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プリムス平原を西の街道に沿って進んだ先。
街道を囲む雑木林が近づいてきた。
道中襲いかかってくるモンスターは、初日に俺が売り払ったアイアンソードに一閃されては藻屑となって消えてゆく。
さすが現時点でという注釈は付くが、カンストプレイヤーというところか。
経験値は一定の貢献をしていればパーティ内で等分されるのだが、レベリングという観点でみれば問題アリだ。
だが、パッシブだったり、こっちに気がついてないモンスターには、最初の一撃を入れさせてもらうという、なんとも卑怯なパワーレベリングが横行してるので、気にすることもないな。
まあ、スキル熟練度は最初の一撃だけではあまり取得できないので、デメリットを挙げるとするならコレくらいだろう。
「そうなんですよ!炎ぞうったら可愛くて!」
名前はちっとも可愛くないけどな!
ちなみに炎ぞうってのは、俺が誤射しかけたホーンラビットに付けられた名前だ。
曰く、可愛さは天元突破しているので、渋さとか格好良さを身につけて欲しくて名付けたのだそうな。
炎ってのも、将来炎を纏ったらどうとか力説された。
名は体を表す、らしい。
右眼に斬り傷がある炎を纏う角兎なんて、可愛くもなんともないけどな!
「そうだねー」
「レンテさんは話がわかりますね!」
くそっ、押しつけられた!
たしかに、残りの三人は戦闘要員だろうけどさ!
セシリアさんは生産職って聞いてたけど、バリバリ戦闘も凄いけどさ!
少しくらいライラの話し相手変わってくれてもいいじゃん!
なんでこんなに延々と話せるんだよ…。
「ところで、話変わるんですけど」
「あ、うん。なに?」
こうやって聞く姿勢を見せるのがダメなんだろうか。
いや、でもキラキラした目で話しかけられると、返答しないわけにはいかないというか。
前に無視した前科あるし、それに前とは違って知り合いの妹とか逃げ場がないというか…。
「炎ぞうに攻撃したときのこと覚えてます?」
「あー、うん。当ててないけどね」
あのときは咄嗟だったけど、炎ぞう目掛けて放ったウォーターボールが当たる直前に、軌道を九十度変えられて事なきを得たんだよな。
魔術の軌道変更なんて、自分でやってて目を疑ったのでハッキリと覚えている。
「そう、そこなんですよ!水の球がこう、ギュンッ!って方向変えましたよね!あれってどうやったんです?」
「なにそれ、詳しく」
「うわっ!?」
びっっっくりしたぁ!!
突然、横合いからのユズの声に、みっともなく驚いてしまう。
「驚かせんなよ!」
「気配遮断は忍びの本懐だよ。それより、今の話詳しく」
絶対またやる気だな、こいつ!
再犯防止策を練っておかねば…。
「そんなこと言われても…」
なんとなく反射的に出来ただけなので、説明も何もないというか。
あれからスクロール作成の為に奔走してたせいもあって、戦闘する機会は皆無だったので検証なんてやっているわけもなく。
なので説明と検証の意味も込めて、美味しそうに草を食んでいるホーンラビットを実験台にすることにした。
ウサギの方へ身体を向け、杖を掲げる。
杖の照準はウサギより少し上方だ。
「『ウォーターボール』!」
狙い違わずウサギの上を飛び越えようとした水の球は──。
「「「えっ!?」」」
「おぉ〜」
パチパチと拍手する能天気娘をよそに、ウサギの頭上でカクッと直角に曲がった水の球は、ちゃっかり話を聞いていたグレン、セシリアさん共々、驚かせるに足りたようだった。
「『ブランチ…ユズ、トドメ頼む!」
「う、うん」
若干戸惑いを見せながらも、逆手に持った小太刀をウサギの首に寸分違わずクリーンヒット。
あぶねぇ、樹魔術使うところだった。
「ありがとう、ユズ。それで、説明って言われても、曲がれ!って思えば曲がるとしか…」
「感覚派ですね!」
これに関しては否定しづらいです。
「だから追尾ってわけではないかな。それに一回方向転換させたら、手元から離れる感じがする」
多分、二回三回と蛇行させるような軌道変更は無理だと思う。
予想でしかないが、通常攻撃のない魔術に許された対抗手段的な技ではないだろうか。
ただ、この操作が一回限定というのが、ウォーターボールだからなのか、すべての魔術に共通するのかは分からない。
もしかすると似た魔術で、もっと先で習得できるものだと、自由自在に操れる、なんてこともあるかもしれないな。
「次から次に新情報が出てくるなぁ。どうなってんの?」
「ひどい言い草だな。偶然が重なっただけだって」
多分、純然たる魔術士だったら気付いている人も多いと思う。
今ここには盾持ち片手剣士のグレン、両手持ちの大剣使いセシリアさん、くノ一もとい軽戦士ユズ、テイマーのライラしかいない。
先ほどやっとLV.2に上がったライラはともかく、他三人のスキル構成は知らないが──。
「おっ、ホントだ!これ、すっごい便利じゃん!お兄ちゃんナイス!」
知らないが、通常攻撃手段が近接な三人からすれば、気づかなくても不思議ではない。
βでは発見されなかったのかって疑問はあるけど、正式リリースから追加された可能性もあるし、気付いたプレイヤーがひた隠しにしていた可能性もあるので、なんとも言えないな。
ただ、そこら中のモンスターを標的に、ユズが火の球を乱舞させ始めるのは想定外だった。
「炎ぞう!あれ、あれを覚えて!」
え、テイムモンスターって見るだけでスキル覚えるの?
いやいや、まさかそんなわけ…。
ヤバイ、混沌としてきた。
くノ一は飛び跳ねながら炎と舞い、テイマーはウサギに無謀を押し付け、残りの前線組二人は何やら話し合っている。
あの、取り敢えず進まね?
町を出て、二時間ほど歩いたところで、小休止を取ることに。
場所は林の中のセーフティエリア。
セーフティエリアとは、半球体状の結界で守られている場所で、その中にモンスターは入ってこない。
文字通りの安全地帯だ。
MLでは町と町との間がかなり離れているので、フィールドにはセーフティエリアが結構設けられている、とはグレン談。
あまりにも人の手が入っていないような辺境だと、無い場合もあるみたいだけどな。
第二の町であるグレディですら、まだそこそこ離れているようで、道程の半分ほどらしい。
プリムスからなかなか人が減らない理由の一つかもな。
「この林を超えたらグレディだったっけ?」
「だな。ボスはどうする?」
どうするってのは、ボス戦するか、素通りするかってことだよな。
MLはそこが未踏破の場合のみ、ボス戦は強制というシステムらしい。
未踏破というのは、個人ではなく全プレイヤー視点の話で、踏破済みエリアのボスは基本選択式なのだとか。
なので、今回でいえば素通りも可能なのだ。
「疲れたし──」
「勿論、参加しますよ!後ろで見てるだけなんてつまらないじゃないですか!ねえ、レンテさん!」
「はぁ…そうだね」
俺はこんなにも疲れているのに、君は何故そんなに元気なんだ…。
しかもライラの中では、ボス戦は確定事項みたいだ。
明らかに話し方が、後ろで待機しておくか、戦闘に参加するか、の二択しか見えていない。
まあ、初めてのボス戦がトッププレイヤーの引率ありの安全マージン増し増しなんて他ではないだろうから、慣れる意味でも損はないだろう。
経験値も美味しいだろうし。
「む…なにやら疲れた顔してますね。炎ぞう貸してあげましょうか?」
「…借りようかな」
おぉ、モフモフ〜。
テイマーありかも…。
※済




