7/土/日
いやぁ、ゲームの中でも空って広大でどこまでも蒼いんだなぁ…。
「クエッ」
「んあ?」
なんだあれ。
デカいとか通り越して、言葉が見つからないレベルの巨木だな。
雲突き抜けてら。
まあ、老婆が陸上選手並みの猛ダッシュするわ、色さえ黄色ければヒヨコとも間違えられそうなフォルムの雛鳥が飛んでるわ、その雛鳥も二m近い巨体だわ…。
今更、木が雲突き抜けてるくらいじゃ驚かないけどね。
ちなみに雛鳥は緑色です。
「クゥア、クゥゥウ」
「え、何…ちょっとバランス悪くなるからモゾモゾしないでくれる?」
なんだ、急に。
どれだけ俺が暴れても落とそうとしなかった癖に、急にモゾモゾしだしたぞ。
かれこれ一時間は飛んでるので、そろそろGMコールでもしようかと思ってたんだけど…。
かなりの超速で飛行しやがったので、今ここがどこら辺かも推測出来ない。
モゾモゾし始めてスピードが落ちたので、今は周りの景色も確認出来るが、かなりの上空から見ても町なんてものは見当たらない。
ホント、どこだよここ…。
「ク、クェ…」
「ん?」
いや、ちょっと待ってくれ。
俺の勘違いであって欲しいんだけどさ…。
こいつ、ちょっと力んでない?
え、待って。
「いや、待てよ!するならまず俺を降ろせクソ鳥!いや、降ろしてください!」
「クエェェエッ!!!!」
ブリッ…「んぐっ!?」
おぇぇぇえええ!!!???
こいつマジか、え、いや、は?!
「ごはっ、ごほっ、ゔぉえ!?ゔぁ、嘘だろ!?ぎっだねぇ!ごほっ、野糞してんじゃねぇよ!ぶっ飛ばすぞ!」
「クゥオ、クァァア」
何気持ち良さそうに鳴いてやがる!!
マジで最悪なんだが?!
光島健として生を受けて十五年、今が一番絶不幸な瞬間だよ!
何が悲しくて、楽しいゲームの中で鳥の糞食わなくちゃならんのだ!?あぁ?!
クエクエって、食えってか!?ぶっ飛ばすぞ!!
怒髪天を衝く俺と、対照的にクソ鳥が気持ち良さげにクエクエ鳴いている中、手遅れのヒーローが現れた。
「やっと追いついたわ、こんのアホ鳥め!」
「クエッ!?」
いきなり現れた老婆が、手に持っていた杖でクソ鳥の頭を引っ叩く。
は?ここ、地上何百メートルって高さだぞ?
それにどうやって…。
いや、そんなことよりもだ。
「来るのが遅いわ、ババア!飼い鳥の躾けくらいちゃんとしとけよな!!」
今のこのぶつける所在が迷走している感情を、目の前に突然現れたクソ鳥の飼い主であろう老婆にぶつける。
「ちゃんと管理しないから、うんこ食っちまっただろ!どうしてくれるんだよ!オゥエェェ…」
「うっさいわ!アンタがあそこで捕まえないからアタシが、こんなところまで出張る羽目になってんだよ!」
なっ、このババア開き直りやがった!
「こっ」
「アンタ、それ以上何か言うとここから落としちまうよ?いいのかい?」
「くっ、こんの…」
卑怯だ、このババア!
人の命をなんだと思ってやがる!生き返るけどさぁ!
