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今日の日程としては、ベスト64とベスト32の試合が行われる。


計四十八試合だが、四会場に分かれるため、一会場で十二試合が執り行われることとなる。


その七試合目、目的の一つ目の試合だ。



「いけーっ、グレンーっ!!」


「グレン、頑張れーっ!!」



各所から応援の声が飛ぶ。


あいつ、本当にそれなりの知名度あったんだな。


少し驚いているのが本音だったりする。


しかもーー



「「「キャーーーッ、グレン様ーーーっ!!」」」



熱心なファンもいるらしい。


その黄色い声援に、当人は手を振りながらニコッ、と。



「ぷふっ…」


「「「キャーーーーーーーーッ!!!」」」



一層の歓声が巻き起こるが、俺はそれどころではない。


確かに顔はイケメンなのは認めるが、認めるが…



「ふふっ、な、なにあれ…ふ、ふふ」


「ほら、グレンってお人好しなところあるじゃん?あれは各所で天然発動した結果かな」



カシムさんの苦笑混じりの説明に妙に納得してしまった。


たしかに、あいつはそういうところがある。


本人に全くその気がないのは分かっているが、他人が困っていれば助けるし、そういう時は不安にさせないようにと常にイケメンスマイルだ。


グレンが極度のゲーマーじゃなければ、今頃彼女の一人や二人いたと断言できる。



「ほら、三ツ葉も昔はその一人だったんだよ」


「あ、カシム!余計なこと言わないでよ、もうっ!」



へぇ〜、そりゃ意外だ。


いや、何をもって意外なのか俺にも分からないが、『昔は』ってことは…



「若気の至りよ、過ちよ。どれだけアピールしても、うんともすんとも言わないし気づきもしない!少しして驚くほどあっさり冷めちゃったわ」


「なんて言うけど、今でも時々乙女見せるよね」


「ミカンまで!?」


「グレンの天然は場所選ばないからな」


「ですね」



ケンゾーとタロ助もグレンのその場面を思い出すように、言葉を漏らす。



「仲良さそうで安心しました」



ついそんな言葉が口を飛び出した。


悪友のパーティが、MMOにありがちな人間関係で揉めて険悪になったりしていないようで安心したのは偽らざる本音ではある。



「気の合う仲間と和気藹々って感じで少し羨ましいかも…俺もパーティメンバー探してみようかな」



ガタッ、と。


音が聞こえた方に顔を向ければ、見知った二人が立ち上がっていた。



「お、お兄ちゃん!今度クラン立ち上げようと思うんだけど!!」


「レン君!雑貨屋えびすはいつでも歓迎よ!」


「「えっ?」」



ユズとセシリアさんだった。


誘ってくれるのは嬉しいが…



「誘ってくれるのは嬉しいんですが、今すぐってつもりじゃなくて…すみません、セシリアさん」


「そう、ね。少し先走ってしまったみたいだわ」


「だから、ユズもごめん」


「ちぇ〜、気が変わったらいつでも言ってね!」



いきなりの展開で驚いたが、せっかく誘ってくれたのに無碍にして申し訳ないが、まだもう少しソロで自由気ままにやっていきたいのだ。


それに、パーティは気の合う仲間というイメージだが、クランは目的を一緒にした集団というイメージがある。


クランは人数が多い分、多かれ少なかれ行動に制限が掛かることは間違いないからな。



『決まったーーーっ!!終始怒涛の攻めで相手にペースを掴ませなかったグレン選手の勝利です!!』


「「「あっ」」」



そこにいた多くの者の声が重なった。


ものの数分で終わらせるとは、グレンってばなかなか強いんだな!!


グレンに何か言われた時はこんな風に誤魔化そうと、思考を巡らせることを強要された瞬間だった。






本日、この闘技場での第八試合。


正午から始まった闘技大会も、二時間が過ぎようとしていた。


第八試合は、ベスト64の最終試合であり、レインの試合でもある。


周囲を観客席に囲まれた円形舞台の上には、レインの他に二人。


短剣を両手に構えた男と、審判の男だ。



『ベスト64最終試合!ベスト32最後の一枠を争うのは〜…アッシュvsレインだぁぁぁあ!!!』


「ここまでは何とか勝ち上がってきたけど、そろそろ厳しいかなぁ」


「相手がアッシュって相性最悪だよね」


「アッシュってどんなプレイヤーなんだ?」



アイギスとアウラが、相手を知っている風な会話をしていたので聞いてみた。



「アッシュは一言で言えば回避盾かな。なんでも熟すユズと違って、完全な回避特化だね」


「それがどう相性と関わってくるんだ?」



魔術が当たらないって話なら、そもそも対魔術士戦法が魔術が発動する前に速攻なのだから、そこで相性と言われても疑問を覚える。



「お兄ちゃん、回避特化ってことは、移動系のスキルを揃えてるってことなんだよ」


「アッシュは格好つけてるけど速い、ニンニン」


「アッシュは格好つけてるけど強い、ニンニン」



ま、まあ、いろんな意見はあるけど、アッシュは攻略組が認める強さってことかな!



