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HP1ドットで満身創痍のレインと、倒れて動かない細剣使いのお嬢様…マルシェだったか?を観て、闘技場内は凪いだ水のような静けさに包まれたのも一瞬。


大歓声が場を飲み込み、決着が付いたことを否応なく知らせていた。


つまり、レインはやり遂げたのだ。



マルシェのスキルと武技の連発による奇天烈な軌道からの連撃をなんとか掻い潜り、最後まで初見殺しで全プレイヤーを出し抜き続けた。


最後は半ば自爆特攻ではあったが、“一回の戦闘中一度だけHP1で耐える”という【根性】スキルを持つレインだからこそ出来た作戦だろう。


MLって普通にフレンドリーファイアあるからな。



次の機会には通じないであろう今回の作戦の数々だが、しかしそれはそれ。


レインが優勝したことには変わりがないのだ。



「おめでとう」



大振りで手に持つ杖ごと満面の笑みで手を振る姿はレインらしくはないが、そのくらい興奮冷めやらぬといった状態なのだろう。


聞こえるとも思えない声量だが、称賛の言葉を送った。


さて、と。



「じゃ、俺は巻き込まれる前に帰るから。レインによろしくな、おつかれ!」


「ちょ、お兄ちゃん待っ」



待ちません!


確実にこのまま居たら大混雑に巻き込まれて、離脱できるのはいつになることやら。


ほら、俺と同じ考えの人達が窺える範囲にもチラホラ。


誰だ、“弟子が優勝したのに最低!”とか抜かした奴!


そもそも弟子じゃないから!最低なことくらい理解した上での行動だから!



俺にはここに残っていてはいけない理由があるのだ。


嫌な予感がする。それも外れる未来が見えない、ともすれば確定事項のようにも感じる予感。


あの脳筋王女、このままここにいれば何かやらかすに違いない…


パーティのお断りは城にでも行って堂々と、煽り性能MAXの笑顔で言い放ってやればいいのだ。


マーリン爺に貰った魔道具で遠距離通話でいつでもいくらでもアポ取り放題なわけだし、マーリン爺には言いたいこともあるしな!


そもそも師匠の弟子特権で王城でさえ顔パスに近いのだ、方法なんていくらでもある。



ってなわけで。


さらば!






さて、抜け出してきたはいいが何をしようか…


時刻は午後3時、夕飯まではまだ時間がある。



「でもやること、やることねぇ…」



順当に考えるなら、当初の予定通りプリムスまで戻って北のフィールドで魔術のスキル上げが妥当だろう。


元々人気のないフィールドだ、今ならさらに過疎フィールドと化していることだろう。


同じ考えの魔術士プレイヤーがいないとも限らないが。


よし、そうだな。



「【魔法陣】を教えた手前、【魔法陣】で出し抜かれるのはいただけないよな」



レインの【魔法陣】スキルのレベルは分からないが、それ以前に俺よりレインの方が上だと断言できる要素が一つある。


それは『設置』の存在だ。


俺にはあの武技はまだ使えないのだ。



「武技の取得条件が二十種の魔法陣を保存することだとはなぁ、俺には諸々足りてないってことか」



そう考えると一石二鳥、魔術系スキルのレベルも上がるし、『設置』の取得も狙える。


まあ情報屋のオヤジの話通りならプレイヤーレベルは上がらないが、多くを望み過ぎてもいいことはないからな。


まったりゆっくりでいいのだ。



さて、王都には東西南北それぞれに一ヶ所ずつある大きな噴水広場。


小さな公園のような広場はもっと多くあるが、その他とは違いこの四ヶ所の噴水広場にはとある施設が存在する。


テレポートエリア、転移陣、ワープゲートなどなど。


呼び方は様々だが、町から町に転移できる手段こそ、この魔法陣が内側で輝く水晶柱なのだ。


プレイヤー、NPC問わず、この水晶柱に触れてるだけで訪れたことのある町に転移することができる。


原理としてはスクロールと同じだと思われる。


ただ、半永久的に使い回せるこの水晶柱は、スクロールとは似て非なるものだ。


その仕掛けがこの水晶柱なのだろうが…分からん…。



そもそも、まだこの転移魔法陣すら四分の一も読み解くことができないので、これがプレイヤーに作れるとしてどのくらい先の話かってところだな。


逆立ちしても出来ないことに夢想しても仕方がない。


空間魔術のスキルさえまだなのに。


ささっとプリムスに戻って、パパッとスキル上げしちゃおうじゃないの。






ってなわけでやってきました『ドルクスの断崖』!


観戦中に雑談程度に聞いた話では、無謀にもこの反り断つ壁に挑んだ猛者は、ロックドレイクなる岩を纏うワイバーンみたいなモンスターに為す術なく処されたらしい、南無。


この崖を登るステータスはそもそも俺にはないので、最初から登頂の選択肢はないけどな。



さて、目的のスフィルロックだが、実は意外と見つけることだけはそう難しくはない。


だって、そこら辺にゴロゴロ転がっている岩のほとんど全てがそうなんだもの。


大きさは1m〜2m、人間より大きい岩塊がモンスターだと考えると少し怖気付いてしまいそうだが、動かないらしいので気にするだけ無駄というものだろう。



「本当に襲ってこない、よな…?」



返事は当然のごとく返ってこない。


返事どころか身じろぎひとつしない目の前のモンスター(仮)が、本当にモンスターなのかすら疑わしい。


モンスターを鑑定できるようなスキルが欲しい今日この頃。


「ま、取り敢えず魔術使ってみるか」


攻撃してもノンアクティブなままならモンスターかどうか分からない、モンスターじゃないならスキル熟練度も稼げない、と疑問に思うかも知れないが心配無用だ。


いくら岩肌剥き出しの変化の少ない断崖で、そこらじゅうに岩塊が転がっていようとも。



「『ブランチニードル』!」



タタタタタンッ、と岩に弾かれた枝の針。


ゴツゴツとはしているが球体然としたコレが、軽い傾斜とはいえ魔術を受けて微動だにしないのは違和感を通り越して、確信してコレがそうだと断言できる。


そもそもこんな大量の球体に近い岩塊群なんて珍百景過ぎて世界遺産真っしぐらな光景だからな。



「ふぅ、本当に襲って来ないな…」



若干疑っていたのは隠しても仕方がないな。


いやだってさ、万が一って可能性もあるわけで。



ま、疑念も晴れたことだし、しばらくはここに通って魔術スキル上げかな。


何のとは言わないけど、ほとぼりが冷めるまではプレイヤーが多いところは危険が危ない。


師匠の言いつけ通り魔術の研鑽をしているわけだし、称号効果にも期待だな!


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