59/土
ボス戦からさらに二日が経ち、土曜日。
今日は久々の脳筋王女達との再会の日だ。
グレディ平原はプリムス草原と比べて、起伏がなく歩きやすいこともあり、木曜日のうちにグレディに到着した。
出てくるモンスターも、〔ファングウルフ〕とそれを率いる〔ファングウルフリーダー〕、〔ワイルドキャトル〕とかいうデカい牛、腰蓑だけを身に付けた醜い緑の悪鬼〔ゴブリン〕、プリムス平原から引き続き上空担当の〔レッサーイーグル〕であり、ファングウルフとリーダーはボス戦で出てきた奴と違って発狂モードもないので論外、他もボス戦に及ぶものはなく、苦戦らしい苦戦もなかった。
唯一の心配事は、人型のゴブリンをVRゲーム慣れしていないスプラが許容できるかだったが人型のお陰でウルフより戦いやすいと、嬉々として殴り合っていた。
ボス戦を経て少し思っていることがある。
スプラには戦闘狂の気があるのではないだろうか、と。
まあ、戦うことが嫌いより、好きな方がこのゲームを楽しめるからいいんじゃないかな、と見て見ぬ振りをすることに決めているのだが。
そして丸々暇になってしまった金曜日は、長旅の疲れを癒すもとい、スプラがMLを初めてすぐに旅になったため、各々のんびり過ごすことになった。
スプラが何をしていたのかは知らないが、俺は妖精達との契約を不履行にしないために、釣りに精を出す一日になったよ。
お陰で二つも釣りのレベルがあがっちまった。
ここで一旦、一週間のリザルトを確認しておこう。
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PN【レンテ】 LV.24
職業:冒険者〔F〕
[AP:0][SP:10]
HP:330/330
MP:330/330
STR:10
VIT:10
INT:50[+5]
MND:10
DEX:26[+2]
LUC:10
〔契約〕
【妖精達の大行進】
〔スキル〕
・魔術スキル
【火魔術】LV.9
【風魔術】LV.8
【水魔術】LV.8
【土魔術】LV.8
【光魔術】LV.8
【闇魔術】LV.8
【真・樹魔術】LV.7
【魔法陣】LV.3
・生産スキル
【調合】LV.6
【細工】LV.2
【複写】
【模写】
・補助スキル
【MP自然回復】LV.3
【MP回復速度上昇】LV.6
【器用強化】LV.1
【知力強化】LV.4
【夜目】LV.5
【発見】LV.3
【釣り】LV.14
〔控え〕
〔称号〕
【無謀に挑む者】
【友好を築く者】
【我が道を往く者】
【妖精達の祝福】
【地形を利用する者】
【地形を破壊する者】
【一撃粉砕(魔)】
【滅却の魔術士】
【万能付与士】
【大物喰らい】
【“終焉の魔女”の弟子】
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あのボス戦はレベル的には格下だったこともあってか、キャラのレベルは上がらなかったが、スキルは色々と上がってくれた。
正直なかなかの死闘だったのだから、俺的にはキャラのレベルも上がって欲しかったけどな。
ボス戦のリザルト以外でも、上がっているスキルがあった。
【夜目】と【発見】だ。
【夜目】は言わずもがな、この一週間弱の戦いといえば夜間戦闘だったし、街道を歩いて警戒しているだけでも経験値が入っていたみたいなので、順当だろう。
しかし意外だったのは、今までうんともすんとも言わなかった【発見】の方だった。
何が経験値取得につながったのかといえば、夜間の索敵や警戒だ。
ふと不思議に思ったらしいスプラに言われて気がついたのだが、【夜目】のレベルが同じはずのスプラより、夜の闇に潜んでいるモンスターを発見する頻度が俺の方が多かった。
決してスプラがサボっているとかいうことではなく、その要因が【発見】スキルだったのだ。
確認の仕方は、【発見】を控えに回したりしながらひたすら実証実験だ。多分、間違っていないと思われる。
つい【発見】は、落ちている宝物とかを見つけるためのスキルだと勝手に想像していたので、その可能性を見落としていた。
あとは、ボス戦前と後で新しく獲得した称号か。
ボス戦前に獲得した【万能付与士】は、自身が敵味方関係なく掛けるバフ・デバフの倍率を少しだけ増減してくれるようだ。
地味に有難い称号だが、妖精達が掛けてくれるバフには効果は及ばないのが少しだけ残念。
そして、ボス戦のリザルトで手に入れた【一撃粉砕(魔)】だが、魔術に対してMPを最大二倍まで消費することで、最大でダメージを1.5倍まで上げることができるようだ。
一日に一回までなら空間妖精のリフレクションで安心安全自爆特攻戦術が使えるので、火力アップは嬉しい誤算だった。
というのが、この一週間のリザルトである。
そんなスプラ共々成長を遂げた俺たちだが、今は脳筋王女が手配していた馬車に揺られて王都に着いたところだ。
この馬車の凄いところは、見た目も豪華で、前に載せてもらった商人の幌馬車よりも高速移動するところ…もそうだが、王城まで検閲もなく素通りする悪目立ちするところだった。
幸い外から中を確認できないようになっていて、誰が乗っているのか他のプレイヤー達からは分からないだろうが、心臓に悪いのでもう少し普通の馬車にして欲しかったのが本音だ。
まあ、それを理解した上で楽しんでいる悪趣味さがあの脳筋の本質だがな。
「へぇぇ。テューラとセレスティアって本当に王女様なのね、次から名前呼ぶ時は様付けないと怒られるかしら?」
「公の場じゃないならいいんじゃね?俺なんてテューラ殿下のこと脳筋王女って呼んでるし」
「それはそれで不敬罪で打首になる前に辞めた方がいいんじゃないの?」
だとしても断る!
