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46/(水)(木)金

ちょい短めです


休日の前に立ちはだかる高き壁、金曜日。


今週も学生たる本分を全うして帰宅。


いつものように諸々を済ませてログインできた頃には午後八時になっていた。


一昨日はスクロール作りに明け暮れ、昨日は始まりの村の村長親子にそれを恩返しとして届けてきた。


始まりの村へはグレンと二人で赴き、せっかくもらった剣を友人に譲った(売った)ことの謝罪と、約束した返礼をした。


謝罪は快く受け取ってもらえた上に、懐かしのクルミクッキーを貰ったりと、返すどころかまた貰ったりもしたが、概ね円満に事を運べたと思う。



「今日は脳筋王女とマーリン爺に会いに行く日か」



たしかマーリン爺が泊まっている宿屋に馬車を手配してくれているはず。


宿屋はつい最近まで利用したことのなかった、俺の中ではフレーバー的要素だとばかり思っていた施設だが、何やら宿屋でログアウトすることで、次のログイン時僅かだが経験値ブーストが掛かるらしく、ユズにログアウトするときは宿屋、と力説されたのは一昨日の登校中だったか。


まあ、今回みたく待ち合わせの目印にもなりやすいので、宿屋でログインログアウトは便利なのかもな。


俺には待ち合わせするようなフレンドはいないわけだが。



そんなこんなで、迎えに来ていた気後れする豪奢な馬車に揺られること少し。


王城に着いて、特に検閲などもなく応接室…ではなく、脳筋王女の私室に通された。



「まあ!この方が世界樹の後継者でいらっしゃるの?」


「リンダ様の弟子でもありますよ」


「では、テューラは姉弟子ということでしょうか」



今物凄く嫌な言葉が聞こえたが、それ以外にツッコミどころが多過ぎて、既に帰りたいんだが…



「えっと…取り敢えずどちら様?」



戦闘時(あばれるとき)以外はストレートに下ろしたブロンド髪の脳筋王女は、王女様が着ているイメージの宝石がふんだんに使われたようなものではなく、白地の大人しい印象を抱くドレスに身を包んでいる。


なんというか、口を開かなければ前に誰かが言っていたように聖女と言われても信じてしまいそうなほどには儚い、口を開かず座っていれば。


そしてそんな脳筋の隣。


脳筋王女と並んでもなんら遜色のない、プラチナブロンドをハーフアップに編み込んだ名も知らぬ女性は、翡翠色のドレスで、昼は花園で小動物と戯れていそうな可憐さを振り撒いている。


隠しきれない脳筋王女を知っている身としては、隣の女性の方がよっぽどお姫様していると思う。 


それに何より、印象的なのは尖った耳であろう。


今のところプレイヤーの種族は人族オンリーだが、NPCの中にはチラホラとファンタジー種族を見かけることがある。


ケモミミを生やした獣人族であったり、ずんぐりむっくり筋骨隆々で鉄を鍛えるドワーフだったり、鱗や尻尾などトカゲの特徴をその身に備える蜥蜴人族だったり、色々だ。


しかし他のプレイヤーは分からないが、MLで俺はまだエルフを見かけたことがないのだ。


それくらいには珍しい種族だろう。



「ご紹介がまだでしたね。こちらは私の親友であり、妖精の国フェアリアスの王女セレスです」


「四大精霊の加護を授かりし、名をセレスティア・フェアリアスと申しますわ、以後お見知り置きを」


「…失礼しました、一介の冒険者のレンテです」



立ち上がり、カーテシー?で挨拶をしたセレスティア様に対し、流れくる情報の奔流に押し負け呆然としてしまったのを詫びて、なんとか自己紹介を返す。


回らない頭で促されたまま逆らわずに空いた席に座る。



さて、一旦冷静になろう。


控えていたメイドさんが紅茶を淹れてくれる。


紅茶よりコーヒー派な俺だが、爽やかな風味が心を落ち着けてくれるので、今は紅茶でもありがたい。



えっとなんだっけ?


俺は何から突っ込めばいいのだろうか。


“世界樹の後継者”、“姉弟子”、“妖精の国の王女”、“精霊の加護”。


おお、冷静に考えれば突っ込む要素はこれだけ…いや、初対面から自己紹介まででこの情報量は十分混乱するに足る。



「えーっと、取り敢えずせか…いや、今日来た本題から」



あぶねぇ…


新情報のオンパレードで今日の目的を忘れるところだった。


俺にできる最高の笑顔で言ってやる。



「闘技大会の一方的な約束の件だけど…、約束通りレインが優勝したから、お断りします!」


「そうですね」



あれ、やけに潔いな。


そもそも本気じゃなかったってことだろうか?



「では改めて、私達とパーティを組みませんか?」


「だから断るって、そもそもあのときレインが勝ったら諦める…私“達”?」


「ええ、ですから今回は勝負ではなく、私からのお願いです。もちろん、報酬もありますよ」


「精霊術、ご興味ありませんか?」


報酬らしい単語を語ったのはセレスティア王女殿下だ。


なるほど、この二人グルか。


いや、仲良さげにお茶して待っていた時点で疑う余地もないんだろうけどさ。


そもそも、あのとき脳筋王女はレインが負ければパーティを組む、勝てば諦めると言っていた。



「話を進めるな!なーにが“改めて”だよ、レインが勝ったら諦めるって話はどこいった!精霊術は気になるけどさ!」


「ですからあの時の言葉通り、“一旦”諦めて、“再度”お願いしているのです」


「クソみたいな屁理屈どーも!」


もしかして今日は“一旦”の定義について話に来たんだったか。


じゃあ俺の中での一旦は、取り敢えず50年くらいにしといてくれ。


大体、一旦なんて言っていたかすら疑問だが、そもそもが口約束だ。


言ったもん勝ちみたいなところあるし、そこに権力まで重ねれば、それは立派な真実になりうるところが恐ろしい。


それに加えて、未知のスキルをサラッと話に混ぜてくるところもイヤらしいよな。


と・も・か・く!



「これからしばらく初心者サポートしなきゃダメだから、お姫様のエスコートなんてしてらんないんだよ、大人しく諦めてくれ」



呆気に取られた表情も束の間、ニヤリと歪んだ脳筋王女の顔がイヤに印象的に映った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「四精霊の加護を授かりし、名をセレスティア・フェアリアスと申しますわ、以後お見知り置きを」 >立ち上がり、カーテシー?で挨拶をしたシルフィ様に対し、 エルフの姫様の名前はどっちが正…
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