「それに例のスキルを見つけたのもアッシュなんだよね」


「例のスキル?」



俺の疑問の声と重なるように、審判によって開始の合図がされた。



『アッシュ選手、開始早々に疾走!!魔術士戦のセオリー的な戦法です!』



きっと多くの観客が見飽きているだろう、対魔術士用の戦法。


“魔術士が魔術を使う前に倒してしまえ”


シンプルゆえに強い。


そんなアッシュと対峙するレインは、慌てることなく地を蹴って後退。


アッシュの方が速いのは疑いようがないが、立ち止まるよりはマシだろう。



『対してレイン選手は…あれは火魔術でしょうか!?なにやら詠唱をしているようですが、間に合うのかぁ!?』


「秘策があるって聞いたけど、お兄ちゃんも知ってるんでしょ?」


「知ってるというか…」



俺は作戦自体は知らない。


レインは昨日までの二日、魔改造魔術は使わずに、持ち前のPSだけで勝ち上がってきたらしい。


出来るだけ奥の手は隠しておくべきだとか言っていたが、それが出来る時点ですごいと思った。


俺がしたことといえば、レインに言われるままに魔改造魔術を作ったことくらいだ。


その点で言えば、俺が作った魔改造火魔術は二つ。


状況的にあっちだろうな、という予想はできるが、なんとも言えないのが事実だった。



『もう互いの距離は十メートルも、おおっとぉ!?アッシュ選手消えぇええ!?消えたと思われたアッシュ選手、突然レイン選手の背後に現れたと思ったら、燃えているぅ!?』


「うっわ、やっぱりそっちか…レインえげつないな」


「な、なにあれ!?あんな魔術見たことないよ!?」


「おい、落ち着け!揺らすな、アホ!」



見たことのない魔術に興奮したように、俺の胸ぐらを掴んで揺らすユズ。


俺としては、アッシュが直前に使ったであろう瞬間移動したスキルが気になるが、それを聞く前に説明しないと収まりがつきそうにないな。



「あれは『ファイアスフィア』っていうレインオリジナルの火魔術だよ。炎の球体で自分を包んで守る魔術だ」



一見すると、巨大なファイアボールのように見えるが、アレの元魔術は『ファイアウォール』という壁系の魔術だ。


ウォール系の魔術は、魔改造によって形を変えることが出来た。


四角だったり、三角だったり、球体だったり、様々だ。


当然そこに突っ込めば、アッシュのように火達磨になる。


まあ、レインオリジナルというのは嘘っぱちだが、この情報を得たレインのこの後の対戦相手たちを少しでも混乱させられれば御の字だろう。



「聞いたことないよ、そんなの!あれが秘策なの!?」


「あれだけじゃないけどな。あれもそのうちの一つではある」



闘技大会というシステムは、現状の【魔法陣】スキルの欠点を補っていると言ってもいい。


まだ取得したばかりでレベルも上がっていない【魔法陣】は、魔改造できる魔術は一つだけだ。


だが、試合毎に魔改造魔術を変えることだってできる。


今回はファイアスフィアを使ったが、次の試合はウォーターボール(改)を使うといった風に。



勝ち上がれば勝ち上がるほど、相手に未知の選択肢を叩きつけるというのは、精神的優位を常に取れると言っても過言ではないと思うのだ。



『番狂わせだぁぁぁああ!!!レイン選手の見たことのない魔術を受けた混乱から立ち直る前にアッシュ選手がダウン!誰がこの結果を予想出来たでしょうか!?勝者、レイン選手です!!』



そりゃ、ほとんどのプレイヤーの中身はただの一般人だ。


圧倒的に優位だと思い込んでいたところに、突然火達磨にされれば、近づくのを躊躇しても不思議ではない。


是非この調子で勝ち進んでもらいたいな!



投稿前に試合数に関して修正したのですが、もし矛盾などあれば感想などで教えていただけると幸いです。

一応確認はしているのですが、確認漏れが心配で…

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