75/木
予約投稿忘れてたァァァア
かなり久しぶりに感じる人の街の雑然とした気配に懐かしさを覚えながら買い出しを終えて、プリムス大森林の聖域にとんぼ返り。
MPポーションを買い漁った余りの資金で魔石を補充してきたのだが、また妖精鱗粉の塊を魔術士協会で納品するしかないだろうか。他のプレイヤーも同じように、大体いつも金欠に悩まされているのかリサーチしてみるべきか。
いや、本当は分かっているんだ。自分のプレイスタイルがその日暮らしの計画性が皆無な所為で、毎度毎度金欠に喘いでいることはな!
でも仕方ないじゃないか、思い立ったが吉日という偉大な諺が古来より伝わっているんだから!
まあともかく、昨日は人間界に帰還して妖精達に揉みくちゃにされたり、シルウァヌスさんに怒られたりお礼を言ったりしてタイムリミットを迎えたので、今日は久しぶりの釣りのお時間です!
俺が異界を開放したせいで云々という話が師匠に伝わっているみたいなので、師匠の家を訪れて弁明すべきか考えたが、リンダって人おっかないらしいし、用事があったら向こうから来る的なことを言われているので、こちらから出向くのはやめておいた。
加えて、魔力暴発の件がシルウァヌスさん経由で確実に伝わっているであろうマーリン爺にも会いたくない。聖霊達に魔法は教えてもらえたし、行く必要がないとも言うな!まあ、そのせいで一番楽な金策は封じられるわけだが、その時はセシリアさんに高値で買い取ってもらおう。
どちらも問題の先送りとも言えるが、面倒なことは極力未来の自分に任せておけばいいのだ。
「釣りするのもなんだか久々だな〜」
「ピクシーフィッシュでお腹いっぱいにさせてくれるなんて、やっぱりレンテは最高の友達だぜ!」
「ふてぇやつよね!」
「じゅるり…」
「おっさかな〜、おっさかな〜」
今の話だけ聞けばかなり現金なお友達のように聞こえるが、それはもう心配してくれていたのも事実のようなので、頑張って全員分釣らねばなるまいよ。問題はいつもの空間属性なわけだが。
「おっ、早速ヒット」
数だけは餌があるだけ釣れるような入れ食い状態なので、待ち時間で飽きてしまうようなことはない。釣り初心者でも楽しめるアクティビティ的面白さは良いところだ。
その代わり、時間帯や釣り具選び、魚との駆け引きを楽しみたいような玄人向けの釣りではないかな。俺はそこそこ楽しめているので、一週間に一日くらいなら全然苦でもない。
そう言えば今日、買い出しのために訪れていたプリムスで、MLで初めての経験をした。野良パーティに勧誘されたのだ。
最初の頃より大分落ち着いてきたとはいえ、まだまだプリムスにもプレイヤーは多い。今日もチラホラと新規さんを見かけたしな。追加パッケージの第二陣はまだのはずなので、本当にチラホラとだが。
ただ誘われた理由が悲しかった…。
俺の装備を見て勘違いをしていたようで、近接物理アタッカーとして誘われたのだ。その時の野良パーティは、盾・槍・魔・回・弓と割とバランスが良さげな構成で、剣士か武闘家を欲していたらしい。
じゃあ、何故魔術師の俺を見て勘違いをしたのか。
それは、一張羅のローブとお気に入りの杖が魔力暴発で耐久値を消し飛ばしてしまったことが原因だった。
プリムスの町で他のプレイヤーの装備を目にするまでは気づかなかったのだが、妖精の棲家のバングル以外全て吹っ飛んでいた俺の格好は、ピッチリした上下セットのアンダーだけになっていた。
俺の言い分としては、魔力暴発からの精霊界開放で頭が混乱していてそれどころではなかったのと、聖霊達が何も触れてこなかったので、忘れていても仕方ないと思うのだ。
なので、今更中途半端な装備を買うのも勿体ないし、お金に余裕もないしで、なし崩し的に初期装備に身を包んだのだが、知っての通り、俺の初期装備は剣士用だ。
剣士装備で剣を装備していない、つまりチュートリアルスライムをステ・スキル振り無しで倒した称号持ちの将来有望な武闘家だ!という思考回路だったらしく、お互い居た堪れなくなってしまい、微妙な空気でどちらともなく離れた。
装備って色んな意味で大事なんだな、と思わされた一幕だったよ。
と、雑念だらけで釣り糸を垂らしていても、ピクシーフィッシュには関係ないらしく、釣果は上々。
「んめぇ〜」
「たまんない、手が止まらない〜」
妖精達もご機嫌なようで何よりだ。
一人で100人以上の妖精達をたらふく食べさせるのは、正直手が回らないため、次同じような機会があれば、カツオの一本釣りのように、針のカエシを潰して、釣れたそばから後ろに放り投げるようにして効率化するべきかもしれない。
出来るのかどうかは分からないが、これだけ自由度を誇るゲームなのだから、工夫すれば出来そうな気もする。
いやその前に、篭網漁的なことに挑戦してみるべきかもしれない。
篭網漁は、外からは入れるけど中からは出られない篭の中に餌を仕込んで、一日から数日放置して獲物を捕まえる、というやつだ。
現実では漁業関係者以外が篭を使って漁をすることは、多くの地域で禁止されているが、MLならば脳筋王女にさえ許可をとってしまえば、国家権力のお墨付きだ。もし脳筋王女がそれと引きかえに無理難題ふっかけてきたら別の方法をまた考えないといけないが。
「うーむ…」
妖精達の手前、面と向かっては言えないが、そろそろ変わり映えのしない景色に飽きてきてしまった…。
なにか、なにか変化を…。
ストレージをゴソゴソして、良さそうなアイテムを発見。情報屋のオヤジに貰った大きい釣り餌用の魔石でもいいが、こっちの方が面白そうだ。もしかしてヌシが釣れたり?
