66/日
昼飯を終え、再びログインしてきた現在。
「ふーん、はーん、ほーん?お前が魔力暴発で自分の身体吹き飛ばしそうになったっていうマヌケか」
「お行儀が悪いですよ、サラ」
「うっまいぞ、これ!ノームも食べてみろよ!」
何故かテーブルの上でヤンキー座りをした推定火の精霊に睨みつけられていた。
ディーネ以外の赤、茶、緑は名前すら知らないが、多分精霊仲間なんだろう。
「わっ、本当に美味しい!氷結竜の雫より美味しいかも!」
「おい、嘘だろ!?ちゃんと俺様の分も残ってるだろうな!」
「誰も貴女の分まで取りませんよ。ほら、椅子に座りなさい」
「えっ、あっ、そうだぜ!誰も取らないよ、うん!」
推定風の精霊が慌てて推定火の精霊の皿から手を離す。
「あー、ディーネ?食事もいいんだが、自己紹介してくれると助かるんだが」
「んぐっ、そうね!自己紹介がまだだったよ!紹介するね、この人の子はレンテ、妖精達に祝福された彼らの友達よ!」
「よろしく、魔力暴発で死にそうなところをディーネに助けられてここに来た。人間界の身体が治るまでお世話になります」
端的に無難な自己紹介をして、頭を下げる。
「それで、そっちの粗暴で喧嘩腰なのが、火の精霊王サラマンダー!」
「おう、これ本当にうめぇな!よし、お前にはサラと呼ぶことを許してやる!」
椅子の上に胡座を掻いてむぐむぐと果物を食べている推定から確定にランクアップした赤髪のサラマンダーさん。
多分、さん。言動は粗暴だし、一人称は俺様だし、身嗜みに気を遣っている様子はかけらもないが、多分女性。
いや、精霊に性別があるのかは知らないが、外見的には女性だと思われる。
まあ女性というより、生意気な子供なんだが。
「サラの隣に座ってる給仕の格好をしたのが、土の精霊王ノーム!」
「私までご相伴に預からせて頂きありがとうございます。大変美味でした」
給仕というか、執事服を着た茶髪のショタだ。
ショタなのに背伸びした子供感が出てないのは、妙に大人びているというか、余裕が窺えるからだろうか。
「最後に風の精霊王シルフ!」
「おっす!レンテだっけ、おかわりないの?」
自己紹介もそこそこに皿を突き出してくる緑髪のわんぱく小僧。
ディーネも含めて外見は皆子供だが、こいつが一番子供っぽい。
「それ、そんなに数が手に入るものじゃ…って、お前達何か身体輝いてるけど大丈夫?」
「え、うそ!?」
「ふむ、この感覚は…」
「おいおい、こりゃ何千年振りだ?」
「whooo!!hooo!!」
驚き3名、歓喜1名。
精霊達が食べてたのは世界樹の実(仮)だ。
鑑定も出来ないし、用途不明だしでストレージに突っ込んだままだったのだが、俺が中庭の精霊大樹に成る果実を見ていたら何を勘違いしたのか各種お土産にと渡してくれたので、何かお礼をとストレージを漁ったらこれが出てきたのだ。
ちょっと虹色に光ってたりする桃だが、果物には変わらないだろうと物々交換。
あの見た目で本当に美味しいのか、目の前で美味しそうに頬張る姿を見ても疑念を拭えない。だって彼らは精霊で、俺は人間だ。味覚が異なる疑惑がそこはかとなく。
赤、青、茶、緑とそれぞれの属性色の光で視界が塗りつぶされ、視界が戻り目を開けるとそこに居たのは、少し成長したかな?くらいの精霊達。
「本当に進化しちゃった」
自分の身体を目を白黒させながら見下ろすディーネ。
「確実に前より力が上がってラァ!」
身体に炎を纏い、武術の型というより、ケンカパンチケンカキックで身体の調子を確かめるサラ。
「本来なら注意をするべきなのでしょうが、いやはや私も驚いてそれどころではありませんね」
体格的には一番成長してそうなノームは、さっきよりはほんのちょっぴり執事服も様になっただろうか。といっても、ギリ中学生くらいだが。
「聖霊だってさ!誰かオイラと競争しない?」
部屋の中を器用に高速で飛び回るガキンチョ。
〈称号【進化を促す者】を獲得しました〉
〈称号【聖霊創生の物語】を獲得しました〉
カオス!!
