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マグナリベルタス初の公式イベントもこの試合で最後。


まさか本当にこの瞬間まで勝ち上がってくることができるなんて思いもしなかった。


もちろん、私自身努力を怠ったつもりはない。


当然のようにプレイヤーレベルは現時点のリミットまで上げてあるし、時間があればスキルレベルを上げ、PSを磨いてきた。


それでも魔術士特化ビルドである私が、この場所に立ち続けていられるのは、あの隠れ家的酒場で偶然出会った彼が惜しみない助力をしてくれたからに他ならない。


正直、自分でも信じられないくらいには、決勝の舞台という非現実に高揚しているのが分かる。



「驚きましたわ、まさか決勝で戦うのがレインさんになるなんて思いもしませんでした」


「ふふっ、私も同じこと思ってた」



決勝戦の相手、マルシェが挑発混じりに話しかけてきたが、全くその通りだと思うと少し面白くなってしまった。


当のマルシェは私の返しが思ったものと違ったのか、バツの悪そうな顔をしている。



昨日までは魔術士がPvPに弱いのはプレイヤーの総意であったのだ。


私も疑う余地もなくそう思っていた一人である。


まあ、少しくらい見返してやろうとセシリアに相談したりと足掻いていたけど、その結果レンテが現れたのだからゲームとはいえ、現実は何があるか分からないか。



「マルシェが挑発なんて珍しいね」


(わたくし)だって警戒しているんですのよ、次から次へと新要素が飛び出してきて…」


「それは重畳」



この公式イベント関係の掲示板で最も盛り上がっているのは、間違いなく魔術スレだと断言できる。


【魔法陣】スキルという未発見スキルが、下馬評を投げ捨て、次から次へと攻略組を薙ぎ倒している現状、それは当然の帰結と言えた。


そのほとんどが初見殺しの押し付けであるとしても。



「今回は勝たせてもらう、レンテとの約束だから」


「レンテ…噂のプレイヤーですわね、このタイミングでこんな重大情報を持ち込むなんて少し憎たらしいですわ」



正確にはお願いされたくらいで、約束まではしていない。


でも、【魔法陣】のおかげでここに立ててるとはいえ、【魔法陣】についてのヘイトは確実にわたしに向いている。


実際レンテはそのつもりだと自分で言っていたし、レンテよりもわたしの方がネームバリューがあるのは確かだと思うから処理もしやすいだろう。


でもそれとこれとは話が別。


マルシェのヘイトをレンテに向けるくらいは許されていいはずだ。


パーティの頭脳たるアウラも言っていた。


利用し、利用され、利用し返すくらいが丁度いい、と。


何が丁度いいのかは分からないけど、レンテが怒ったらアウラのせいにすればいい。



「掲示板の匿名情報はあまり当てにならない」


「あら、お弟子さんではないのかしら」



ちなみに、レンテが掲示板で噂になっているのはテューラ王女絡みからだ。


未だ未発見であった転移魔法を使った王女や、その会話内容について憶測が飛び交っており、その流れから“わたしが弟子”という王女の発言から【魔法陣】もレンテから…と邪推されているだけだ。


レンテの目論み…



「これより決勝戦を執り行う!」



もう試合が始まるらしい。


おしゃべりはこのくらいで終わりかな。


おかげで少しは緊張がほぐれたから、少しはマルシェに感謝してもいいかも。



少し長い私たちの解説を実況が語るのを耳に位置につく。


わたしとマルシェの距離は25mほど。


AGI偏重のマルシェにとっては、一瞬の距離。


マルシェが使うのは、エペと呼ばれる武器だ。


突きに特化した、刃のないレイピア。イメージはフェンシングだろうか。


そしてレイピアやエペ、フルーレなどが分類される【細剣術】スキルは、他の武器系スキルと違う特色により、対魔術士戦において遺憾なくその力を発揮する。



「両者、位置について!」



きっとマルシェはこれまでのわたしの情報を加味した上で、それでもーー



「始め!」


「『ボンナヴァン』『縮地』!」


「ぐぅっ!?」



開幕速攻!!


