか、今のところ後衛に攻撃対象が移ることがないお陰で戦線が崩れるようなことはないが、どこかに穴が空けば一気に瓦解することもありそうだ。


と、呑気に戦況分析していると、誰かが叫ぶ。



「スタンプ攻撃来るぞ!振動注意しろ!」


「え、なに?」



戸惑っていると、姫ウサギが天高く飛び上がった。



「レンテ、しっかり足に力を入れて踏ん張るか、ウサギのお姫様が着地する瞬間にジャンプしてください。ジャンプする場合は衝撃波で吹き飛ばされるので、気をつけてくださいね」


「なるほど…!」



天を蹴って急速落下してくる姫ウサギ。


テューラ殿下の助言でなんとなく次の姫ウサギの行動は分かった!


あの速度にタイミングを合わせてジャンプ出来るような反射神経は持ち合わせてないので、土魔法を使い、身体を支えるための土棒を、地面に固定された状態で土を操作。それを掴んで衝撃に備える。



「わたしも便乗させてくださいませ、レンテ様」


「ふふふ、では私も」


「いや、テューラ殿下はよゆ」


「舌を噛みますよ」



ズドン、と。


その衝撃は大地を揺らし、衝撃波はその場にいる全ての人間を襲った。金属装備を纏っているような前衛はともかく、軽装備の一部の斥候職系の前衛や、踏ん張るだけだった後衛が吹き飛ばされている。



「魔法警戒!」


「ちっ、このコンボ凶悪過ぎるだろ!」



地揺れで誰一人として動けず、姫ウサギすらも反動で動けない様子の中、姫ウサギは精霊化を発動。姫ウサギを中心に大地が隆起し、それが同心円状に波及して広がってゆく。追撃とばかりに暴風までもがセットで襲い掛かり、逃げ場はどこにもなかった。



さっきまでは。



「この程度の児戯でどうこうできるほど、聖霊王は甘くありませんよ」


「オイラに風で勝負を挑むなんて100万年早いぞ!」



不可避だったはずの大地の高波はそれが嘘だったかのように穏やかに凪ぎ、暴風は押し返され反動で動けない姫ウサギを逆に這いつくばらせる。


聖霊王の人気が高まれば俺への批判も減るだろうというセシリアさんの案で、共鳴同化せずにサポートしてくれているディーネ達だが…。


ノームさん、シルフさん、やり過ぎです!明らかな必殺技の類を完封してしまったらダメでしょう!


共鳴同化して手綱を握っておくべきだったか!?


離れていると瞬時の意思疎通が出来ない弊害がですね。


やはり【念話】スキル必要だろうか…。

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