70/日
この小説に付ける良いタグはないものだろうか…
入念なストレッチと軽い運動、勉強、夕飯、風呂、寝支度を終えてからインすれば、時刻は午後九時を回っていた。
いやぁ、ストレッチは毎日、ログアウト後は必ずやるようにしよう。久々にやったら自分の身体の硬さに驚いた。ガッチガチに硬いってほどではないが、明らかに数ヶ月前と比べて酷い。
MLにどっぷりハマっている影響が大きいのは確かなので、こんなことで健康に害などあってMLが出来なくなるのも馬鹿らしいからな。
という心境の変化もあり、軽くジョギングしたりして時間を潰したりもした。
他のゲームでは変に思わなかったのだが、MLの場合最初のデフォが現実時間と同期していたせいもあり、四倍に引き延ばされた世界に感覚が慣れるまで少し掛かりそうだ。
まあでも、その分学業に時間を回したりと出来るわけで、異界の仕様は学生プレイヤーにとってはありがたいな。
夕飯の席でユズに回復魔術と毒魔術のことを話した。
昇華に比べて、こっちは隠しておくようなことでもないしな。広まれば今度のダンジョンイベでも活躍しそうな魔術だし、こぞって取得を目指すんじゃなかろうか、と思ったのだが。
「回復魔術は既出だね。他の派生魔術が知力・器用なのに対して、回復だけ精神・器用らしいから、回復職が仕様の違いでプチ炎上しかけてたけど、そもそも回復系ってMND依存だからおかしな事はないって話は流れたかな」
ちなみに、知力・器用や、精神・器用は派生魔術を取得可能にする条件の話だ。
回復以外の派生魔術は、関連する基本魔術二種をLV.10以上と、その魔術のレベルと知力強化・器用強化のレベルを併せて合計30以上で取得可能になる。
例を挙げるならば。
【火魔術】LV.10+【土魔術】LV.10+【知力強化】LV.5+【器用強化】LV.5=合計30で【溶魔術】
といった具合である。
もちろんこの場合、火魔術と土魔術がLV.15ならば知力強化も器用強化もいらない。
ただし、知力ステが最低でも20はないと派生しないかもしれないらしいのだが、派生魔術を狙っているプレイヤーなら大抵クリアしているので不確定情報だった。
なので、ユズの言っていた精神・器用というのは、回復魔法の場合、知力強化ではなく精神強化が合計レベルの補助を担ってくれるのだろう。
一方で、回復魔術の方は既出だったらしいが、毒魔術はまだ広まってない情報のようで感謝された。
曰く、忍者に毒は欠かせないらしい。
まあ、俺に不都合がないなら、人のプレイスタイルにとやかく言うつもりはないので好きにしたらいいと思う。確かに忍者に毒のイメージはあるが、真昼間の草原で忍ばずに火魔術乱舞してたアイツは忍者ではなく、ニンジャだったけどな。
なんて一幕がありつつインしてきたわけだが、精霊界に夜はない。常に明るいので時間感覚は狂いそうだが、今まで平日は夜時間しかインできなくて、当然現実と時間が連動していたMLも夜。
明日からは学校が終わってインしても真っ暗闇で行動が制限されることが無くなると思えば、これもまたありがたい。
まあ、時間換算すれば今精霊界は昼の12時だから関係ないんだけどな。しかし、もし別の異界で昼夜が存在する世界があるのなら、プレイヤーの選択肢はかなり広がるだろう。
「それにしても、今から現実で日付変更までの3時間だけで、こっちでは12時間遊べるのか。なんというか贅沢」
四倍速の世界になると法律的な制限も少し厳しくなり、こっちで12時間の内に2時間、現実で30分以上の休憩が必要だったり、24時間の内に5時間こっちで寝るか、現実時間で1時間半のログアウトが必要になったりする。
ヘルプ曰く、異界との行き来は入った後の世界基準で1時間は他の異界に移動できないという制限があるのだが、これはあまり時間加速の違う世界同士を行き来し過ぎると脳がバグってしまうからだと思われる。
まあ、廃人様でもなければそこまで気にする制限でもないかな。