これは俺があの脳筋王女から解放されるための手段の一つなのだ。
俺の無作法な態度が嫌われる要因の一つにでもなれば儲けものである。
「それにしても、王都を観光するどころか、その前に王城に入ることになるなんて。いくら初心者の私でもおかしいことが分かるわよ」
「いいじゃん、他のプレイヤーと同じことしてても、最前線を突っ走るグレンには追いつけないよ。だったら利用できるものは何でも利用するべきじゃないか?たとえそれが王女殿下でも」
「まあ、そうね。今度のイベントで上位入賞すれば、晴れてグレンと冒険が出来るってものだわ」
実はスプラがMLに初ログインを果たす前日から始まっているイベントがある。
MLが正式サービスを開始して一ヶ月を祝ったイベントなのだが、前回の公式イベントが闘技大会という戦闘職向けのイベントだったこともあり、今回は品評会という生産職向けのイベントである。
内容は、職人達が持てる限りの技術と素材で作り上げた至極の逸品を集め、主催者たる王家の票と、プレイヤーとNPCを含む一般票で総評して、順位付けするというもの。
上位入賞を果たした逸品はその後に開催されるオークションにかけられ、プレイヤー・NPCが入り乱れての競りが行われるそうだ。
オークションとなれば資金的な意味でプレイヤーに勝ち目は薄そうだが、生産職メインのイベントだろうから、生産職が稼げることの方が大事だろう。
脳筋王女曰く、今回の品評会は名目上は闘技大会と同じく、新たなる才能の発掘らしい。
つまり、参加できるのは職業協会に所属したばかりの新人か、まだ職業協会に所属していない見習い以下に限られる。
まあ、身も蓋もなくいえば、参加資格を持つのはプレイヤーと、それと同程度の技量までのNPCということだ。
熟練職人による国宝級アイテムみたいなのは出てこないというわけだ。
纏めると、このイベントで上位入賞を果たすということは、生産職プレイヤーの中でも上位の実力を持つということ。
受付はもう開始しており、締切は五月末日のため、もう残り二週間とないが、少し汚いが勝算はある。
なんてったって、こちらには二国家の王女殿下方がバックアップにおられるのだ。
多少の遅れくらい取り戻せないと困ってしまう。
その時はそれを口実にパーティの申し出を断るだけなので、どちらに転んでも俺に美味しい話である。
…いや、待てよ?
そもそも、このイベントでスプラが上位入賞を果たせばスプラの目的が達せられる。うん、そこまではいい。
あれ、俺の旨みは?
いやいや、もしスプラが上位入賞を果たせずにその目的が先延ばしになったとしよう。もし先延ばしになったとしても、まだその時点でスプラはMLを始めて三週間と経ってない。焦る時間ではない。
それで、その場合は脳筋王女達とのパーティの申し出を断れる、それが俺と王女殿下方とで交わした約束だ。
パーティが組めないのは初心者サポートがあるからだと断ったら、じゃあその初心者が一人前に成長すればパーティ成立ですね、と。
つまり、パーティを断ることは出来るが、それは現状維持が叶うだけであり…。
何故だ、いつから錯覚していた!
いや、錯覚させられていた…?
つまり俺に勝ちの目はなく、二分の一で引き分け、もしスプラが上位入賞してしまえば逃げ道は無くなり完全敗北、と。
よし、ちょっとあの脳筋が来る前に、スプラには今回諦めてもらう方向で…。




