51/土
では皆さんも気になっているであろう【妖精達の大行進】の実力を見せてもらいましょう!
かくいう私も気になっておりますとも!
場所は変わりまして、数日ぶりのドルクスの断崖に訪れております。
シルウァヌスさんにはきちんとお暇の挨拶をしに行ったのだが、そこで嬉しい誤算もあった。
それはあの聖域にも転移陣があったことだ。
なので、これから釣りに行くときはあの長い道のりを歩いていかなくて済むということだ。
もうそれだけが気がかりで…。いや、100匹以上釣らないといけないことも問題ではあるが。
「早速、妖精さん達お願いします!」
「「「まっかせろー!」」」
意気揚々と飛び出してきた妖精達は、小さい身体とは打って変わってすごく頼もしく思える。
「あの岩みたいなモンスターを倒してみてくれ」
取り敢えずな。
攻撃は通らないかもしれないが、数が数だ。もしかしたら倒してしまうかもしれない。
それに、ダメージが通った上で倒せなかった場合に備えて、複合魔法『エクスプロージョン』は既に設置済みだ。
存分にやっちゃってくだせぇ!
「「「無理〜」」」
「え、なんで…?取り敢えず魔術でも何でも攻撃してみてくれよ」
「オイラたち攻撃魔術なんて使えないぜ?」
「いきなり無理難題押し付けるのやめちくりよ〜」
終了のお知らせ。
ついにアドバンテージを取り戻した!なんて心の中で思ってたが、まあそうだろうよ。そんな上手い話そうそう無いよな!
「…逆に何ができるんだ?」
「オイラは速くできる!」
「あたいは力強くできるよ!」
「…器用にする」
「魔術が強くなるのさ!」
ああ、なるほど。エンチャント系ってことか。
あれ、でも待てよ…。
派生属性系の妖精たちは何ができんだろう?
数は少ないが、それでも空間属性以外は各属性複数人居たはずだ。
「派生属性の子達はどんなことができるんだ?」
「敵の足を遅くできるんだぜ」
「あたしのはね〜、力が弱くなるんだ!」
「魔術が痛くなる!」
つまり、デバフってことか?
細かく各属性毎に話を聞いてみれば、STRにデバフを掛けるのが灼属性、VITにデバフを掛けるのが溶属性、DEXにデバフを掛けるのが氷属性、AGIにデバフを掛けるのが雷属性、INTにデバフを掛けるのが樹属性、MNDにデバフを掛けるのが霧属性、ということらしい。
最初は終わったなんて思ったが、これはなかなか使えるのではなかろうか。
早とちりだったかもしれない。
「取り敢えず、そいつに試してみてくれ」
「「「あいあい!」」」
そして、試してもらった感じだが、自分で使うエンチャントと両立するみたいなので、自分には通常バフ複合バフ妖精バフと三重バフを重ね掛けして、相手にはデバフを掛ければ、かなり有利に立ち回れるのではなかろうか。というのが個人的感想だ。
そう一人で活用方法について思考を巡らせていると、現実に引き戻す声があった。
「あのね、わたしはね、一日一回だけ遠いところに行けるの!」
そういえば空間妖精が何出来るかまだ聞いてなかったな。
って、遠いところに行けるってまさか…
「みんなお願い」
「「「あいあいさ!『妖精の輪』!!」」」
空間妖精を他の妖精たちが手を繋いで取り囲む。
声を合わせて何やら発動すると、七色の粒子が飛び交い渦を巻く。
なにこれ、明らかにヤバいんだが。
「『ワープゲート』!!」
「おいおい、マジかよ…」
やっちゃったよ、使えちゃったよ。
これ全プレイヤーが待ち望んだ転移魔法じゃないですかやだー。
転移陣と違うのは、空間が揺らいで繋がった向こう側が見えるところか。
それにどんな違いがあるのか、今のところ分からないが。
「繋がってるのはプリムス大森林の聖域か?」
「一回行ったことのあるところしか行けないんだ〜」
「それでも便利すぎだよ…」
どうしよう、これ誰にどう報告するのが正解なんだよ。
もう一旦バレるまで黙っておくのもありかもしれない…、なんてあからさまな悪手が頭を過ぎるあたり、相当に頭がパンクしている。
完全にソロで活用するならそれもアリ…なのか?
