41/日
主人公メインじゃない回が続きがちなので、少し駆け足気味になってます。
ご容赦くだせぇ…
レインの天敵になる戦闘スタイルは、所謂AGI型ビルドと言われるものだ。
まあマグナリベルタスには“速さ”を表すAGIのステータス項目はないのだが、装備にはAGIの強化項目はあるらしく、スキルでも速さを補うものが多種あるそうだ。
つまり、足の速さや、それに類する効果を揃えているプレイスタイルをそう呼ぶらしい。
閑話休題、アッシュのようなAGI偏重型のプレイスタイルは、特に苦手と言っても過言ではない。
それは、今辛勝を納めた目の前の試合を見ても明らかだ。
何でもβから有名なソロプレイヤーらしく、二つ名まであるとか。
かく言う俺も少しばかり驚かされるプレイスタイルだったので、有名なのも頷ける。
「危なかったけど勝利」
「おめでとう、あと二勝だな」
その戦法は、まず短弓使い。
取り回しのしやすい弓で、威力よりも手数。
スキルと装備は速さ補正重視に揃えているらしい。
「初めまして、かにかまっす!」
「あー、もしかしなくても俺だけ初対面か。レンテです」
ここに陣取ってるメンツって、そういえばβ組ばかりだったな。
そう思うとすごく場違いな気分になってきた…
「いやぁ、何かと掲示板をお騒がせなレンテさんに会ってみたかったんすよ!」
「お騒がせ?まあ、よろしく」
いや、うん。
もう何も言うまい。
「一言で彼を表すなら、そうね、レン君の同類ってところかしら」
「同類というと?」
思い当たる節が欠片もない。
セシリアさん曰く、同類らしいのだが、プレイスタイルも違えば、闘技大会の本戦で活躍できるような力量もない。
何をもって同類と表したのだろうか。
「彼の二つ名は『レンジャー』、弓という本来遠距離用の武器を使ったインファイトみたいな戦い方と、未踏領域にソロで率先して挑むスタイル、あとは木の上を飛んだり跳ねたりしているところをよく目撃されて付けられた二つ名よ」
「よく新素材見つけて掲示板を賑わせてるんだよね〜」
「その同類かよ…」
ユズの言葉に頷く周りが何の同類で、それが共通認識なのだと雄弁に物語っていた。
アイアンソードしかり、派生属性しかり、魔術操作しかり、スキルカテゴリしかり、今回の魔法陣しかり、各々知っていること知らないことあれど、正規版からのプレイヤーが短期間で齎す情報量ではないと思っているらしい。
「これからは二人でもっと掲示板を賑わせていくっすよ!」
「あ、うん」
どこか嬉しそうに見えるかにかまだが、俺にはそんなつもりはないので、今後も是非一人で賑わせて行ってほしい。
とにかく、セシリアさんが言った通り、かにかまの戦闘スタイルは特徴的だ。
弓使いなのにほとんどインファイトに近い戦闘スタイル、近づいて、超至近距離からの速射。
レインが奥の手たる【魔法陣】スキル、の更に奥の手、奥の奥の手であった武技『設置』を使わなければいけない程には追い詰められた相手だったのだ。
「それで、レインちゃんがさっき使ってた…【魔法陣】スキルの武技『設置』ってなってるけど、これどういうものなの?」
「あ、それ自分も気になってたっす。あと一息ってところで苦し紛れだと思ってた土壁に分断されたまでは分かってるんすけど、そのあと背後が突然爆発して気づいたらやられてたんすよね」
まあ、初見殺しは成功したわけだし、仕様上次の相手にまで使える戦法ではないだろうし、言ってもいいかな。
「端的に言うと、接触発動型設置トラップかな。一定範囲内に魔術を設置できて、何かがその場所に触れると魔術が発動するっていう」
「まあ、そんなところか〜。見た目通りっちゃ通りだね」
ユズの言う通り、観戦者はどういう武技だったのか大凡見当はついているだろう。
セシリアさんも予想が正しいのか答え合わせとして聞いたんだろうし。
ただ、これには大きな欠点がある。
“見た目通り”
これが全てを表しているのだが、『設置』された魔術は、当たり前だが魔法陣という形で設置される為、あまりにも目立ち過ぎるのだ。
分かりやすく言うと、魔法陣が空中投影されているのだ。
魔法陣が透明にでもなってくれれば、使い勝手はいいんだろうけどな。
まあメリットとして、魔術が設置された後は他の魔術を発動できるので、さっきのレインみたく擬似同時発動も出来るんだけどな。
土壁で意識を逸らして、後ろからズドン的な感じで。
それに飽くまでも武技扱いなので、CTたる詠唱時間が無いのも大きなメリットだろう。
「見た目通りだったんすか?」
「あれは素直にレインが上手かったと褒めるしかないな」
「ぶい!」
普段あまり大きく感情をおもてに出さなそうなレインの嬉しそうなVサイン。
不覚にも可愛く見えたのは俺だけではないみたいだ。
ごほん。
観戦者が完全に近い予想をできたのは、観戦者だったからだ。
対戦者に初見で対応しろってのは、少しばかり酷というものだろうな。
超至近距離での攻防に加え、魔術が設置されていたかにかまの背後足元に意識を向けさせないレインの立ち回り、土壁で分断することにより自然に半歩後ろに下がらせつつトラップに掛けつつ、魔術での自損を回避する判断。
全てを知った上で観ていた俺からすれば、手放し拍手したくなるくらいには攻略組していたと思う。
俺には無理だな。
「お兄ちゃん!レインが可愛いからって引き抜きは駄目だよ!」
「しねぇよ…というか、ユズだって俺を勧誘してたじゃないか」
「私はいいんだよ、それにお兄ちゃんどこにも所属してないじゃん」
さいですか。
兎にも角にも、ベスト8のvs前衛神官、準決勝のvsかにかまと勝ち抜いて、次勝てば優勝だ。
前衛神官戦は、神官はいわゆるMND特化型なので対魔術という意味で天敵だった。
なんなら、次の対戦相手もかにかま以上にAGI型っぽいんだよ。
PvPにおいて、魔術特化の貧弱さときたら絶望的なのだと痛感させられるよな…
全方位、天敵だらけだ。
「それでレイン、勝算は?」
「五分、どれだけ時間を稼げるかが勝負」
「なるほど」
あれを使うわけか。
決勝まで上がってくる近接プレイヤー相手に、魔術特化プレイヤーがどれだけ時間を稼げるか。
これだけ初見殺しを重ねていれば嫌でも警戒されているはず。
その上で速攻かけてくるのは容易に想像できるからな。
「レインが勝つって信じてるからな!頑張れよ!」
「うん、頑張る」
「「「頑張れレイン!」」」
みんなそれぞれの言葉で応援の言葉を掛ける。
控え室に向かうレインの背中を見送りつつ心の中でもエールを送りながら、頭にはもう一つの不安要素がよぎっていた。
脳筋王女の一方的な賭けを気持ちよく突っぱねるためにも、是非レインには勝ってもらわないとな!
かにかまの戦闘スタイルは、火力無いバージョンのモソハソの弓を思い浮かべてもらえれば。




