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36/土


ゴールデンウィークも残り二日の今日。


ML初イベントの闘技大会本戦も三日目となり、今日明日で終了となる。


闘技大会本戦はトーナメント戦だ。


王都セントラリスの各所で、試合が執られる。


セントラリスに四つある闘技場は言わずもがな、訓練場や、貴族の私設騎士団の練兵場まで、様々な場所で執り行われていた。


驚くことに、NPCも闘技大会に参加しているらしい。


俺が見落としていただけで、イベント概要にはきちんと説明書きがあったそうだ。


『らしい』というのは、本戦が始まって今日までの二日、俺は一試合足りとも観戦していないからだ。


ユズやレインにNPCが強い弱いと話を聞かされて、初めて知ったからな。


ちなみに、NPCは攻略組程ではないが、そこそこ強いそうだ。


プレイヤー層の厚い中堅どころと同じくらいの強さらしい。



「人、多いですねー」


「帰るか」


「ですねー」



俺が今日まで観戦に来なかったのは、単にこれが理由である。


初日のフィールドに匹敵する勢いの人混み、いやヒトゴミ。



「ダメだよお兄ちゃん!もう席確保してあるんだから!」



ぐいぐいと引っ張るユズ。


はぐれるわけにはいかないので、ミントの手を掴んで、流れに身を任せた。



辿り着いたのは、四つある闘技場のうち、一番大きな闘技場の最前列だった。


そこにはグレンのパーティメンバーや、セシリアさんなどが集まり陣取っていて、他にも見たことのあるプレイヤーもチラホラ。


雑貨屋えびすで買い物をしたときに見た顔かもしれない。



「おっ、その人がユズのお兄さん!?」


「そだよ〜」



そんな中、クラス内カーストがあれば上位に君臨してそうな金髪美少女が立ち上がって声を掛けてきた。


その言葉からわかるように、初対面だと思う。



「ん〜…」


「な、なんだ?」



不躾な視線を受けてたじろいでしまう。



「全然似てないね!ユズのお兄さんにしてはフツ面!」


「なっ!?」


「アハハッ、お兄ちゃんお父さん似だもんね〜」



本当のことなので怒ったりはしないが、少し失礼過ぎないか!?



