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溶き卵、小麦粉、パン粉が、目の前のそれぞれのボウルに用意されている。


俺はそれに塩コショウで下味を付けた厚切りの豚ロースを順番に絡め、まぶし、満遍なく覆い、180℃の油に投入した。


その後に同じ手順でもう一枚を投入。


隣では柚子が、付け合わせのキャベツを千切りにしており、最近は包丁捌きも様になってきたと思う。


まあ、俺も人のことを言えるような技量じゃないけどな。


タイマーを6分にセットした俺は、手が空いたのでトンカツソースを作ることにした。


何というか、我が家でよく買う市販のトンカツソースは、あの有名な帯が薄茶色のやつなのだが、個人的に酸味が強くもう少しまろやかさが欲しいと思ってしまうのだ。



「えっと、味噌は…これしかなかったか。今度買っとかないとな」



前に通販で母さんが大量買いした、『お湯に入れるだけで簡単に味噌汁が出来る!!』という触れ込みのボトルに入った味噌しかなかった。


仕方ないので、この味噌と市販のトンカツソース、砂糖を少々入れて混ぜる。


混ぜ合わせたトンカツソースに白胡麻を入れればソースは完成だ。


それでもトンカツが揚がりきるまで時間が余ったので、ご飯をよそったり、飲み物を準備したりしているうちに、タイマーがなった。


狐色にこんがり揚がったそれを、油を切って包丁を入れる。



「うん、ちゃんと揚がってるな」


「はい、お皿」



揚がってることを確認して、柚子が用意してくれたキャベツの盛り付けられた皿に乗せた。


食生活の偏りがちな我が家には珍しく、生野菜が添えられた夕飯の完成である。



「「いただきまーす」」



時刻は二十時半。


珍しく遅めな夕飯で、俺も柚子も我先にとトンカツを頬張る。


サクッとした食感のあとに、肉厚な豚ロースが顔を出し、しっかりとした食べ応えがある一品に仕上がっていた。


まあ、自作のトンカツなんて最低限の味と食べ応えがあればいいと俺は思っているので、買ってきたのは安物のステーキ用の豚ロースだった。


なのでジューシーとは程遠いが、満足である。



「んぐっ。お兄ちゃん、聞いた?」


「なにを?」



主語のない会話は、兄妹であれ通じるときと通じないときがあることを理解してほしい。



「さっきワールドアナウンスあったじゃん。スキルカテゴリとソート機能の追加」


「ああ、あれね」



ジジババが説明してくれたあれのことか。


まあ、一度はシラを切ってみたけど、薄々は分かっていた話ではある。



「劇的な変化はないみたいだけど、プレイヤーの動向次第で機能解放って方が重要だよね!」


「まあ、言われてみればそうかもな」



今回解放された機能は、ステータス画面が整理されて見やすくなるくらいの恩恵しかなかったからな。


次ログインしたら、改めてステータスを確認してみるか。



「なんか反応薄くない?まさか…」


「何かに気づいたところ申し訳ないけど、そんなに新しい情報はないぞ?」



ヘルプで開示されていた情報がほとんど全てだ。


俺も一応ヘルプには目を通したが、『戦闘・生産・その他』や、もっと細かく『武器・魔術』のようにスキルがカテゴライズ化され、ソート機能で各々が見やすいように、好きなようにスキル画面をレイアウトできるという機能だった。


