40/日
レインが優勝するために【魔法陣】に求めるものは『一撃必殺』ではない。
戦闘職と呼ばれるプレイヤーの中で、PvPで最も不遇と言っても過言ではない『魔術士』。
現状この変わりようのない事実をどう塗り替え、己に有利な土俵に持ち込むか、それが【魔法陣】に求められる役割である。
「いっけぇ!レインー!!」
「そこだー!!」
闘技大会最終日。
ベスト16、準々決勝、準決勝、決勝の計十五試合が今日の日程だ。
他の本戦日と比べて試合数が少なく感じるが、会場は昨日観戦していた一番大きな大闘技場だけで行われるので、一会場としての試合数はそれほど大きな違いはない。
それに、他の闘技場や王都の街中の至る所でホログラム投影されているらしいので、今日は王都の様々な場所で盛り上がりを見せることだろう。
「ねね、お兄ちゃん、なんでレインは昨日みたいなオリジナル魔術使わないの?」
「そりゃ、相性的に雷魔術の方が便利だからな」
本日の二戦目。
レインにとってはベスト16の今日初戦の相手は、タワーシールドとフルプレートメイルで身を固めた大盾使いだった。
一見便利に思える魔改造魔術だが、実際はデメリットだってある。
『ファイアスフィア』『スクエアウォール』共に、自身の周囲を覆うという特性上、時間稼ぎにはもってこいだが、視界を塞いで敵を見失うという大きなデメリットがある。
アッシュ戦では、プレイヤーが誰も見たことのない魔術ということと、アッシュ自らが勢い余って火達磨になり冷静さを欠いたことで有利に立ち回ることが出来た。
しかし、グレンがやろうとしたように効果時間切れを狙われたり、火達磨覚悟で強行突破されれば終わりだ。
強行突破という観点から見れば、盾使いというのはこの上なく適役である。
「昨日使ったのはどっちも壁系魔術だし、防御特化相手に壁は必要ないだろ?」
「でも、まだ奥の手あるって言ってなかった?」
「あるけど使いどころってものがあるんだよ」
HPはスキルで補完してあるだろうし、物理防御のVITはもちろん、魔法防御のMNDもそれなり高いと予想できる。
ステータスはVITに特化させている可能性もあるが、物理防御のVITといっても魔法防御にも少なからず影響しているらしい。
有志による検証で判明している、とはレイン談だ。
重い装備を纏い、のっそのっそと近づこうとする大盾使いに対し、終始距離を取りながら雷魔術を筆頭に間断なく色取り取りの魔術で攻め立てるレイン。
魔改造魔術は便利だが、それ故に多くのMPが必要になる。
魔術士が対等以上に戦える数少ない相手が盾使いでもあるので、変に小細工するより、防御貫通性能のある雷魔術の方がよっぽど建設的なのだ。
「「MPvsHP?」」
「そんなところだな」
双子の双子らしいハモリに肯定しつつ、舞台上から視線は外さない。
レインが相手のHPを削り切るのが先か、盾使いが耐え切ってレインの下まで辿り着くのが先かの勝負。
常に確認できる両者のHPは、ピクリとも動いていないレインに対して、まるでフィールドボスのHPを見ているような気分にさせられる盾使いのHP。
こんなに魔術を浴びせられて三分の一と減らない相手さんのHPは、異常としか言いようがなかった。
防御が異常なのか、HPが異常なのか、その両方なのかはともかく。
「それにしても派手派手だねぇ」
「この大会で一番ファンタジーしてるよね!」
アイギスとアウラの会話だが、俺も同じ感想だった。
そもそもとして、魔術が飛び交うのが珍しいわけで、物理職にしても武技を使うタイミングなんてほとんどないのだ。
多彩な魔術が舞台を彩り、堅牢な盾も武技の光で応戦する。
武技の一つも発動されない試合もある中で、この試合はピカピカと派手で見栄えがしているのは間違いないだろう。