「もうっ、本当のことでも言っていいことと悪いことがあるんだよ!?ユズちゃんのお兄さん、すみません!」


「フォローしているつもりで、さらに心を抉っていくスタイル〜」


「そこに痺れる憧れる〜」


もう何がなんだか分からないが、ひとつだけ。


俺のガラスハートは砕け散ってしまった…


少しして、置いていかれた流れにひと段落ついたところで、四人の少女たちをユズがパーティメンバーだと紹介してくれた。



「まずはパーティの頭脳にして司令塔、あと無礼担当のアウラ!」


「無礼担当で〜す、お兄さんよろしくね!」


「おいっ!いいのかそれで!」



今日は観戦ムードの為か、みんな装備を外しているのでどんな戦闘スタイルかは分からない。


一番初めに声を掛けてきたこの金髪美少女がアウラね。



「自称パーティのまとめ役のアイギス!」


「本当はまとめ役なんてしたくないんですぅ!」


「自称なんだ…」



アウラを嗜めつつ、俺に追撃をかましてきた少女がアイギス。


艶のある黒髪をお団子にした少女だ。



「そして、我らがパーティの双子担当!ミヅキとハヅキ!」


「「兄者、よろしく〜」」


「兄者?」


「「その方が忍者っぽいから」」


「あ、そう」



ミヅキは水色髪の右サイドテール、ハヅキは若葉色髪の左サイドテールだ。


双子というのを裏付けるように、髪の色以外は瓜二つで、ある日突然入れ替わっても気づけそうにない。



「あと私とレインを入れた六人で固定パーティ組んでるの」


「…随分と個性豊かだな」



そうなのだ。


レイン、ミントと三人で作業している中、ひょっこり現れたセシリアさんに、レインがユズのパーティメンバーだと聞かされた。


あのときは、レインと二人して驚かされたな。


セシリアさんの悪戯が成功した子供のような笑顔は今でも思い出せる。


それにしても、この姦しいメンバーにレインが混ざる姿が想像できない。


レインって、どちらかと言えば物静かなイメージがあるからかもしれない。



そのあと、突然始まった自己紹介タイムは、雑貨屋えびすのメンバーも巻き込み、本戦が始まるまでの暇な時間を潰していった。


今日一日で、フレンドリストがかなり埋まったと思う。



各々が雑談に興じる中、しばらくして開会の合図が為された。



『ーー今日も心躍るような沢山の試合を期待しています!』



という言葉で締め括られ、開会の挨拶が終えられた。


叫ぶわけでもなく、広い闘技場の隅々まで声が届いているということは、あれも魔道具なんだろうな。とマイク型拡声器を片手にしたお姫様を眺めて思う。



「嫌なものを見てしまった…」


「お兄ちゃん、テューラ様のこと知ってるの?」



俺の視線に気がついたのか、こちらに手を振る笑顔のお姫様のことなんて、知っていたくなかったのが本音である。


見てくれだけは一線を画す美しさであることは認めざるを得ないが、あのお姫様とだけは関わりたくないのだ。


今尚、誰かに手を振っているのは、俺の自意識過剰であってほしいと切に願う。



「いや、知りたくない」


「テューラ様、プレイヤー人気No.1なんですよ!可愛いですよね〜」



アイギスが急にテンションを上げるが、顔だけはいいので人気なのは頷ける。


俺も本性を知らなければ、今も王城でお世話になっていたかもな。



ML初イベント闘技大会の主催者テューラ・マールス・セントルムは、近接戦闘狂いの魔術士なのだ。


何を言っているのか分からないって?


心配するな、俺にも分からん。



ともかく、そんな戦闘狂お姫様の開会宣言により、四つの闘技場で試合が始まった。


昨日までの前二日は様々な場所で行われていたが、今日からは試合数が少なくなってきたこともあり、四会場に分かれて、明日はこの大闘技場でのみの開催となる。



『始まりました!最初に仕掛けたのはーー』



テューラ殿下と同じマイク型の拡声器を持った実況の男の声が会場中に広がる。


今日最初の試合は、全身を防具で固めた槍使いの男と、急所だけを守るような軽装備の弓使いの女だった。



「思ってたより地味だな」



弓使いの女は、的確に防御の薄い鎧の関節部や、目元首元などの隙間を射抜こうとする。


しかし、槍使いの男は関係ないとばかりに猛接近し、時に躱し、時に槍で打ち落とし、時に鎧で受け止め、豪快な戦術だと言えるだろう。


どちらもプレイヤー個々の身体技能の高さを窺わせ、俺だったら瞬殺されてしまうだろう攻防だが、前述の通り地味だった。



「そりゃ、PvPで迂闊に武技なんか使えば、その隙にやられちゃうからね」


「武技はモーションでバレやすいでござるよ、兄者」


「魔術と一緒でござるよ、兄者」



ユズと双子が俺の呟きを拾う。


まあ、言わんとすることは分かる。


剣術には『スラッシュ』『スラスト』という、基本になる武技が存在する。


この武技から派生したような武技も多く、基本の形と言えるかもしれない。


この『スラッシュ』『スラスト』だが、『スラッシュ』なら斬り払いの威力を、『スラスト』なら突きの威力を上げる、単純な武技である。


だが、武技を使うには若干の溜めのモーション(・・・・・・・・)が必要となり、僅かだが隙が生じるのだ。


加えて、武技によっては剣が光ったりもするので、知っていれば対処しやすくもなる。


それに、『スラッシュ』を例としてあげるが、『スラッシュ』は斬り払いの武技であるため、突き攻撃では発動しないという点も、相手の判断材料になってしまうだろう。



「でもやっぱり、観戦者の我儘だけど、闘技場って聞くと、少し派手なの期待しちゃわないか?」


「あっ、その話前にレインともしたな〜」



答えてくれたのはアウラ。



「自分が前衛職だと、どうしても同じ土俵に立って観ちゃうんだよね。今の踏み込みは半歩足りないとか、目線誘導上手い!とか」


「自分だったらあーしたこーしたって、自己投影しやすいってことか」


「そんな感じ!」



少し違うかもしれないが、スポーツ観戦でルールを知っていた方が面白い、みたいなやつに似た感じかな?


話を聞いてなお、武技エフェクトが飛び散る見応えのある試合を期待したが…


終始決定打を見出せなかった弓使いが槍使いの接近を許してしまい、最後の最後で、弓使いが悪足掻き気味に武技を発動しようとしたが、発動モーションの隙に猛攻を受けて敗北してしまった。


やはり、近づかれると劣勢を強いられる後衛は不利なんだな。


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