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30/金



「つまりさ、下馬評通りなんてつまらないと思うわけよ」



金曜日の放課後、まだ教室にはそこそこの人数が残っていた。


俺たちのように雑談に興じる者もいれば、ガムシャラに課題に向き合う者、長期休暇直前で諸々雑務を押し付けられた日直などなど。


その人数が普段より多いことだけは確かだった。


そしてそこに混じる俺たちが話しているのは、明日から始まるMLの初イベントについてだ。


トモ曰く、掲示板では優勝予想スレなるものが新たに立てられており、日夜喧々轟々と議論されているという。



「で、トモは何位予想されてるんだ?」


「うぐっ」



大体初イベントの優勝予想なんて、どれだけ有名なプレイヤーであるかどうかだ。


スキルの優遇不遇なんてのも掲示板の議論の的ではあるが、結局は知名度ありきの予想でしかないのだ。


その証拠に、上がる名前のほとんどがβテスターだと言うし、正式リリースからスタートしたプレイヤーは数えるほどしか名前が上がっていないのだという。



「ギリギリでベスト16入るかどうかって…」


「まあトモがベスト16でも、きっと無名プレイヤーが優勝かっさらってくれるさ」



プレイヤー人口何万ってゲームでベスト16は誇れると思うが、本人的には納得出来ないらしい。


それに下馬評通りがつまらないなら、無名の新人プレイヤーが勝利を掻っ攫ったところで、トモの目的は果たされているといえよう。



「投げやりやめろ!」


「そりゃ、朝から同じ話されればこうなるに決まってるだろ…」



正直ゲンナリしていた。


正確に言うと、一昨日あたりから燻ってたのが、いよいよ今日になって爆発したのだが、どっちにしろそろそろ面倒になってきたところだ。



「ってか、本当にイベントやらないのか?」


「いきなりだな。まあ、もう決めてたことだしな」



昨日までの四日間は、資金集めと材料調達、下準備に奔走していた。


もし、少しでもイベントに参加する意思があったのなら、もう少しレベリングなりに精力的に取り組むべきだっただろう。


闘技大会の予選であるレート戦は、王都セントラリスにある闘技場にて、自動マッチング方式で個別空間に飛ばされ行われる。


設定としては、護国獣様によってウンタラカンタラだそうだが、正直あまり興味がないので読み飛ばした感は否めない。


強いて言えば、護国獣の蛇は空間属性持ちかな?程度だ。


なので、俺は本戦が始まるまで、なんなら本戦がある程度進むまでは王都に近寄らないことを決意しているのだ。



「魔術士は職格差が厳しいから、もし仮に本戦に出れても即負ける未来しか想像出来ないんだよ」



別に魔術が不遇というわけではない。


魔術は、他の攻撃手段に比べれば火力は随一だし、状況さえ整えれば一方的な勝負になるだろう。


その一方で、近づかれれば無力だ。


魔術は詠唱中に攻撃が擦りでもして少し意識が逸れるだけで中断されるので、当然前衛は速攻を狙ってくるし、同じ後衛の弓使いにはよほど不利な状況に追い込まれることだろう。


唯一、防具でガチガチに固めた盾職相手とは渡り合えるかもしれないが、それでも有利かと言われれば返答に窮する。


通常攻撃がないという差は、どうしようもなく大きな溝になっていた。



「それこそ下馬評を崩して、魔術士が優勝かっさらってくれたら面白いかもな」


「純粋な魔術士って少ないからなぁ。ま、いても俺が倒すし!」



MLは、職業システムはなく、スキル構成やプレイスタイルから、なんとなく自称しているに過ぎない。


なので、剣士が魔術を使うこともあれば、武芸百般なんてことも可能ではある。


だが、スキルの数によって熟練度上昇率が低減されるというのは公式発表であり、だからこそスキルには『控え』という要素が存在している。


使わないスキルを『控え』に回すと、そのスキルが成長しない代わりに、他スキルの成長の阻害もしなくなるのだ。


魔術士というのは、守ってくれる盾役がいて初めて真価を発揮する職業だと個人的に思っている。


なので、今回のイベントで活躍する魔術師がいるとすれば、圧倒的なPSの持ち主か、他の戦闘スキルとのハイブリッド型というのが俺の予想だな。



「おう、頑張れ」


「なんか釈然としない…」


「心の底から応援してるぞ。さて、そろそろ帰るか」



今日のMLは、初イベントを控えたアプデが明日の朝まであり、一日ログイン出来ない。


イベントには参加せずとも、ML漬けは決定しているのだ。


一週間は食料を気にせずに済むように、スーパーでたくさん買い込んで帰らないとな。



最寄り駅でトモと別れ、柚子と合流する。


俺が今の高校に進学することを決めたのは、部活が強制ではなかったことと、家から近いこと、この二つが決め手だった。


ただ、家から近いと言っても、電車通学なのでそこそこの時間は必要だが。



「お昼はカップ麺でいいとして〜…うーむ、夜は悩みどころだね!」


「朝もしっかり食べろよ?」



と、どさどさとカップ麺をカゴに入れる我が妹に忠言する。


こいつ、さっきまで朝昼は抜くつもりでいたのだ。


もはや、栄養に関しては言うまい。


その寂しい絶壁が飛び出すことは永遠にないだろうがな。



「心配しなくても高校生になればボンッキュッボンッなんだから!」


「無理しなくてもいいんだぞ?」


「死ね!」



柚子にしては珍しい暴言だな。


普通に思考読まれたし、柚子も成長しているってことかな。


皮肉ではないぞ?



「ふんっ、じゃあ私の日は肉にする!肉食べれば育つし、焼くだけで早いし、簡単で美味い!」


「そうだな…だったら今日くらいは鍋とかにするか?明日からはそんなメニューばかりだろうし」


「おぉ〜。もつ鍋、もつ鍋がいい!」



今日の夕飯はもつ鍋で決定だな。


ゴールデンウィークに向けて、英気を存分に養うとしよう。

その他にも、朝食のコーンフレークや調理パン、ジュースやお菓子などで山盛りにし、買い物を終えた。


静かにカゴに追加された牛乳については何も言うまい。


肩に学生鞄を掛け、柚子と二人でパンパンになったエコバックを持つ。


流石に買い過ぎたと若干後悔しながら柚子と会話に興じる。



「へぇ〜、トモ先輩そんなこと言ってたんだ」


「俺はトモよりも新進気鋭の純然たる魔術士に勝ってほしいけどな」



別にトモのことを応援してないわけじゃないが、せっかく見に行くんだったら、プレイスタイルが似ているプレイヤーが居てくれると嬉しいのは本音だ。


ガチガチの戦闘系プレイヤーのPvP、勝ち上がるプレイヤーを見て学ぶことは多いと思うからな。


まあ、引き篭もる気満々なのだが、気が向いたら一日くらい初イベントの空気を味わうのも悪くはないと思う。



「ああ、今回は魔術士は難しいかもだよ」


「え、やっぱりそうなのか!?」



魔術士はやはり領分じゃないということだろうか…



「新しいスキルが見つかっちゃったんだよね〜。対魔術士テンプレみたいなやつ」


「マジか…」


「まだ出回ってる情報じゃないけど、優勝は流石に厳しいかもね」



そもそもが不利なところに追い討ちとは、これは何者かの謀略か!?


いや、信じているぞ!まだ見ぬ新進気鋭のプレイヤー頑張れ!



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