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戻ってきた。


時刻は午後十九時。


今日の夕飯の時間は少し早かったが、夕飯の時間はユズに合わせているのだ。


PvP漬けのユズと違って、俺は時間に余裕しかないからな。


そのユズも本戦出場は目指してないらしく、なにやらパーティメンバーの特訓に付き合っているらしい。


まああいつの性格上、コンスタントにポイントを稼いだり維持しないといけないレート戦は向いていないのは頷けるな。



取り敢えず、ログアウトのために退出していた訓練場に再度戻る。


それで、映えある最初の魔改造魔術はーー



「やっぱ慣れ親しんでる『ウォーターボール』だよな!」



可もなく不可もない無難な選択だということは自分が一番わかっている。


しかし、しかしだ。


慣れるためにも、まずは無難な選択というのは正しいことのはずだ、うむ。


それに何より、基本属性の初期魔術のうち一つは、全部『◯◯ボール』なので、半分近い魔術が球であり、そこまで選択肢は多くないのだ。


で、肝心の『ウォーターボール』はどこが魔改造出来るかだが…


魔道具を操作して[不壊の案山子]なる的を設置する。


そしておもむろにーー



「『ウォーターボール』!」



杖の先から打ち出された拳大ほどの水の球は、少し逸れた軌道から一度方向転換をして、着弾した。


案山子の上に『12!』という数字が浮かび上がった。


ダメージ算出機能はありがたい。



これが現状のウォーターボールという魔術である。


これは『ファイアボール』でも『ウィンドボール』でも『ライトボール』でも同じ結果になるだろう。



「これを踏まえて、どう魔改造するかだけど」



『ウォーターボール』は、水の球の数、MP消費量、MP保有量を変えることができた。


まあ、初期の魔術だしこんなところだろう。



それで、この魔改造で期待するのは威力と操作性の向上だろうか。


数を増やして、単純に手数を補うのもアリだが、それなら『ブランチニードル』を魔改造した方が良さそうだしな。


手数という点では、魔術スキルを考えなしに取得したことで一応の解決を見せているのもある。


それを言えば水じゃなくて火にすれば威力も同じでは、という疑問もあるだろうが、そこはそれ。


慣れ親しんだもので試すというコンセプトもあるのだ。



「まずはMP保有量、MP消費量をマックスまで上げてみるか」



魔法陣の中のMP保有量、消費量を表す文字の部分を書き換える。


書き換えると言っても、仮想ウィンドウの操作なので割とお手軽だ。


スクロールとは雲泥の差だな。


どうやら、両方とも50が限界のようだった。


この状態でーー



「『ウォーターボール』!」



A4紙に収まるほどだった魔法陣が、その大きさを四倍ほどに膨れ上がらせていた。

本来のMP消費が8だったことを考えると、MP消費と魔法陣の大きさは比例していないのだろう。


グングンと、実に四分の一のMPを吸い取った水の球は、バスケットボールほどの大きさになり、動かない案山子に向かって直線的に、剛速で飛来。


ダァンッ、と音を響かせながら直撃し、『80!』という数字を叩き出した。



「おぉ!!幸先いいじゃん!!」



本来のMP消費から考えると六倍のMP消費量だった。


それを踏まえても、80というのは好成績ではないだろうか。


ただ、ひとつ考えるべき点としては、軌道変更が出来なかった点だな。


これが何故なのか、実は理由は判明している。


注目すべき点は、何故MPに関しての項目が二つあるのか、というところだ。


MP保有量と、MP消費量。


MP保有量は『その魔法陣が保有するMPの総量のこと』で、MP消費量は『その増減で威力・速度などを調整する』ものだ。


その“保有しているMPから消費する”という関係上、MP保有量はMP消費量より少なくは出来ない、という決まりがある。


問題はーー



「MP保有量が多くて、MP消費量が少ない時、無駄にMPを消費してるってことだよな」


これに尽きる。


実際、本来の『ウォーターボール』のMP消費量は5だが、魔法陣に定義されているMP保有量が8のせいで、発動する際にMP8を持っていかれる。


どういうことかというと、MP5の威力しかないのに、MP8消費されているということだな。


その余分に持っていかれているMP3がどこに持っていかれているか。



今度はMP消費量は5、MP保有量は最大の50で魔法陣を組む。



「『ウォーターボール』!」



出来上がる魔法陣は、威力増し増しの魔法陣と同規模の大きさだった。


つまり魔法陣の大きさは、MP保有量によって決まるといえる。


それはともかく、新たに作り出された水の球は、本来の『ウォーターボール』と同じ拳大ほどの大きさだ。


しかしここからが違う。


明後日の方向に飛んでいった水の球は、カクッと方向を変え、またカクッと方向を変える。



カクッ…カクッ、カクッ…カクカクッ、カクッーー



都合十五回軌道変更した水の球は地面に激突して霧散した。



「ふむ、ちょうど十五回か。こっちは分かりやすくていいな」



つまり余剰分のMPは、一回が限度だと思われていた軌道変更の回数上限を増やしてくれるのだ。


今の結果から言って『ウォーターボール』の場合は、“余剰MP3”につき“一回”の軌道変更ということだな。


今のは余剰MPが45あったから、十五回の軌道変更が出来た。



それを理解した上で、どこに落とし所を持ってくるか…


検証しながら決めるかーー






ーー結論。


色々と試した結果、威力を捨てて操作性全振りにすることにした。


新しく『ウォーターボール(改)』と名付けたこの魔術のMP保有量は20に抑えた。


理由は一つで、最大の50だと単純にコストが重いからだ。


そして、威力を犠牲にした理由は、数を増やさなかった理由と同じで、威力を求めるならやっぱり火属性魔術を改造した方がいいと思った。


魔術は属性ごとに特色があって、威力が最も高いのが火属性だからな。


そして最も大きな理由としてーー



「『ウォーターボール(改)』!」



本来のものと変わらない大きさの水の球が放たれ、カクッ、カクッと方向を変える中、新たな赤い魔法陣が杖の先に浮かびーー



「『ファイアボール』!」



新たに現れた火の球はまっすぐ飛来し、水の球と同時に案山子を挟撃。


案山子の頭上には『11!』『13!』と表示された。


そう、『ウォーターボール(改)』の操作中に、別の魔術が発動できたのだ。


手元から離れた魔術が発動後判定を貰っているのかどうなのか、詳しくは分からない。


だが、別の魔術が発動できるようになるタイミングは、魔術を発動して手元から離れたタイミングという事実さえあれば、それでいいだろう。


これが出来るのなら、充分な手札となり得る。


発動までタイムロスのないスクロールと組み合わせれば、完璧とはいかないまでも、魔術士の弱点を少しは克服できると思うのだ。



ひとまずの成功に安堵を覚え、確かな達成感と満足感を胸にログアウトした。



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