79/土
昨日はもう時間も遅かったのでお開きにして、今日が妖精デビューの日だ。
中間考査も終わり、勉強のしがらみからも解放された気分です!
昨夜は寝る前に、その日の出来事を思い返して考えた。
俺が目指していたのは、まったりのんびりプレイのはずだ。それは今も変わらないこと。だが、無情にも現状は、俺の望みを全否定してくるかのように進行している。
しかし、睡魔に負けそうな頭で出した結論があった。
なにも矛盾しない、と。
まったりのんびりプレイをすることと、強さを求めることは、別に完全に矛盾することじゃないのではないか。
脳筋王女の言うとおり、強くなることで跳ね除けられる煩わしさもあるのではないか。弱いこととまったりのんびりは同じじゃない、とも。
強いのは、弱いよりも俺のプレイスタイルを実現しやすいと思い至ったのだ。
要は、やりたいことをやる為の取捨選択である。
俺が真に求めるべきは、パーティ結成を阻止することではなく、煩わしさから解放されることなのだから。
それに、俺は今心が晴れやかだ。
それは、中間考査が終わったからとかではなく、隠し事を一つ消化できたからだと思う。
何故オンラインゲームで、コソコソと秘密を溜め込みながらビクビクしていなければならないのか。そんなの全くまったりのんびりではない!
そもそもアドバンテージがどうとか言うのは、攻略組のような一番を目指すぜ!な方々が考えることであって、俺には関係のないことである。
言いたくないことまでペラペラと喋るつもりはないが、これからはそれ以外のことまで必要以上に隠し立てすることはやめよう!
「お兄ちゃん、本当にここでやるの?」
「俺が行ける場所で、他にいい場所が思いつかないからな」
やって来たのは、勿論ドルクスの断崖。今回もお世話になります、スフィルロックさん!
俺が行けるフィールドで、フェアリーズのお披露目に良さげな場所は三ヶ所。
ここ、プリムス草原のボス、プリムス大森林の奥地だ。
しかし、ボスはインスタンスだから別パーティのユズ達は違うボスエリアに飛ばされてお披露目出来ないし、大森林の奥は結界石に守られた道の上しか歩いていないのでどんなモンスターがいるのかすら分からない。
結局のところ、ノンアクティブで、硬すぎるくらいに硬いことで有名なスフィルロックさんが最適なのだ。
そして、前と違ってこのフィールドもチラホラとプレイヤーを見かけるようになっていた。レベルキャップが解放されて、上位層の適正難易度に届いたからだろう。
だから、決して楽ではない傾斜を登って行こうとしているのはトップ層に近いお歴々だ。下の方でスフィルロックと戯れているのは、スキル熟練度稼ぎのまだレベルの低いプレイヤーだろうが。
どうやら、熟練度稼ぎのオススメポイントとしても広まってきているようだ。
そんな事を考えながら、プレイヤーが居なくて、スフィルロックが固まっている良さげなポイントを吟味する。
「よし、ここにするか。危ないから俺より前に出るなよ」
「危ないの?スフィルロックなのに?」
「だーいじょうぶですよ!このパーティには私がいるんですから!信じてください、レンテさん!」
アイギスが何か言ってるがそういう問題ではないんだが…。
まあ、前に出過ぎないでさえ居てくれれば、リフレクションの範囲には入るか。
「せっかくだから、今できる最大火力もお披露目だ!フェアリーズ、バフとデバフ頼む!」
「「「あいあい!」」」
バングルから次々と飛び出してくるフェアリーズが俺にバフ、スフィルロックにデバフを掛けていく。
INTもだいぶ上がったし、デバフは必要無いかもしれないが、出来ることは全てやろう!
「数、数多すぎない!?お兄ちゃん、どういうこと!?」
「ネズミ系オオカミ系とかと同じ、群れタイプの種族だとしても多過ぎるね」
「ふぇぇ、妖精さん可愛すぎますよぅ!一人くらいなら貰ってもバレないですかね…」
「特殊…?」
「ミズキ、どう?お揃い」
「ハズキ、どう?お揃い」
「ぬわぁぁあ!はーなーせー!