あと、その使い方が載っているくらいだな。



「ってことは、やっぱりお兄ちゃんが原因なんじゃん!」


「原因って…」



キャベツにゴマドレッシングを掛けながら、妹の言葉に若干嫌な顔をする。


トリガーは様々だろうが、この情報は近いうちに別のプレイヤーが発見しておかしくない類のものだと思う。


MLはスキルが多くなりやすいゲーム性があるので、遅かれ早かれ無いと困る機能だからな。


今の時点で、最多所持スキル数は全てを初期スキルで揃えている場合の24であり、そんなプレイヤーのスキル画面はゴチャゴチャしていたことだろう。


まあ、スキルが派生したり進化すると予想されているので、その際に要求されるSPを考えれば、無駄にスキルを取得しているプレイヤーは少ないとは思うけどな。


SPの無駄遣いは致命的だ。



「お兄ちゃんってやらかしすぎだと思うんだよね!今回のこともそうだし、派生属性に、スクロールでしょ?あとは、今日の魔術操作もお兄ちゃんだし」


「言われてみれば…」



どれをとっても、いつかは発見されてた類の情報だと思うけどな。


それに、派生属性なんかは、意図的に隠しているプレイヤーもいそうだ。


その点で言えば、確実な俺発信の情報は、ワールドアナウンスがあったスクロールと、今回のスキルカテゴライズの二つだとも言える。


世界樹とかはまあ置いといて。



「…いやいや。そんなことより、まだプレイヤーが誰も知らないスキルカテゴライズ知りたくないか?」



無理矢理話を変えるために、そんな話題を持ち出した。


雰囲気を出すために若干声を潜める。



「うむ、よかろう。お兄ちゃんの分かりやすい策略に乗ってあげようじゃないか」


「何キャラだよ…」



他にもツッコミたいところはあるが、グッと我慢する。



「まあいいや。今のところ明かされていないカテゴライズは最低でも二つある」


「その心は?」


「その情報に辿り着いてるプレイヤーがいるなら、俺よりも早くカテゴライズ機能が追加されてただろうし、多分だけどそのカテゴライズの取得難易度がもの凄く高いからかな」



一つ目の理由はそのままの意味だ。


今回ワールドアナウンスがあったことが何よりの証明であり、それが今の今までなかったということは、プレイヤーはまだ到達できていない情報だという裏づけになる。


二つ目の理由は、俺の憶測だがあながち間違ってはいないと思う。


エクストラスキルなんて仰々しい名前なのはともかく、称号にまで影響する師匠の【終焉】、全てを見通すと言われるマーリン爺の【賢者】。


唯一無二という宰相の言葉を疑わないのなら、取得難易度が高いどころではなく、プレイヤーには取得できないスキルだということだ。



「ふむふむ、なるほどね。それでそのカテゴライズってのはどんなのなの?」


「俺が知っているのは、『ユニークスキル』と『EX(エクストラ)スキル』の二つ。カテゴリ名から分かる通り、両方特別なスキルばかりって話だ」


「それってどう違うの?」



ごもっともな意見だな。


ジジババの話を思い出しながら、例題を交えつつ説明する。



曰く、『ユニークスキル』とは特別なスキルのことだが、条件さえ満たせば誰であれ取得の可能性がある。


ただ、ユニークというカテゴライズから察せられる通り、NPCで所持しているのはごく一部。


曰く、例外も存在し、モンスターなどの種族固有スキルも『ユニークスキル』にカテゴライズされる。


曰く、『ユニークスキル』の代表的な例は【勇者】【魔王】【限界突破】などが有名。種族固有スキルとしては【飛行】【液状化】など。



曰く、『EXスキル』とは特別なのはユニークスキルと変わらないが、唯一無二のスキルであり、他スキルとは一線を画するスキル。


曰く、『EXスキル』で同名スキルを同じ時期に複数人が取得した例はない。


曰く、『EXスキル』の代表的な例は、マーリン爺の【賢者】、師匠の【終焉】。他にもあるが、数えるほどの数しか確認されていない。



という説明を終えると、柚子は開口一番。



「え!?マーリンってあのマーリン!?王家お抱え魔導士の!?」


「そこ?もっと聞くべきところあると思うんだけど」



よく分からないが、あの爺さんってやっぱり凄いNPCだったのか。


まあ、宰相と対等以上に話してたわけだし、名前マーリンだし、不思議ではない。



「まあ、柚子の言ってるマーリンなんじゃないか?会ったの、王城の応接室だし」


「え〜、もう王城入れてるの!?私も連れてって!」


「無茶言うなよ。俺も無理矢理連れてかれただけだから」



お互いトンカツを食べ終えたあとも情報交換(一方的)は続き、満足した柚子はMLへと戻っていった。


俺は色々ありすぎたし、今日はもういいかな。


ゴールデンウィーク中の課題でも進めておこう。


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