一通り確認が終わったのか、落ち着きを取り戻した精霊…、いや聖霊に進化したらしい四人とテーブルを囲む。
「まさかコレに精霊を進化させる力があったとはな」
「進化させるというより、属性を強める力があったんじゃないかな〜」
「精霊は属性が強くなればなるほど力も比例して強くなりますからね」
なるほど?よく分からないが、聖霊はキャラのレベルより属性値的なものが高い方が強いとかそういうことだろうか。
「で、それ何なんだよ。改めて見ると、魔素も属性も異常だぞそれ。源泉並じゃねぇか」
源泉がわからなかったので訊ねてみたら、龍脈とかいう地下奥深くにある魔素の通り道みたいなのがあって、そこから地上に魔素が溢れ出している場所のことを源泉というらしい。
大体そういう場所は凶悪なモンスターが占拠してたり、国が管理してたり、魔導士が悪い研究してたりするそうだが、また別の話だ。
「いや、俺も鑑定出来なくてよく分からないんだけど、多分これ「世界樹の実」」
「ノーム、知ってたの?」
俺の言葉と重ねて答えを口にしたノームに、シルフが問いかける。
「いえ、確証があるわけではありません。ですが、人間界から正規の手段以外で持ち込まれ、私達を進化させられるほどの属性強化の力をもつ果実など、私には一つしか思い当たりませんからね」
なるほど、だからか。
俺がお礼にこの桃を選んだ理由がもう一つあって、世界樹系のアイテムと妖精系のアイテム、霊体系のアイテムしかストレージから取り出せなかったのだ。
ノームの話振りからさらに、正規の手段でここへ来ればその限りではないのかもしれないが、上述のアイテム以外はブラックアウトしており選択することすらできなかった。
何かの制限に引っかかったんだろうな、一つ謎が解決してスッキリした。
「へぇ〜、じゃあこれが世界樹の実なんだ?」
「それ、最後の一つ?オイラが貰ってあげようか?」
ノームでさえ、俺の手元にある世界樹の実に獲物に向けるような目を送っている。
「別に最後の一つではないけど、おかわりは無し。次いつ手に入るかも分からないし」
それにこの様子を見てると際限なく全部食い尽くされそうだ。
世界樹の実は、世界樹を守護するという馬鹿でかい神鳥から、う○このお詫びとして貰ったアイテムのうちの一つだ。まだ数があるとはいえ、貰ったアイテムの中では一番少ないのも事実。
次手に入る目処が立つまで、ホイホイ手放せるほど安いアイテムでもないからな。
「では、人間界では希少なアイテムなどと交換で、あと二つだけ頂けないでしょうか?」
「ノームだけ抜け駆けはズルイぞ!」
「そんなことする訳がないでしょう。ルクシアとテネブの分ですよ」
「ああ〜、たしかに。私たちだけで美味しいもの食べたと知ったら…」
「それだけじゃねぇ。俺様達だけ進化したと知ればルクシアの高慢ちきはうるせぇだろうし、テネブの根暗はうじうじめんどくせぇ…」
「ということなので、光と闇の精霊王の分だけでも頂けないでしょうか?」
「まあ、二つくらいなら大丈夫か。ディーネに命を救われた恩もあるしな」
どうやら精霊王というのは、この四人以外にもいるようだ。
で、ディーネが残り二人を呼びに行って、またピカァっと。
今度は白黒だ。
「あら、本当ですわね。褒めて差し上げますわ、レンテと言ったかしら?人間の割には優秀なようですの」
金髪縦ロールに褒められた。多少見下されてようが、この立派な金髪縦ロールの前には瑣末な問題といえよう。これは将来有望な金髪縦ロールです。
ルクシアというらしい。
「だ、駄目だよ、ちゃんとお礼いわ、言わなくちゃ。あ、ありがとうござ、いますぅ…」
目元まで隠してしまう長い前髪とローブで頭まで全身スッポリ覆っているので顔も体格も分かりづらいが、多分男の子。
テネブラエ、略してテネブというようだ。
しかしまあ、二人ともサラが言った通り性格のようだな。
「では、こちらがお礼の精霊結晶と精霊鉱石、属性結晶各種、他にも欲しいものがあれば教えて頂ければご用意致しますので、遠慮なさらずにお申し付けください」
並べられる大量のアイテム。
精霊結晶なんて俺の身長よりでかい…ってこれ!もしかしなくても転移陣に使われてる水晶じゃないか!?
宮殿を見たときは大き過ぎて気付かなかったが、この大きさだと瓜二つだ。
「これ、もしかして転移陣に使われてるやつか?」
「そうだよ〜。エルフとの取引で嗜好品と物々交換したりするけど、それでも人間界だと珍しいんじゃないかな〜」
「精霊結晶はこの宮殿サイズでもなければあたくし達六人がいれば、幾らでも創れますもの。こんなものでいいのなら100や200、すぐに用意しますわよ?」
「エルフから頼まれれば創るけど、オイラ達には必要ないからね!」
これ持って帰って師匠かマーリン爺に渡したら、転移陣とかについて教えてくれないだろうか…。
いや、そもそも空間魔術すら持ってないのに時期尚早か。
「じゃあ、そうだな。鍛治に使える素材アイテムがあったら貰えないか?俺じゃなくて知り合いに渡すためなんだけど」
「それでしたら精霊鉱石と、こちらの封属結晶でしょうか。あまり人の営みに詳しくないので鍛治に何が必要か知らないもので、申し訳ないです」
「いやいや、貰えるだけでもありがたいって!でも、精霊鉱石は分かるけど、その封属結晶ってのは?」
中央で火が揺らめいてたり、水が満ちてたりする半透明の結晶だ。
火や水がなければ精霊結晶に似ているかもしれない。
「これは高純度の属性を封じ込めた精霊結晶で、火に焚べて使えば、他の素材アイテムの属性を強化するらしいぜ」
「ドワーフ達が言ってたから間違いないよ!」
おお、なかなか良さげなアイテム。
属性を強化ってことは、火属性を強化したければ火の封属結晶を焚べればいいのかな?
グレンのバックアップとしてスプラが選んだ生産スキルは鍛治だった。自分の作った武器で活躍してほしいらしい。
きっと今頃頑張ってるんだろうし、差し入れしてやろう。
まあ、イベントが終わるまでに人間界に戻れたら、だけどな。
この小説が『面白い!』『続きが読みたい!』『う○こは食べたくない!』と思ったらブックマーク、下の評価★★★★★をお願いします!!ダイレクトにモチベに繋がるので、ウッキウキで続き書いちゃいますww