「それで、その妖精の輪ってのは?」
「これはオイラたちみんなの力を合わせて、一日に三回まで魔術の力をう〜〜〜んとっ強くするのさ!」
「わたしのワープゲートは、みんなの力を借りないと使えないの」
なるほど。流石に制限はついてるか。
それでも行動範囲が飛躍的に広がるけどな。
「その妖精の輪ってのは、俺に対しても使えるのか?」
「大丈夫だよ〜」
「じゃあ、一回使ってみてくれ」
「「「了解〜」」」
俺を取り囲む妖精たち。そして先ほどと同じく七色の粒子が舞い踊る。
「「「いっくよ〜!!『妖精の輪』!!」」」
ふむ。使える魔術と使えない魔術があるようだ。
それに魔法陣の『設置』系にも効果はないのか。スクロールも無理だな。
使えそうな魔術は…、基本攻撃系だけっぽいな。
『設置』は無理でも魔改造魔術は攻撃系の魔術ならいけそうだが、ここはそうだな。比べやすいやつを。
「『ファイアボール』!!」
あ、あれ?なんだろうこれ…。太陽かな?
どう考えてもヤバいんじゃなかろうか…。
顕現した総てを焼き尽くす紅の暴力は、地面と衝突するのと同時、視界を赤く塗り潰した。
「ヤバい!何か防御を…いや、バングルに戻れフェアリーズ!」
「「「『妖精の輪』!!」」」
「『リフレクション』!!」
三度目の妖精の輪。
どうやら妖精達は、戻れという直前に出した、防御をという指示に従ったようだ。
そして直前に妖精の輪で実験していたお陰か、移動せずとも発動されたそれは、聴いたことのない魔術。
暴れ狂う紅蓮の奔流が俺たちを呑み込もうとする直前、空間が歪み、その変えようのない死を跳ね返した。
〈LV.14に上昇しました〉
〈LV.15に上昇しました〉
〈LV.16に上昇しました〉
〈LV.17に上昇しました〉
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〈LV.24に上昇しました〉
〈【火魔術】LV.8に上昇しました〉
〈【MP回復速度上昇】LV.5に上昇しました〉
〈【知力強化】LV.3に上昇しました〉
〈【効果増大】スキルを取得可能になりました〉
〈【範囲拡大】スキルを取得可能になりました〉
〈称号【地形を破壊する者】を獲得しました〉
〈称号【滅却の魔術士】を獲得しました〉
………。
うん、取り敢えず逃げるか!!
脇目も振らず、酒場アーテルまでコソコソと逃げてきた。
妖精たちはバングルの中に戻ってもらっている。
取り敢えず頭の中を整理しようか。
一先ず、妖精の輪で攻撃魔法を使うのは一時封印だ。
目立つとかそういうこと以前に、命が幾つあっても足りない。
あの爆炎に呑まれる瞬間、三度目の妖精の輪を発動したフェアリーズは、空間妖精の魔術『リフレクション』を強化した、とログには残っている。
つまりあの爆炎を跳ね返したのだろう。
そして多分だが、跳ね返したことにより二倍とはいかずとも、相応のダメージが+αで加算されたはずだ。
「あの大穴元に戻るのか…?」
本来ただのファイアボールだった筈の魔術は、何故か範囲攻撃になっており、標的にしたスフィルロックを消し飛ばし、周りのスフィルロックも蒸発させ、地面を焦土に変えて抉り取っていた。
ありゃ、他のプレイヤーに見つかったら騒がれること必死だな。
それに、本来ダメージが通らない筈のスフィルロックは、あれでLV.40を越えている超格上モンスターだ。
一日に三回しか使えず、リフレクション無しの確定フレンドリーファイアを許容した上で、今日の方法でレベリングしようとしても、スキルレベルが上がらず、きっとチグハグなキャラになってしまうだろうことは、先ほどのリザルトが証明していた。
そもそもフェアリーズを見捨てるような戦法は許容できないので、やるとしても一日一回リフレクション付きでボス戦でぶっ放すくらいだな。
ボス戦ならワンチャン、インスタンスフィールドだから地形が戻るかもだし…。
まあ、あと確認するべきは称号効果くらいか?
一つ目の【地形を破壊する者】は、自身の攻撃で地形を破壊した際に相手に与える追加ダメージ量の増加だ。
あれだ、地面とかを壊して飛び散る石礫とかのダメージが大きくなるみたいだ。
あと、似た称号で前に手に入れた時に確認してなかった【地形を利用する者】も今確認しておこう。
こっちは言葉通り地形を利用した際のダメージアップだと。空中に打ち上げて、落下ダメージを与えたりするとダメージアップするみたいだ。
確認してなかった系でもう一つ、地形を利用する者と一緒に手に入れた【大物喰らい】。
これもシンプルで格上との戦闘時にステータスアップやら、被ダメ軽減などだ。
そして最後に【滅却の魔術士】。
火属性と火属性に連なる属性の魔術の威力・効果範囲(大)。また、火属性に連なる属性魔術スキルの取得SP軽減(中)。
火属性に連なるってのは、灼属性や溶属性みたいな派生属性と、火属性の先にあるであろう上位属性のことだと思われる。
これ、もしかしなくても各属性に【〇〇の魔術士】って称号あるよな。
まあ、狙うかどうかは置いといて、しばらく大人しくしておこう…。