それにもし、変に大きいのが釣れても、この餌は3つしかないため不公平しか産まない気がする。それと比べてこっちなら数に余裕があるからな!
「(レンテ〜、それを餌にするならこっちの湖で釣った方が大きい魚が釣れるよ!)」
突然頭の中に響く声。
前の時と違って妖精達には聞こえてないみたいなので、これは念話か。初期スキルの一つなんだけど、プレイヤー同士だとフレンドコールがあるし、マーリン爺に貰った連絡の指輪もあるしで、なかなか取得に踏ん切りがつかないスキルだ。
もちろん声の主人はディーネである。
「いや、そっちで釣ったら大き過ぎるのが釣れそうだろ」
「なになにー」
「大きなピクシーフィッシュ釣るのか!?」
「あたい達も手を貸すよ!」
そうだった、妖精達には声が聞こえてないんだった。
まあ良いか。ディーネも暇なんだろうし、俺も退屈を紛らわせられて一石二鳥、いや妖精も食べ応えがあって一石三鳥だ。
「じゃあ、空間妖精、精霊宮殿にワープゲートを頼む。妖精達も妖精の輪で手伝ってくれ」
「「「あいあい〜」」」
聖霊達が言うには、精霊宮殿の源泉に転移するためには、妖精の輪を使った空間妖精のワープゲートじゃないとダメなそうだ。空間魔術の転移では世界の境界を越えられないらしい。
まあ、取得可能なだけで取得してないので、結局空間妖精に頼らないといけない俺にはまだ関係ない話だけどな。
「「「『妖精の輪』!!」」」
「『ワープゲート』!!」
ワープゲートの歪んだ空間の向こうに見えるのは、確かに精霊宮殿であり、中庭の精霊大樹だ。
空間妖精は精霊界を訪れたことがないはずだが、俺と契約していることで、俺がポイントマーキングした場所には転移できるようだ。
臆せずワープゲートを越えると、直前に見たのと同じ景色の場所に立っていた。後ろには逆に聖域の湖をワープゲートが映し出している。
後を追うように次々と妖精達がコチラへとやって来る。
「お〜、初めまして我が子供達!ここはもうレンテの宮殿だから遠慮せずゆっくりしていってね!」
「威厳やら尊厳やらはどうしたんだよ」
「う〜ん…。すごく、すご〜く悩んだよ?悩んだけど、みんなで楽しそうなんだもん!ズルいじゃん!」
「あ、はい」
どうやら聖霊に進化した自称母は威厳や尊厳よりも、目先の欲を選んだらしい。
まあ良いんじゃないかな。俺が今後もここに来るってことは、いずれ化けの皮は剥がれていただろうし、ディーネの周りを飛び回る妖精達は控えめに言っても、名画確定の御伽噺の一幕。嬉しそうな楽しそうな笑顔でいられるのなら、そっちの方が断然良いだろう。
初めて会う母と子はそれはもう楽しそうに話しているので、邪魔をしないように湖に移動。一応後ろをついてきているみたいだ。
「よし、行け!精霊結晶よ!あまり大き過ぎる獲物は勘弁してください!」
餌は小さめの精霊結晶。大きいのは転移陣のやつより大きいので餌にするとかしない以前に、今の竿じゃどうしようもない。どの属性にも該当しないアイテムだが、強いて言えば基本全属性を備えるアイテムでもある!
聖域の湖と違って、ここの湖はかなり深い。
オヤジから買い取ったこの釣竿は丈夫ではあるが、糸の長さは竿の長さと吊りあったものだ。流石にほとんど水面に垂らしているような餌に、大物過ぎる大物は来ないと思いたいのだが…。
「ヒッぬおぅわっ!?」
取り敢えずディーネには反省してもらう方向で!
なんだよ、〔混沌鯰〕って!LV.297ってなんだよ!戦闘初デスを10メートル越えのナマズに持っていかれるところだったわ!
聖霊達が助けに来てくれなかったらマジで危なかった…。この湖に来ると毎回ずぶ濡れになるのは何かの呪いかな?
〈称号【死中に活】を獲得しました〉
久々にやらかして焦りました…
帰ってきたら疲れて寝落ちしてたorz




