56/水
※派生属性の新魔術の習得レベルを少し修正しました。
物語には特に影響の無い部分ですので読み直す必要はありませんが、気になる方は前話の前書きを確認してもらえると助かります。
昨日、一昨日と順調に進んで、やっとボス前まで辿り着いた。
ゆっくりレベルを上げながら進んできたこともあり、スプラはレベルをLV.4まで上げていた。
しかし、段々と経験値が物足りなくなってきているのが現状で、数をこなせば別だが、効率的にいえば先に進むべきだろう。
とはいえ、プレイ三日目にしてLV.4というのは、俺と比べれば雲泥の差と言える。まあ、一般プレイヤーからしたら普通のことなのかもしれないが。
「今日はいよいよボス戦だ、準備はいいか?」
「ええ、負ける気がしないわ」
気合い十分といったところだ。
一応素通りもできるボス戦だが、スプラの意向によりきっちり倒していくことになった。
曰く。
「最序盤のボス戦で躓いているようじゃ今後やっていけないわ」
だそうだ。
だがここでデスしても面倒なので、ボスの相手は俺、取り巻きの相手がスプラ、ということになっている。
今回のボスは〔ファングウルフリーダー〕、一回り大きいファングウルフだ。
こいつをテイムしてしまったライラに言わせると、毛並みが違うらしいが、ボス戦には関係ないので割愛させてもらう。
「スプラの相手は、取り巻きのファングウルフ四体だ。リーダーに率いられたファングウルフはスピードが上がって連携が良くなるから気をつけろよ」
取り巻きの数は、パーティメンバー×2体が出現する。
今回は俺とスプラで二人なので、四体のファングウルフが取り巻きとして現れるのだ。
リーダーが統率系スキルを持っているせいもあり、ボス戦のファングウルフはプリムス草原で戦ったファングウルフよりも連携に磨きが掛かっている、らしい。
前回キャリーしてもらった時は、俺とライラで一体ずつの計二体、ユズとセシリアさんで残りの取り巻き八体、グレンがボスを受け持っての戦闘だったので、正直連携云々はグレン達情報と掲示板情報でしか知らないのだ。
前回のボス戦の時は、ファングウルフ一体に精一杯で周りの状況なんて気にしていられなかったからな。
人数が多いと、位置取りやFFなど、色々と気を配らないといけないことが多くて、パーティ戦初心者には大変だったのだ。
即席パーティな上に初心者二人連れて、β組三人からしたら連携どころではなかったのが本音かもしれない。
「それで、プランBについてだが」
なにも一つ作戦を立てて、それで全て上手く事が運ぶなんて思っていない。
ボスと取り巻きを分断するプランAだが、これには重大な問題が二つ存在しており、作戦成功率は五分だろう。
まず一つ、分断の方法。
これは掲示板に載っていた、[魔物除けのお香]を使った方法で行こうと思う。
なんでもモンスターの嫌いな臭いを発するお香は、嗅覚の鋭いモンスターほど効き目が高いらしい。
言わずもがなファングウルフは狼である。その鼻はさぞかし高性能なことであろう。レベルの高いボスですら多少動きが鈍るとのことなので、使わない手はない。
お香を使えばファングウルフをある程度無力化出来るみたいなのだが、じゃあ何故リーダーを二人で叩かないのかというと、単純にパーティ戦に不慣れだからだ。
問題はリーダーの攻撃ではなく、俺の攻撃がスプラに当たってしまうこと。
まだスキルレベルが低くて強い魔術が覚えられていないとはいえ、魔術特化といってもいい俺の魔術がもしスプラに当たってしまえば、プリムスに逆戻りになってしまう。
まあその時は奥の手を使うつもりだが、奥の手はいざという時まで隠しておくから奥の手なのだ。奥の手を使わずに勝てるならそれに越したことはない。
そして二つ目だが、これは完全に俺の問題で、俺のステータス構成が完全に魔術士ということだ。
これの何が問題なのかと問われれば、闘技大会でも散々言われていたように、基本一対一をするような性能していないのである。
なので、プランAが成功するかは、俺がどれだけ泥だらけになりながらもボスの動きに追い縋れるかが勝負の鍵である。
というのを踏まえた上で、プランBとは何か。
ファングウルフを無力化できたかどうかに限らず、リーダーがスプラを標的にしてしまった場合について、である。
その場合はもう仕方がないので、前衛にスプラ、後衛に俺というパーティらしい戦い方で頑張る他ないだろう。
場合にもよるが取り巻きは放置で、もしお香の効果が切れて参戦してきそうな場合は先に各個撃破だ。
こうなった場合の鍵は、どれだけ早くボスのHPを削り切れるかだな。
いくら運動神経のいいスプラであっても、ボスとは普通のモンスターよりも性能面で優れている上に、スプラからすればレベルでも格上の相手だ。
「まあ、なんとか持ち堪えるわよ。だから、早めに倒してもらえると助かるわ」
「俺のエイム力に期待しててくれ」
ところが、頭脳派の俺はプランCとプランDまで用意しているのだ。
これはスプラには内緒の作戦なのだが、いざとなったら俺のIQ100万が火を吹くだろう!
