49/土
メリクリです〜
近年あまり雪が降らなかった私の地元も、今年はホワイトクリスマスになりそうです
サンタさん、今年も特注の底なし靴下ぶら下げて待ってます!!
それにしても寒い…
さて、そろそろ心の平穏ツアー第二弾に移ってもいいだろう。
現実でもそうそうお目にかかれない、いや仮想現実だからこその風情には十分癒されたし、次は無心になれるアクティビティだ。
取り出したりますは、使い古された延べ竿!
これも持ってけと情報料込みでオヤジから買ったやつだ。
少し違うのは糸の先に針がついてないことだが、小さな頃に祖父母に連れられてやったザリガニ釣りも糸の先に煮干し付けて釣ってたし、この釣りも同じような感じなのだろう。
「よーし、どこで釣ろうかな〜」
こんな神秘的な湖に釣竿を垂らすのは少し場違いな気もするが、現実では近年釣り禁止エリアが広がっているらしいし、尚のこと現実ではできない体験ができるのだ。世界遺産で釣りしてるみたいなものだからな。
「おっ、いい場所はっけ〜ん」
少しだけ突き出した岬を発見。その先に腰を下ろして準備をする。
餌はなんと魔石を使うらしい。
延べ竿を伸ばし、糸の先に魔石を結びつける。魔石は意外とゴツゴツしており、ちょっとやそっとじゃ糸から外れることがないようにしっかりと結びつける。
余談だが、魔道具に組み込む魔石は研磨したりして加工した魔石を使うらしい。前述の通りゴツゴツしてると使いづらいらしく、統一規格でどの魔道具にも使えるようにしてあるそうだ。前に師匠の家で教えてもらった。
取り敢えず準備は完了したので、第一投。
延べ竿といっても海や渓流用の長いやつじゃなく、もっと短い所謂ハエ竿というやつだ。
投げるというより足元に落とすというのが表現としては正しいな。
「ま、気長に待つか。目的はのんびりすることであって、手段が釣りなだけだからな」
それに竿に対して餌がデカすぎる問題があるので、そうそう釣れるとは思えない。
使っている魔石はインク作りで余らせているプリムス草原産のやつで、最弱モンスターの魔石といってもピンポン玉くらいの大きさがあるのだ。
ハ○ター×ハ○ターの主人公でもあるまいし、これでヌシでも釣るのかって大きさだよな。
それに…
「オヤジから渡された魔石こそ、何釣らせる気だよ…って大きさなんだよな」
釣竿と一緒に渡された魔石が3個だけある。
これがどの程度の強さのモンスターの魔石かは分からないが、大きさだけなら拳より二回りほど大きい。
なんと釣り餌用に溝が掘ってある魔石で、加工されているからなのかアイテム名が[釣り餌用魔石]となっており、何のモンスターの魔石かは不明だ。
だが、この世界では魔石は釣り餌としてポピュラーなものなんだろうな、こんなアイテムまであるってことは…
ほとほと魔石の汎用性には驚かされるよ。
「おっ、当たったか…?」
今、ピクピクって…
ほらまた!
思ったよりも早く訪れた当たりに少しテンションが上がる。
そっと水面を覗いてみる。
「は?」
なんだこれ、これが魚…なのか?
水深はそこまでないので、魔石をつついている犯人は普通に見えるのだが、普通より見えやすいというか。
何なんだろう、この光の玉に羽と尾が生えた謎生物は…
「うおっ、ヒット!」
つい反射で合わせてしまう。
口らしい口も見当たらないのに、手応えはしっかりと掛かっている重さを感じる。
少しの抵抗ののち、針もついてないというのに逃げられることもなく普通に釣り上げられてしまった。
「地上で見ても得体が知れないんだが…」
〈【釣り】スキルが取得可能になりました〉
釣りについては少し前情報を知っていたりする。
このスキルを持っていると魚が釣れやすくなったり、あとスキルを持ってないと釣れない魚がいたりするそうだ。
未だ出番のない【発見】のスキルとどちらを取得するか迷ったスキルの一つだったので、サービスが始まる前にβの頃の攻略サイトでチラ見した記憶だ。
その記憶から言わせてもらうと、こんな魚?が釣れるなんて情報は無かったと思う。
まあ、正式リリースから追加された可能性もあれば、知っているプレイヤーが黙っているだけということもあり得るが。
そもそも、針を使わない釣りなんて誰も試してないという可能性も無きにしも非ずだ。
「えっと、釣れた魚はインベントリに入れられるはず…おっ、入った」
なになに、[ピクシーフィッシュ]か。
何に使うんだよこれ。
料理か?こんなピカピカした得体の知れないもの口に入れたくないぞ。
ただ、こいつの用途はカケラも想像出来ないが、経験値がかなり美味しい。ソロでファングウルフを倒したときの倍くらいは入っている。
これは【釣り】スキル取っちゃうか?取っちゃおうかな?