「……大人しくしときます」
「それでいいんだよ、それで」
それから、雛鳥なんて霞むほどの巨大な怪鳥が飛んできたり、なんか怪鳥が突然美人に変身したり、哀れみの目を向けられたり、お詫びに変な木の実、木の枝を沢山貰ったりはしたが、もうどうでもよかった。
早くログアウトしたい…。
翌日。
今日は日曜日なので、本来はMLにどっぷり浸る予定だったのだが、昨日夕方前にログアウトしてからは、一向にログインする気が起きなかった。
リリース二日目にして、これはかなりの重症である。
ただ、MLを引退しようという気は不思議となく、ただ精神的疲労がマックスというだけだ。
昼飯食べたらインしてみるかな…。
今日の昼食は肉うどんだ。
まだ初夏ですらないゴールデンウィークを控えた今日、うっすら暖かくなってきたがまだ冷やしうどんは早い季節だろう。
まあ、冷やしうどんは冬以外ならいつでもいいような気もするけどな。
麺を啜りながら妹との会話に興じる。
「お兄ちゃん、どのくらいまで進んだの?」
「そりゃ、難しい質問だ」
断言できる。
昨日の時点で、距離的な意味で言うならば、誰よりも進んだと。
ただ──。
「レベルっていう意味で言うなら、未だにLV.1だな」
「え、なにしてたの…」
これが妹にドン引きされる兄のキモチか。
「いやぁ、食事中だし」
「途中まで順調そうだったじゃん」
「そりゃまあ、ね…」
途中ログアウトした時に、柚子と話したからな。
その時にヒント…と呼んでいいのかわからないけど、少しのアドバイスをした。
あの時の様子から順調だと判断しているのだろう。
それですら、順調ではなかったけどな!
「…誰にも言うなよ?」
「うん」
白状することにした。
この際、食事中だって構わない。
この気持ちを誰かと共有したいのだ!
そして、トモにアイアンソードを売り渡したところから始まり、うんこを食わされたところまで…。
「え?いや、さすがに食事中にそれは…」
「いや、だから言ったじゃん、最初に!」
正直、あのババアが現れた後のことはそこまで覚えてない。
もう放心状態だったからな!
「ふーん。で、それなんてタイトルのゲームなの?」
「MLだよ!たしかに嘘八百並べてるような話だけど、俺が一番信じたくないけど!事実なんだよ、こんちくしょう…」
粗方肉うどんを胃袋に納めた後でよかった。
話しているうちにあの時のことを思い出して、うっぷ…。
果たして、胃袋に納めたあとでよかったのかどうか。
長めに三時間ほど食休みしたあと、ログインしました。
ログインしたのはプリムスの町の南門前、正面に伸びるメインストリートの端だ。
南門の外は、始まりの村へと伸びる街道が続いている。
プレイヤーはログアウトすると、身体は光の粒子になって消えるのでどこでもログアウト出来るのだが、その場所が次ログインした時にどうなっているか分からないので、出来るだけ安全な場所でログアウトすることが大事だったりする。
それはさておき、昨日あの老婆に転移魔法らしきものでプリムスに戻され、それがこの南門から少し離れた草原だったので、南門を潜りここでログアウトした…ような気がする。
正直、記憶が混濁している感は否めない。
「取り敢えず、そこら辺の店にでも入るか」
腰を落ち着けて考えたい。
もちろん昨日のことではなく、ステータスとスキルについてだ。
情報屋にアドバイスしてもらい、最後のひと押しとして教えてもらったあのババアも、今となっては近づきたくもない。
さっさとステとスキルを決めて、次の町を目指そう、そうしよう!
柚子の話では、もう昨日の夜には早い者たちは次の町にたどり着いたそうだし、頑張れば俺も数日中には次の町を目指せるかもしれないからな。
カランコロン
「いらっしゃいませ!」
「一人です」
「只今、少し混み合っておりまして、相席でもよろしいですか?」
「あ、はい」
ん?混んでたか?
まあ、いい。いくつか空いている席があるように見えるけど、何か理由があるのだろう。
いちいちそんなことに目くじらを立てるほど、俺の器量は狭くないのだ。
「こちらの席にお願いします。こちらメニューです、お決まりになりましたらお呼びください。では」
定型文を言って去っていく店員さん。
と、俺の前の席から──。
「昨日ぶりじゃな、坊主」
「なっ、昨日のババア!?」
なんと、そこには昨日の悲劇の元凶が座っていた。
♯済