つまり、日付変更まで遊ぶとして12時間だが、実質制限を考えたら10時間。そんなぶっ通しでやらないだろうし、明日はちょっと普段よりも寝不足に気をつけないといけないので、夜更かしはしないのだが。
貸し与えられた部屋を出て廊下を歩く。
大きさだけならセントルムの王城の倍以上あるこの宮殿だが、あまりに殺風景だった。
この精霊宮殿を最初に見た時、一枚岩を削ったみたいと表現したが、どうやら少し違ったらしく、後から削ったのではなく、最初からこの形で創造したらしい。
当時精霊王だった六人の渾身の合作だとかで確かにすごいのだが、精霊は自身の属性が強い場所に好んで棲みつくため、基本聖霊六人以外はここに寄りつかない。
その上、当人達までもが普段はここには住んでいないと言うのだから、もし正規の手段でここを訪れたプレイヤーがいた場合、無人の宮殿に訪れる可能性があるということ。
なんと哀れな建造物なのか…。
「おっす、戻ったぞー」
なので、この宮殿の生活感がある場所は限られており、各自に与えられた個室か、共有部屋と化している会議室、中庭に併設された東屋を回れば、大抵は全員に会えるらしい。会えなかったら留守というのが共通認識だと教えられた。
何が酷いって、この宮殿無くても困らないから欲しかったらやるとまで言い切る無頓着さだろうな。
どうやら造って満足したらしい。
「おっ、レンテじゃん!また水上スキーやろう、やろう!」
「えー、俺様はもう暫く大丈夫…」
開口一番誘ってきたシルフの言葉にゲンナリするサラ。
「楽しかったし俺はいつでもいいけど、みんなが楽しい方がいいから、また今度な」
「ちぇー。ま、それもそうか!」
納得してくれたようでなにより。
「でさ、みんなに聞きたい事があったんだけど」
「なに〜?」
「私達に答えられることならば答えましょう」
ディーネとノームが返事をくれる。
疑問を解決してくれるのは大体この二人で、時々ルクシア。補足担当がサラとテネブで、ガヤと予想外の閃き担当がシルフ。
良い感じにバランスが取れてるように思うが、短い付き合いからの印象なので、これからもっと仲良くなればその印象も変わっていくかもしれない。
「人間界にエルフの王女様の知り合いがいるんだけどさ、もしかして四大精霊の加護って、ディーネ達が授けた加護?」
初対面の自己紹介の時にセレスティア殿下が言っていたことだ。うろ覚えだが、たしか「四大精霊の加護を授かりしーー」とかだった気がする。
四大精霊といえば、ディーネが自分たちはそう呼ばれていると言っていたので、もしかしたらと思ったのだ。
「ティアのこと?ティアはね、エルフでも珍しい【精霊眼】スキル持ちで、人間界で唯一わたし達を制限無しで召喚できる逸材だからね〜」
「彼女は特別です。今回のような特殊な事例を除けば、精霊に招かれずに自力でここまで辿り着けるのは彼女くらいのものでしょう。それに精霊だけではありません、彼女は神にさえ祝福されています」
なんか脳筋より公式チートな存在が現れたぞ。
真の公式チートは師匠とか、マーリン爺なのだろうが、王女二人は準公式チートといったところだろうか。
というか、いるのか神。いや、魔神だとかはプリムスの絵本で見た気がするが、未だ死に戻り経験もないし行く理由もなくて神殿に行ったことがないのが裏目に。
「彼女が光と闇に適性さえ持っていれば、あたくし達も加護を授けたんですけれどね」
「エルフ、は、闇と相性が、悪い、から」
種族によって属性の相性があったりするのか。
でも、エルフが闇が苦手ならいそうだよな、ダークエルフ。まあ、特別ダークエルフが好きなわけでもないしどっちでもいいが。扇情的な格好より清楚路線でお願いします!
「あ、やっべ」
「今度は何やらかしたんだよ、シルフ」
何かやばいことを思い出したらしいシルフに、やらかした前提で詰問するサラ。
「オイラ達進化したじゃん、ティアっちの称号変化してっかもなーって…」
「「「あっ…」」」
やはり、普段はおちゃらけているが、稀に鋭いシルフであった。
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