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35/火/水



「スクロールは無理だけど、その副産物なら強力な武器になるかもしれない」



そう切り出したのは俺だった。


今は昨日みたく訓練場に来て、案山子と正対している。


昨日と違うのは、背後にセシリアさんとレインがいることだけだ。



「『ウォーターボール(改二)』!」



詠唱を終えた杖の先から、同時(・・)に三つの水の球が飛び出す。


放たれた水の球は軌道を変えずに着弾。


案山子の顔に一つ、胴体に二つ直撃し、ダメージ数を三連続で表示させた。


この『ウォーターボール(改二)』は、元々魔改造してあった魔法陣を消して、二人に分かりやすいように組み替えた三連射ウォーターボールだ。


元のやつはスクショしてあるし、されてなくても直ぐに同じものに魔改造出来るので、心配することはない。



「これなら使えそうじゃないか?」



ニヤリ、とレインに向けて言う俺。


少しして、きっと似合っていないその行動に羞恥に悶えそうになったが、ポーカーフェイスを貫いた。


ポーカーフェイス出来てるよな?



「すごい!」



レインの驚嘆した顔が見ることができて、少し溜飲が下がるように思う。


ただいつもの如く、セシリアさんが思案顔なのは気になったが。






翌日。


今日は闘技大会の予選最終日ということもあって慌ただしい一日になりそうだった。


慌ただしいと言っても、予選レート戦のラストスパートが、ということではない。


そもそも俺は今日まで一度も参加してないわけだし、レインは昨日までに本戦確実なくらいには高レート帯に位置しているらしい。



「おっす、よろしくー」


「ミント、今日は頑張る」



レインと話しているのは、前に二度会ったことのある気怠げな少女だ。


昨日のうちに自己紹介も終わらせており、PNはミント。


俺が今も愛用している杖の製作者でもある彼女は、【木工】専門の生産プレイヤーである。



「はい、頼まれてた木板ー」


「おう、ありがと」



ここは、クラン【雑貨屋えびす】のクラン拠点(ホーム)の一室。


王都の貴族街に位置する屋敷は、ある特別なクエストの報酬として手に入れたものだとか。


クランは、正規の手段で王都セントルムに辿り着けば誰でも立ち上げられる為、大小関係なく乱立しているのが現状だ。


そんな中で、【雑貨屋えびす】はかなり有名なクランだと言えた。



「それが秘策?」


「そ。これに、【模写】!」



ミントが用意してくれた木板に、新たに取得した【模写】スキルを使い、懐かしの失敗作[深緑のインク]を消費して、魔法陣を描く。


紙以外でも描ける大きさの物とインクさえあればスキルで一瞬で模写してくれる優れものだ。


瓶の中の液体が光になって消え、木板に浮かび上がるように現れる魔法陣は、なかなかにファンタジーしているな。


余談だが、【模写】スキルはスキルレベルが存在しないスキルだった。


効果がこれだけで、成長しないスキルってことなのかもしれないが、こういうスキルがあるのかと驚かされてしまったよ。


閑話休題。



「おぉ〜」



パチパチと小さな手で拍手するレインは何とも可愛らしい。


昨日今日で、印象を二転三転させてくるレインに苦笑してしまいそうだ。



「これを紋様通りに削って欲しいんだけど、出来そう?」


「なるほどー、下書きあるなら簡単だよー」


「じゃ、どんどん作るからよろしく!」


「任されたー」



これは初めてスクロールを完成させた日に、師匠が呆れながら見せてくれたアイテムだった。


木板に魔法陣が彫り込んであるだけのアイテム。


特に効果があるわけでもないアイテムだが、その真価は魔法陣を構成する(みぞ)をなぞるだけで【魔法陣】スキルを取得可能にするというところにあった。


【魔法陣】スキル発現条件は、自らの手で魔法陣を描くこと。


魔法陣の種類も、描く手段も関係ないのだと、師匠は言っていた。


つまり、スクロールなんぞ作らずとも、魔法陣が刻まれた木板をなぞるだけで、【魔法陣】スキルは取得可能になるし、保存される魔法陣の種類を増やせるのだ。



「レインは、ミントが作った木板にこの羽根ペンとインクでなぞってくれ。ただ、はみ出さないようにだけ注意な」


「了解」



このレイン強化強行策が滞りなく実行されている現状だが、実は二つの問題を越えて、今に至っている。


俺のアドバンテージどうこうというのは、問題ではない。


よく考えると、曲がりなりにも魔術士の優勝を願っていた俺だが、レインの優勝でもそれが叶うと判断した。


それに、グレンは自分で努力して勝ち取ろうとしていたのに、それを右から左に流すような態度を取っただけの俺を思い出したのもある。


自分で戦うつもりは今でも毛頭ないが、一助くらいして、魔術士は不利だと信じて疑わない奴らを見返してやろうと思い直したのだ。


ともかく、二つあった問題のうちの一つは、同席していたセシリアさんがミントを紹介してくれたことで解決した。


秘密を守れる木工職がいないと、確実にこの計画は頓挫していたからな。


そしてもう一つ。



「できた」


「どうだ?取得可能欄に【魔法陣】ってスキルがないか?」


「おー、私もありますよー」



当然、ミントにも発現していた。


描く媒体は、木板でも紙でも問題ないし、ペンで描こうと、彫刻刀で刻もうと関係ないからな。



「ある。SP温存していてよかった」


「いやぁ、一番のネックだったけど、レインに計画性があってよかったよ」



そう、もう一つの問題とは、レインに【魔法陣】を取得できるだけのSPが残っているかどうかだった。


俺の場合は称号効果でSP1消費だけで済んだが、通常はSP5が必要という重いコスト問題が降り掛かるのだ。


スキルを取りすぎると熟練度が分散し、成長速度が遅くなってしまうのは、周知の事実でもある。


なので、レインはβ時代の経験から、育てるべきスキルの優先順位を決めているらしく、必要なスキルを一定まで育ててから、他スキルの取得・育成をしようと計画していたらしい。


やはり、レインは豪運の持ち主なのではと疑ってしまうな。


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