23/日
翌日、朝十時。
魔法陣を覚えたことでテンション爆上がり、正確に言えば、スクロール作成で超疲労していた俺の精神は徹夜明けテンションみたくなっていたことで、師匠に少し休んで来いと無理矢理家を追い出されたのが、昨日のその後である。
そして、夕飯の時間も迫っていたこともあり一時的にログアウトしたのだが、戻ってみると師匠の家の中にとある書き置きがあった。
『少し所用で家を空ける。しばらく戻ってこないが、自主鍛錬は怠るなよ!PS:用事があるときはこちらから行くので、どこへでも好きに旅に行け』
というのが、もう少し長めの文章で書き綴られていた。
「たしか西門前だったけな」
なので昨日の時点では、しばらくはレベリングでもしつつ、魔法陣スキルとイチャコラしようと考えていた。
実際に昨日の残り時間は、日付が変わるのも気にせず魔法陣で遊びつくしたしな。
いやぁ、時間かけた割には大した進捗はなかったけど、魔改造って楽しいな!!
「もっと魔法陣の本なり、スクショなり集めないとな」
一応、図書館で見た魔術関連の本に描かれていた魔法陣は全てスクショしてある。
今思えば、あの本は転写なり複写なりを使って作り上げられたものなんだろうけど、低レベル帯の魔術とはいえ、かなりの手間だろうな。
そして、魔法陣魔改造のシステムだが──。
「おっ、お兄ちゃんだ!…本当に初期装備同然なんだね!」
「うっせ」
西門前に到着してしまった。
そこに待っていたのは、忍者?くノ一?装束に身を包んだ柚子だった。
PNはそのままユズ。
なんとなく解釈一致のようにも感じる装備だが、アバターの容貌は現実と変わらず贔屓目に見ずとも美少女だ。
まあMLはそもそも、自由無制限に弄れる髪型と、色彩変更、ワンポイントの刺繍や傷跡以外のキャラメイクは不可能なので、おかしなところはないといえる。
「あとの三人は?」
「もうすぐ来ると思うよ。さっき迷子探しに行ったから」
「迷子?」
昨日の時点では、今日も魔法陣と戯れる予定だったのだ。
しかし今朝、現実でグレンから電話が掛かってきて、『一昨日の詫びも兼ねて、一緒にレベリング兼宿場町グレディを目指さないか?』と提案された。
グレンも色々考えての提案だろうし、謝罪を断るようでつっぱねるのも悪いし、なにより俺にとってはありがたい限りなので、提案を快諾したのだ。
しかし、ユズ以外のメンバーは聞いていない。
全部で五人と言っていたが、誰を連れてくるつもりだろうか。
順当に考えて、グレンのパーティメンバーだと思ってたが、トッププレイヤーに名を連ねるような連中が迷子になるか?
「ねー、フレンド登録しとこうよ!」
「そういえば、してなかったな」
ゲーム外でもIDを打ち込めばフレンドになれるのだが、IDってめちゃくちゃ長いんだよ…。
なっがいプレイヤーIDで判別してるからこそ、PN被りで使えたりするのだが、それでも長い。
それを打つのを嫌ってユズがML内であったときに、ということで今までフレンドではなかったのだ。
そうこうしているうちに、グレンがやってきた。
セシリアさんと、ピンク色の髪をした──。
何故こうなるのか…。
「おう、レン来て──」
「あぁ!?あの時の!!」
「──たか。え、また知り合いなのか?」
「知り合いってより、混雑の中で肩ぶつけたような感じ?」
こういう再会の仕方をするなら事前に言ってくれれば、もっと誠実な対応を心掛けたというのに…。
運命の神様呪う。
このピンクボブちゃんはあれだ。
初レベリングした時に、誤射しそうになったテイムモンスターの所有プレイヤーだった気がする。
記憶違いじゃなければ。
「なんだそれ」
「その節はどうも」
「私まだ許してないですからね!!」
えー、あの時解決したじゃん…。
許してないって、多分テイムモンスターに攻撃しそうになったことだよな?
そもそも当ててないし…。
「何度声掛けても無視してログアウトしちゃって…めっちゃ傷ついたんですから!ブロークンハートですよ!」
「ブロークンハートて…」
失恋とかそんな意味合いじゃなかったっけ?
そりゃ、直訳すれば意味も変わるんだろうけど、大声でそんなこと叫ばないでほしい。
「そもそもなんで無視されても声掛け続けたの?」
おぉ、ナイスフォローだ、ユズ!
あんな街中にまで追って来られると、こっちも怖かったからな。
「うーん…なんでと言われるとパーティへの勧誘ですかね?あの時の私は、拾われては捨てられて、拾われては捨てられてを繰り返していたので!」
「やっぱり地雷だった…」
「やっぱりってなんですかぁ!!もぉ!!」
つい口が滑ってしまった。
憤慨するピンクボブちゃんをセシリアさんが抑えてくれる。
まあ、意味は違えど、あのときは問答になるのを嫌って避けたからな。
地雷だったと分かった今からすれば、あの判断は間違っていなかったというわけだ。
この状況を考えれば、間違えてた可能性もあるが…。
「まあいいです!これ以上引きずっても過去は変わらないので!」
「俺が言うのも何だけど、切り替え早過ぎじゃない?」
「あはは…この子昔からこうなのよ。慣れた方が疲れないわよ?」
昔から、ってことは現実でも知り合いなのかな?
まあ、現実の詮索はご法度だから聞かないけど。
「この子はライラ。私の妹なの、よろしくしてあげてね」
「ライラです!迷惑かけます、よろしくです!」
うわぁ、きっとこれ額面通りの言葉だぞ。
向こうが言い出すまで、フレンド登録は先送りだな!
早速疑問は解消されたけど、割とどうでもよくなるくらい関わるのを避けたい気分だ。
「レンテです」
「ふむふむ、レンテさんですね!では、行きましょー!」
「おー」
おい、乗るんじゃない妹よ!
「いや、待ってほしい」
「なんですかレンテさん。時間は有限なんですよ、知ってます?」
イラッ。
だが、そんな感情を面には出さないようにしつつ、グレンに説明を要求する。
「わかったわかった、説明するから睨むなって!」
グレンの説明によると、こうだ。
曰く、一昨日の詫びをどうするか考えた結果が今朝の電話内容だったこと。
曰く、グレンのパーティメンバーはいきなりで都合がつかず、ならばと俺とグレンの共通の知り合いとして、ユズとセシリアさんが同行を快諾してくれたこと。
そして、何故かセシリアさんが説明を引き継ぎ──。
「ライラったら、まだプリムスでまともに戦闘も出来ていないって言うから、同行する代わりに、パーティの枠が空いてるならこの子も一緒に、ってお願いしたのよ」
「そゆことだ」
「もし嫌だったら…」
「あ、いや、そんなことないですよ!」
別に嫌なわけではない。
せっかくセシリアさんも手伝ってくれてるわけだし、申し訳なさそうな顔されると俺も困るというか。
「うるうる…」
ウゼェ。
やっぱり、余り関わらない方向で行こう。
うん、決めた!
今回は仕方ないが、俺のフレンド枠は死守させてもらう!!
※済