「レンテー!へるぷへるぷー!」
「あっ、私も!えいっ!」
「へっ、おいらが捕まるわけないじゃん!ばーか!」
双子に速攻で捕獲された様子の妖精と、それを見て捕まえようとしたアイギスから逃れきった風妖精。
ミズキはハズキと、ハズキはミズキと、髪の色が同じ妖精を各々捕獲したらしく、お揃いだと見せあって喜んでいる。
これ、妖精って精霊から派生した種族らしいし、元になった精霊王に性格似てるんじゃあるまいか。アイギスが捕まえ損ねた風妖精とか、シルフを見ている気分なんだが。
いや、気弱な感じの火妖精とかもいたから、たまたまか。
フルバフ掛けるのに少し時間が掛かるので、その間は妖精達と遊んでてもらおう。すまんな、妖精よ…。
「『マジックブースト』『クリティカル・マジック』」
まずはこの前取得したばかりの【杖術】スキルLV.1で使えるようになる武技。もちろん杖術スキルは杖を装備してないと使えないので、杖はレインが使わなくなったやつを借りている。壊さないようにせねば…。
『マジックブースト』は魔術のダメージ・効果上昇、『クリティカル・マジック』は魔術攻撃でのクリティカル率上昇だ。
「『エンチャント・ファイア』『エンチャント・ウォーター』『エンチャント・ウィンド』『エンチャント・アース』『エンチャント・ライト』『エンチャント・ダーク』複合付与魔術『フィジカルエンチャント』複合付与魔術『マジカルエンチャント』複合付与魔術『エンチャントオブスローン』」
エンチャント各種。STR、VITとかは必要ないが一応な、一応。今自分にできる最大を、だ。
「【精霊化】『精霊装束:土の聖霊王』、【精霊召喚】『召喚:ノーム』、ノーム共鳴同化頼む」
「おや、私が初めての召喚でよろしかったのですか?他の皆が拗ねたときのフォローはレンテがお願いしますよ。『共鳴同化』」
…考えてなかった。いやいや、次呼び出せば拗ねるとかないから!外見と違ってみんな子供じゃないんだから!
いや、暇だから神様目指そうとするくらいには子供だった…。
うん、後で考えよう!
ちなみに、精霊装束は聖霊達から加護もらったら精霊化に生えた武技だ。普通に精霊化するよりも効果がアホみたいに高いので、使わない手はない。
そして俺自身ができる最後のひと押し!
「【一撃粉砕(魔)】」
称号だが効果がアクティブなやつ。
消費MPを最大2倍にすることで、最大ダメージ1.5倍になる!
「フェアリーズ!いつもの頼む!」
アイギス達に捕まっていた妖精も、唖然とした様子で固まっている彼女達からは無事逃げ出せたようだ。
なんか知らん野次馬プレイヤーが増えているが、ここまで来て止めるのも違うだろう。もう見られてるわけだし。
それに、多少バレるのは覚悟でここを選んだのだ。問題ない。
問題があるとすれば、巻き込まれてキルしてしまうことだが、幸い周辺にいたプレイヤーは全て野次馬しているようなので、その位置ならリフレクションの範囲内だし大丈夫!
「「「『妖精の輪』!!」」」
「いくぞ!今俺にできる最大火力!『アースボールMarkII』!」
もちろん威力マシマシ魔改造魔術だ!
天から落ちる影。
ヤバイ。そう思った瞬間には、ユズ達や野次馬プレイヤー、妖精達を含めて、土魔法で穴を掘り、穴を掘ったことで余った土を圧縮し頭上のガードへ。
もちろんそんな流れるような対処が出来たのは俺が成長したからではなく、ノームが機転を効かせてくれた結果だ。
リフレクションでどうにかなる大きさを超えている…!!
弾き返しても、効果が切れれば転がり戻ってひき肉にされる未来が見える。だからこその判断なのだろうな。
気づいた時には空は覆われ、ゴォォオッと重く風を切る音だけが異常を知らせていた。
そして数瞬後、大地が揺れた。
〈LV.27に上昇しました〉
〈【杖術】LV.3に上昇しました〉
〈【精霊化】LV.3に上昇しました〉
〈【土魔法】LV.11に上昇しました〉
〈【魔法陣】LV.5に上昇しました〉
〈【魔法陣】スキルの追加機能『偽装』が使用可能になりました〉
〈【MP増加】LV.4に上昇しました〉
〈【知力強化】LV.8に上昇しました〉
〈【範囲拡大】LV.5に上昇しました〉
〈【効果増大】LV.3に上昇しました〉
〈称号【地崩の魔術士】を獲得しました〉
〈称号【歩く災害】を獲得しました〉