「あっ!?ブランの動きがまた止まったよ!」
「あの盾使い、ステはVIT特化型っぽいな」
ユズの言うように、相手の盾使いの足がたびたび止まっている。
思うように距離を詰められずイライラしているように見えた。
俺が言ったVIT特化型とは、盾使いの中でもステータスをVITに特化しているプレイスタイルのことだ。
盾使いには他にもVITとMNDのステ振りが半々のハイブリッド型や、武器スキルと盾術で攻防を両立させる騎士型などもある。
攻防を両立させる騎士型はともかく、ハイブリッド型の利点はMNDに振ることで魔術や状態異常に耐性を得られる点だ。
レインの隠し球だった雷魔術の特性は、防御貫通と麻痺の状態異常。
盾使いの立ち止まる頻度から見ても、とてもMNDに振っているようには思えなかった。
「盾使いの中でも特に相性がいい相手だったかもな」
それから十五分、状況は大きく動くことはなかった。
距離を保ちつつ攻撃の手を緩めないレインと、何とか近づこうとする盾使い。
結局、その優位は覆ることがなくレインがHPを削り切り、レインの勝利で幕を閉じた。
時は流れ、ベスト16も最終試合。
今戦っているのは魔法剣士vs長槍使いだ。
純魔術師は少なくても、牽制に魔術を取り入れた所謂魔法剣士的な構成は、今大会でも割と見た構成である。
有効打を入れられると詠唱中断してしまう魔術は使いづらいとはいえ、当てられれば形勢を傾ける一打になり得るからな。
レイン以外では珍しいピカピカファンタジーをたびたび演出していたのが、魔法剣士たちだった。
果敢に攻め立てる長槍使いと、剣と盾で上手く捌いている魔法剣士。
合間を見て魔術でダメージを稼いでは、また耐えるの繰り返しで、他の試合よりもエフェクト的には派手だが、内容としては個人的に地味だと思ってしまう。
長槍使いも詠唱中断させたりと一進一退の攻防のようにも見えるが、いかんせん魔術は、他はともかくダメージソースとしては現状ティア1だと認めざるを得ない。
魔法剣士が魔術以外は守勢である以上、長槍の中距離アドバンテージも魔術には相性悪いのだと、素人目にも明らかだった。
実際にそのまま恙なく、この試合は魔法剣士勝利で終わりを迎えることになった。
ベスト16の試合はこれで終わりなので、一旦小休止を挟んでベスト8の試合を執り行うらしい。
「主人公vsモブはモブの勝ちか〜」
「何だそれ」
今の試合の感想なのだろうユズの言葉だが、何のことかさっぱり分からなかった。
「山田vsメビウスふぉ…ふぉ?なんちゃらってPNだから、掲示板で主人公vsモブ戦って言われてたんだよ、お兄さん」
「名前を覚えられない主人公とは…」
アウラ曰く、そういう事らしい。
面白可笑しいプレイヤーネームはMMOの伝統だろうから、色んな名前があっても不思議じゃないか。
こういう楽しみ方もアリなんだろうな。
そんな今の試合はともかく、個人的には一つ前の試合の、武闘家vs料理人は見ていて面白かったな。
ふくよかな体型の武闘家と、果物ナイフから中華包丁、マグロでも解体しそうな巨大な日本刀みたいな包丁まで曲芸のように扱う料理人。
軽率に見た目で判断しては駄目なのだとゲームで再認識させられるとはね。
多分料理系のスキルの効果なんだろうけど、どこから出してるのか次々と様々な包丁が牙を剥く中、舞う恵体はなんのそのと弾き、逸らし、躱し、反撃する。
派手なエフェクトは無くても、想像の二つくらい先を軽々飛び越えるような光景は、十二分に楽しませてくれた。
さて、と。
「じゃ、パパッと昼飯食べてくるか」
「そだね、みんなまた後で〜」
時刻は12時を少し過ぎたところ。
13時からベスト8の試合が始まるようなので、手早く昼飯を片付けて舞い戻ってくるとするか。