ってなわけで、お互いポーションなどの確認をして事前準備は完了だ。
雑木林の中、不自然な広場に足を踏み入れるとボス戦開始だ。
ユズ曰く、初めて倒されたここのボスは街道を塞ぐ形で居たらしいが、二体目からはここで再戦可能になっているそうだ。
閑話休題。
「『エンチャント・ファイア』『エンチャント・ウォーター』『エンチャント・ウィンド』『エンチャント・アース』『エンチャント・ライト』『エンチャント・ダーク』複合付与魔術『フィジカルエンチャント』複合付与魔術『マジカルエンチャント』複合付与魔術『エンチャントオブスローン』」
〈称号【万能の付与士】を獲得しました〉
あ、あれ?い、いや、今はボス戦に集中せねば…。
混乱しそうな思考を隅の方に追いやって、スプラにも同じようにエンチャントを施していく。
エンチャントの効果時間が少しでも無駄にならないように、俺は杖を構えた状態で、スプラはお香をすぐ炊けるように準備して、ボスエリアに踏み込んだ。
広場に足を踏み入れる一瞬、膜のようなものを通過した。
これは前回にも感じた、エリアが切り替わる時の感触だ。
つまりもうここはボスエリア。
俺は未だ姿を表していないボスを確認することなく、魔術の詠唱に取り掛かる。
スプラが己の心情を打ち明けてくれたことにより、心の壁が一枚取り除かれた気がする。
普通に世間話もするようになったし、MLの話で盛り上がるなんて考えもしなかった。
やっぱり、先入観ってあるものなんだな。
初心者の意見ってのも案外馬鹿にならない!
ストレージから取り出した一枚の紙とともに詠唱を完了させ、王者の貫禄とでも言いたげにゆっくりと顔を出したボス気取りの犬っころに照準を合わせる。
「二重詠唱!!『ファイアボール』+『アースボール』=複合溶魔術『ラーヴァショット』!!」
展開されていた火球の魔法陣が消え、スクロールの魔法陣は輝きを失い、そして現れる橙の魔法陣。
新たな魔術は余裕綽々と登場シーンでドヤ顔かましていた犬っころを狙い違わず吹き飛ばし、溶岩を撒き散らして雑木林の奥にお帰りいただいた。
取り敢えず先制成功!
新年明けましておめでとうございますm(_ _)m
今年もより一層面白い作品にしていけるよう邁進しますので、当作品をご愛読頂ければ幸甚の至りでございます。
さて、今年は卯年ですが、読者の皆様の中に年男年女はどのくらいいらっしゃるのでしょう?
年齢バレしそうなので詳しくは言えませんが、作者は卯年ではありません。
MLでも、卯年にちなんで、ウサギを活躍させるのも面白そうですね!
というところで、最後になりましたが…。
今年も皆様がご多幸でありますよう、心からお祈り申し上げます。
新たなる一年、頑張っていきましょう!!




