74/水
精霊神チャレンジにあえなく撃沈した翌日。精霊界ではそれは4日前の出来事である。
基本属性をコンプリートしている俺が王様になって、その俺に聖霊達が共鳴同化する。場所は勿論、精霊の始まりの地スピリタス。
30%くらいは自信があったのだが、見事に駄目だったな!
火や水とかって部分はその後の文言と併せても、基本属性全部を持っていることが条件という意味だと思うのだが、何が足りなかったのか…。
そもそも完全な的外れ説もあるんだけども。
それによくよく考えてみれば、宮殿ゲットしたから王様ってのも微妙だよなって。なにかシステム的に王様と認められる何かがないといけないのかもしれない。
精霊王じゃなくて、精霊の王だったから、精霊の主人的な意味かな?とチャレンジしてみたが、どうにかして全属性持ちの精霊王を誕生させないといけないオチかも。
まあとにかく、精霊神のことは一旦棚上げ。変なことに首を突っ込んでいる場合ではないことを思い出したのだ。
人間界へ戻らないとそろそろヤバい…。
スプラの品評会の期限って意味でも危ないが、もっと直近な問題がひとつ。
「ディーネ、俺の身体ってあとどれくらいで治りそう?」
急かすようで申し訳ないが、なんとか金曜日までには帰らねば。
前回が先週の金曜日だったわけだし、もし破ってしまうとどうなるのか分からないのだ。それになにより、彼らにそんな不義理をしたくないというのが大きい。
「え、もうとっくに治ってるよ?魔力回廊は精霊界に来た時点でわたしが治したし、人間界の本体の修復と急に拡大した魔力回廊の定着待ちだったけど、こっちでは一週間前、人間界では昨日には終わったってシルウァヌスから連絡来てたね」
「え?」
聞いてない、と思ったがディーネから一言。
「レンテがいない日だったから忘れちゃってた、ごめんね!」
うん、可愛いから許す!
NPCはプレイヤーのことを異邦の旅人と呼び、遠い異界から旅に来ている特殊能力の影響で数日間眠ってしまうことも珍しくない、と認識しているらしい。
今思えばこの設定って、あまりにも突拍子もないものじゃなくて、異界という別世界があるっていうヒントでもあったんだなと思ったり。
「じゃあ、人間界に帰れるのか?」
「湖のそばでならいつでも帰れるよ」
「そっか。そういえば聞きそびれてたんだけど、人間界に帰ると、次ここに来るためには正規手段じゃないと無理なのか?」
「えっとね、うーん…。みんなには内緒だよ?」
今ここにはディーネしかいない。
暇だ暇だとぼやいている聖霊達だが、何も全くやることがないわけではなく、俺がいない時は自分の棲家の精霊界などにいるらしい。
源泉を支配するとノルマ的な納品が必要になるらしく、それをクリアしたりなどを普段はやっているみたいだ。
それを聞いて精霊宮殿の源泉は大丈夫なのかと思ったが、蓄えがあるからしばらくは大丈夫だと。色々足りてないのに、流れで身の丈に合わないもの貰うんじゃないなと思ったよ。
ともかく、秘密事のようだ。
「非正規の手段で世界の境界を越えると、境界が学習しちゃうんだよ。今回はわたしが水の精霊王の権能で連れてきたから、次は同じ方法で境界を越えることは出来ないんだ」
そんなに簡単にはいかないらしい。ズルばっかりしてないで正攻法でいけやおら!ってことか。
「でも、サラだったら火の周り、ノームだったら剥き出しの土、シルフだったら遮るもののない空の下で精霊王の権能が使えるから、わたし以外ならわたしの代わりが出来るんだけど…」
「それもまた同じことの繰り返し。いつかは正規手段で来ないと、か」
次は良くても、あと5回で同じような方法は使えなくなってしまう。
「だけど、ひとつだけ抜け道があるの。それが、支配している源泉のポイントマーキング」
「ポイントマーキング?」
「うん。人間界にある転移陣は、転移陣同士をリンクさせてるから誰でも転移出来るんだけど、本来の転移っていうのは、術者がマーキングした場所を目印にして転移するの」
「なるほど。空間妖精が言ってた一度訪れた場所にしか行けないっていうアレか」
「それと、転移では基本的に別の異界には行けないんだよね」
そんな制限もあるのか。
「でも、源泉のポイントマーキングだけは別。龍脈は全ての異界に巡る世界の魔力回廊みたいなものだから、源泉の支配者と許諾を得ている人だけが世界を越えて転移できるんだ」
「だから支配権をくれたのか?」
「みんなレンテのこと気に入ってるんだよ。もちろん、わたしもね!でも、面と向かって言うのは恥ずかしいから…」
臆面もなくそう言われると、こっちが恥ずかしくなるんだが…。
「そ、そうか。ありがとなディーネ。あとでみんなにもお礼言わないと」
「くれぐれも秘密に、だからね!?」