オヤジから貰った餌で釣りをするとなると、少々気持ち的に心許ない。
余りに余ってるプリムス草原産の魔石ならともかく、手元に3個しかないこれらを使うのは些かギャンブルに過ぎると思うのだ。
スフィルロックを倒して上がっていたレベル分のSPが余っているのも悪い。
師匠には次は補助スキル系を取れと言われているが…
「ふぅ。いつのまにかSPが0になってるけど気にしない気にしない」
今日は極力ストレスを溜めない生き方をするのだ!異論は認めない!
よし、こうなったら今日はとことん釣るぞー!!
一旦ログアウトして昼食の時間。
今日は朝早くからインしていたが、森林浴効果もあってか、心身ともに全くといっていいほど疲れを感じていない。
これは定期的に聖域を訪れるべきなんじゃなかろうか。
「お兄ちゃん、ナポリタン、ボロネーゼ、カルボナーラ」
「うーん…、じゃあナポリタンで」
「おけー」
今日の昼食はパスタのようだ。
麺を茹でて市販のソースを掛けるだけのお手軽な一品だが、気分に合わせてソースを変えるだけで味を変えることができるので、我が家の昼食に割と高頻度で現れたりする。
ちなみに、三種類のソースを掲げた柚子だが、俺の選ばなかった二人前が柚子の胃袋に収まることになる。
「ほい、出来たから持ってってー」
「うい」
二人で席に座っていただきますをする。
「あ、そういえばさっき若葉さんが来てたよ」
「えっ、何をしに…」
「ほら、あれ。なんか菓子折り持ってきて、お兄ちゃんによろしくだって。旅行のお土産?」
くっ、しっかりしていらっしゃることで!
俺には多少当たりの強い若葉だが、俺以外には寧ろ優しくて面倒見が良いまである。
別にトモのこと取ったりしないから、俺にも少しはその優しさを向けてほしい!
まあ、多分だが明日からお世話になるとか、迷惑をかけるとか、そんな理由で持ってきたのだろう。
柚子が指差す先にある、もう半分無くなっている菓子折りを見てそんなことを思った。
あれで存外気も回るからな。柚子の好きなお菓子もリサーチ済みだ、俺の好きなお菓子じゃないところがポイント高いな!
「それで?結構早くからインしてたみたいだけど、何してたの?」
「森林浴だな。日々の疲れを癒してた」
「プリムス大森林?よくお兄ちゃんのレベルでデスしなかったね」
「まあ、敵出てこない場所だからな」
「あー、そっか。森の浅い場所は出てこないんだっけ」
嘘はついてないです、はい。
ミスリードを誘っただけで。
「私はやっと護国獣に認めてもらえたんだ〜。契約獣ゲットだぜ」
「おー、前に言ってたレイドボスの蛇か。勝てたんだ」
「ううん、勝てなくてもある程度の実力示せば認めてもらえるんだよね。そしたら契約獣っていう、テイムとは別枠のサポートキャラ貰える」
あー、シルウァヌスさんが言ってたやつか。
たしかセントラリスも聖域だって言ってたもんな。
「へー、それってどんな感じになるんだ?たしか聖域の力をプレイヤーに宿して、自分自身が棲家になるんだよな?」
「なにそれ、ヘルプの説明ってそんなこと書いてあるの?私たちの場合は、ペンダント型のアクセに住んでる感じかな。呼んだら出てきてくれる」
なるほど?
そっか、別に聖域から力を借りると言っても、人間の中に住むってより、アクセの中に住むって方が違和感少ないか。
「契約内容とかは聞いても大丈夫なやつ?」
「うん、特に問題ないんじゃないかな。私のやつは“召喚した時間に応じて魔石をいくつか”と“一週間に二十体の自分のレベル以上のモンスターの討伐”、それと“一週間に一回甘味”かな」
「割と盛りだくさんなんだな」
「うーん、そんなもんじゃない?みんな似たり寄ったりだったけど」
「そうなのか。でもその契約獣?ってかなり重要だよな。パーティの制限に関わらずに呼び出せるってさ」
「まあ、一パーティで一匹までだけどね」
「あ、そうなんだ」
てっきりプレイヤー毎にパーティの枠数関係なく呼び出せるのかと思っていたが違うのか。
「一人一匹呼び出せたら壊れ性能だよ。テイマーなんて基本、プレイヤーが一人に従魔五匹なんだから、契約獣一匹しか呼べないテイマーが不遇になっちゃうじゃん」
「言われてみればそれもそうか」
しかしよかった。
契約獣というらしいこのシステム、すでにヘルプに載っている、尚且つ既に柚子が手に入れているとなれば聖域関連の情報については既出ということだ。
割と爆弾情報だと思ってたから、これで一安心だな!
よし、少し食休みしたら釣り再開だ!