予想できていたとはいえ、魔術士のステでは少し厳しい。


アッシュでさえ魔術を一つ使う余裕のあった距離を、武技とスキルの連続使用で潰してきた。



「魔術を使う隙なんて与えさせませんわっ!!」


「う゛っ、ぐぁっ、このっ!!」



【細剣術】スキル。


その特徴はなんと言ってもーー



「『ロンペ』『マルシェ』!」


「ぬぅっ!!」



移動系武技の多彩さだろう。


彼女のPNと同じ武技『マルシェ』は前進、対を為す『ロンペ』は後退する武技だ。


予備動作なしでヌルリと間合いを外されるのは少し気持ち悪い。


近接戦闘、特にPvPでは、間合いを外して即詰めることのできるこの二つの武技コンボは控えめに言って卑怯だ。


開幕で使ってきた『ボンナヴァン』も劣化版【縮地】のような武技であり、AGI特化のアッシュを超える速度で詰めてきたカラクリがこれだった。



「どうしましたのっ!何もしないのならばこのまま攻め倒しますわよ!」


「だいっ、じょう、ぶっ!これで、勝てる!」


「面白い、ですわ!」



きっとマルシェに対して魔術を二発放つ余裕はない。


凌ぐのでやっとな今の状況がそれを如実に表している。


ならば一撃で倒すまで…



現状最高火力と言われる『ファイアランス』なら、AGI・DEX型で防御の薄いマルシェを一撃で削り切れる可能性はある。


威力改造した『ファイアランス』なら尚のこと。


しかし、マルシェには移動系武技が豊富にある。


隙を見つけ出し、辛うじて放った『ファイアランス』でも、きっと当たらない。


ならば方法は一つだけ。



「なっ、なんですの!?」


「耐えられるものなら耐えてみて」


「っ!?なにこの魔法陣…!?」



上空に浮かぶ輝きを増してきた魔法陣に、マルシェがついに気づいたようだ。


唖然と立ち止まったのは一瞬、さすがトッププレイヤーと名高いことはある。



「くっ、『ボンナリエール』!」


「いいの、わたしから距離を取ったりして?」



かにかま戦のあと、レンテが溢したミスリード。


誰が流したのか、情報の早い掲示板には早速その事実(・・)が書き込まれていた。


つまり、一定空間内に設置される魔法陣は接触発動型(・・・・・)、と。


『ボンナリエール』は『ボンナヴァン』と対を為す、謂わば後退するための劣化縮地。


短距離転移扱いを受けている縮地系統は『ロンペ』とは違い、魔法陣を飛び越えても触れた扱いにならないらしい。



「黒い魔法陣ですの…?闇属性の紫ではなく?」


「教えてあげる。これは複合破壊魔術『エクスプロージョン』」


「複合、破壊…」



『設置』の最大の利点は、魔術ではなく武技であること。


それは、詠唱時間と言われるCTは無く、次の再発動までの時間を表すRT(リキャストタイム)のみで再発動可能だということ。


そして何より、『設置』はRTが終われば、その前に設置していた魔法陣が発動していなくても(・・・・・・・・・)、再発動が可能なのだ。



それが、何を意味するか。


答えは同じ場所に重ねて設置できる、だ。


それは特定の魔術同士を重ねることにより発動する【魔法陣】の新たな武技『複合』の発動条件。



「現時点の魔術の最大火力は『ファイアランス』、でもそれも今日で終わり」


「まさか!?いえ、でも触れなければ関係ないですわ!『ボンナヴァン』!」


話している間にRTが終わっていたらしい。


でも遅い、時間を稼いでいたのはこっちも同じ。


コレは威力は申し分ないけど、準備とCTが長めなところが玉に瑕なのだ。


さっき魔術名を声に出したことで、発動句は唱え終わっている!



「それも掲示板?」


「くぅっ!?」



塗り潰すような黒い閃光に辺りが包まれる。


『設置』は二種類存在する。


接触発動型と任意発動型。


この土壇場で、回避を選ばれていたら分からなかった。


でも。



目の前に迫るマルシェの驚愕の表情と、漆黒が吹き荒れる視界が、わたしに勝ちを確信させた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 掲示板は便利だし掲示板形式の小説も描写も大好きだけど 安全安心のレールだけを選んで個性が死んでるのもおもしろくないよな! 的なフロンティア精神を忘れてない主人公(ポンとも言う)に影響されて強…
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