はたから見たら小学生に怒られてる高校生みたいな図。
進化したノームでギリギリ中学生、ディーネはどう見積もっても小学校高学年だ。他のプレイヤーが周りにいなくてよかった…。
精霊界に再び訪れる目処も立ったし、他の聖霊達に人間界へ帰還の報告としばしの別れの挨拶をする。
「妖精達との契約でさ、人間界の時間で明後日までに帰らないといけなくて」
「ま、もう二度と会えないわけでもねぇし、いつでも戻ってこいよな」
ちなみに、ディーネが秘密をバラしたことは秒で知られてしまいました。
この宮殿に防音室なんてないし、聖霊結晶に吸音性があるわけでもなく、この宮殿は音がよく響く。
俺とディーネが顔を合わせてすぐに、念話スキルで聖霊達に連絡を送っていたらしく、すぐそこまで来ていた数名に話は筒抜け、他のメンバーにも無事伝わってしまったと言うわけだ。
まあ、特に怒っているという様子もなかったので、ディーネの考えすぎだったのだろう。そもそも、源泉のポイントマーキングのことを伝えられた俺が、精霊宮殿を譲ってくれた本当の理由にどう転んでも気づくだろうからな。
本当に隠す気持ちがあるのなら、どう説明するつもりだったのだろうか。
「おう、今度は妖精達も連れてみんなで来るよ。それで、はいこれ。今後ともよろしくってことで」
「世界樹の実じゃん!本当にいいのか!?オイラは遠慮しないぞ!?」
「ああ、どうせ今の俺には使えない代物だし、それで全部ってわけじゃないしな」
なんというか、すまん。10個ずつ配っても余裕でお釣りの方が多いくらいには手元にあるんだ。
「それではあたくし達も何もしないわけには参りませんわね」
「こ、今回は仲間はずれじゃない、から」
「そうですね。レンテよ、永久にも等しい時の中で、初めて始まりの地を訪れた人の子、私達の友よ。聖霊王の加護を貴方に授けましょう」
〈称号【火の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【水の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【風の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【土の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【光の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【闇の聖霊王の加護】を獲得しました〉
〈称号【精霊郷の友】を獲得しました〉
〈【精霊召喚】スキルを獲得しました〉
おおう、いっぱい来た。
「おや?これは嬉しい誤算ですね。ティア以外にも私達を人間界へ召喚できる友が誕生したようです」
「あたくし、人の街を自由に観てみたかったんですわ!これでひとつ望みが叶いますわ!」
「あれ、エルフの街に行ったんじゃなかったのか?」
「エ、エルフの街は、精霊界と、そんなに変わらない」
「それに人間界で精霊が自由に過ごせるのは聖域か、一部特別な場所だけだからな。それ以外だと、加護渡すか、契約するかして召喚してもらわねぇと、色々不都合がおこっから」
「下位精霊だと下手すると消えちゃうし、わたし達だと属性が強すぎて環境を変えちゃうこともあるからね」
「レンテは異邦の旅人だから知らないだろうけど、リンダっておっかない人間がオイラ達を懲らしめにくるからさ!下手に行けないのさ!」
あれ、聞き間違いかな?今すごく聞き覚えのある名前が聞こえたような…?
「シルフ、レンテが終焉の魔女を知らないわけがないでしょう。世界樹の実をどこから手に入れてきたと思っていたのですか?」
「あれれ、言ってなかったかな?レンテはリンダの弟子なんだよ?」
「「「なっ!?」」」
三名絶句、二名はよく分かっていない様子。
「おいおい、俺様加護渡す相手を間違えたか?」
「ディーネ、それは…。いえ、なるほど。ようやく合点がいきました。だからだったのですね…」
「オイラあいつ嫌い!ああいうのを理不尽って言うんだぜ!」
「誰ですの、それ」
「し、終焉の魔女…ゴクリ」
「リンダの終焉は魔素も消滅させちゃうから、わたし達じゃ勝ち目ないんだよね〜。魔術士殺し、精霊の天敵、リンダは終焉の魔女以外にもいっぱい異名があるんだよ!」
意外なところで明かされた終焉の謎。なんだその魔術士ガンメタスキルは…。
最後の最後で、微妙なお別れになってしまったのは、俺のせいじゃないと弁明させてくれ!
新しいタグ、『やらかし系主人公』採用させてもらおうと思います!
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